第014話 機核三原則《きかくさんげんそく》
「機核療法士の用いるBRAIDには大きく分けて3種類の形態がある。
自身の肉体に装甲を纏う型、武器や器具を用いる型、アニマロイドやヒューマノイドをBRAIDとして使役する型がある。
それぞれの型には一長一短があり、各人の能力や志向に適したBRAIDを用いることが要される」
紙の教科書を開く古臭い授業スタイルで、凛とした雰囲気の女性教諭が声に出す。
パンツスタイルのスーツに身を包み、漆黒の髪は遊びを知らない。
見た目だけなら片桐たゆねにも引けを取らないが、学年主任という立場と第一世代機核療法士という肩書きが、言葉に出来ないオーラを放つ。
それ故に生徒は誰一人として私語や内職をせず、黙々と教科書やモニターの文字を追っている。
カズキらの通うこのLTSでは、一般の専修学校と同様に英・数・国・理・社、体育に美術といった授業も行われている。
午前中はそれら普通科の授業が行われ、昼休憩を挟んだ午後からは機療やAIVIS関連の講義や実習となる。
学年やクラスによって異なるが、1年次には週に2度の機療座学が必修である。
以前に出向いた現場での実習も、基本的には座学講義の無い日に行われる。
とはいえ機療の依頼が毎日あるはずもなく、生徒の多くはBRAIDの調整や体育館を利用した実践訓練に励んでいる。
それら自由度の高い実践授業に比べて座学授業を好まない生徒は多い。特に今日の講義は多くの生徒が嫌悪していた。
「では我々機療士が所有する使役型のBRAIDと、広く一般に普及しているAIVISの最も大きな違いは何か、御堂答えろ」
指名を受けた御堂ツルギは、「はい」と大きな返事をして起立した。
「AIVISには【機核三原則】のインプリンティングが義務付けられていますが、BRAIDには【三原則】による刷り込みが行われていません」
「それはなぜだ」
「機療に使役型のBRAIDを用いる場合、対象となるAIVISや周囲の建造物、つまり他者の財産に損害を与える可能性があるからです」
「よし、座れ」
張り詰めるような緊張の中、御堂ツルギは丁寧な会釈で着席した。
この授業が人気を得ない理由は、誰の目から見ても明らかであろう。
一部の生徒は「自分が指名されるのではないか」と慄いている。
「では【機核三原則】とはなにか答えろ。長瀬」
「え、俺ですか?」
そんな中でカズキは、ひどく落ちついていた。御堂ツルギとは違った意味で。
女性教諭はギロリと鋭くカズキを睨みつけた。
引き笑いを浮かべながら、カズキはゆっくりと立ち上がる。
「えーっと……【三原則】は、人を傷つけたり物を壊したり、法律違反をするなっていうAIVISが守らなきゃいけないルールのことで…」
「22ページ!」
教師の怒声に教室全体がビクリと震える。否、実際に空気が震えているのだ。
カズキは指定のページを捲った。
「あ、これか……【三原則】とはAIVISが人間に対し、決して危害や損害を加えられないよう、人工知能に刷り込んだ三条からなる最重要事項、です」
「第一条」
矢継ぎ早の一声が、座ろうとするカズキを止めた。
「AIVISは人間及びその財産に瑕疵(危害・損害)を与えてはならず、また法令や規則を遵守しなければならない」
「第二条」
「AIVISは人間の命令に従うことが絶対である。しかし、第一条に抵触する場合はその限りでない」
「第三条」
「第一条、第二条に抵触しない限りAIVISは自己を保全しなければならない」
「よし、座れ」
「はいっス」
「返事は「はい」だ馬鹿者‼」
今日一番の怒号が、窓や壁さえも震撼させた。
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