第10話 紅黒の魔獣対鉄機の復讐者
ラティナがクレムリンの迷宮で奮闘していた頃、リゼルは・・・・・・。
「へっ・・・雑魚が・・・・・・」
廃墟の町で多額の賞金がかかった彼を討ち取らんと襲いかかった狩人達が全員、地に伏して倒れている所を得意げに鼻を高くしていた。
多人数による人海戦術と帝国の科学が生んだ理導兵器の銃火器を用いられながらも見事、返り討ちにした。
むしろ全員の連携が上手く取れなかったからだ。元々、単独行動をする狩人がほとんどな上に高額の賞金で欲に駆られて仲間割れもあった。そういう事もあってリゼルの硬化能力による頑丈さと人外の力技によって戦略もへったくれも無く、あっという間に蹴散らしたのであった。
「クソっ!! 話が違うじゃねぇか!!」
「え!?」
狩人の一人が吐いた文句にリゼルは聞き捨てならずと反応した。それはつまり何者かが狩人達を扇動してリゼルを襲わせたという事だ。
「誰に聞いたんだ!?」
リゼルはつかさず文句を吐いた狩人の首を掴んで聞いた。
「話せ!」
「ぐぇ~~~っ!! あ、熱っ!! ご、ごれじゃぁ話ぜねぇだろ~」
『オレが言ったんだよ!』
「!?」
突如、廃墟の建物の上から飛び降りて来た黒い影。派手な音を立ててリゼルの目の前に着地したその影は長身のリゼルよりも高く、熊と思わせる程大きい巨漢であった。
「お前は!!」
『グハハハハ! 見~つけたぜー、リンカー!』
見た目、猪と思わせる鉄製マスクを装着していて、それに内臓されている電子拡声機が豪快な笑いと共に響いた。更にそのお男の体は全身が異常に筋肉が発達して、両腕が機械化されて兵器と化していた。
「・・・・・・誰だ」
『・・・ブ・・・ギャハハハハハハハ!!』
この猪マスクの巨漢は態とらしい様爆笑するフリをした。
「って何でそこで笑うんだよ⁉」
ここで忘れた事に驚いたり、怒ったりするのではなく笑われた事にリゼルは不可解に思ったが、彼にとっては何故か、この名前は覚えていないが巨漢の発する声色が心の奥底から不快さが浮き出す位耳障りで腹が立った。
「オレだよ! ゴウ様だよ!!」
この男の名はゴウと名乗ったこの男。かつて、リゼルが長き眠りから覚めてから数日後に襲いかかってきた機械化兵団の一人だ。彼らは記憶が失われる以前のリゼルごと本名リンカに強い怨みと憎しみを持っている様だ。
「この前は、てめぇにモイをやっちまってからどこかへ逃げやがって!」
「⁉」
(逃げた⁉ 俺が? 何言ってんだ、こいつ?)
リゼルは覚えていなかった。機械化兵団と戦っていた最中、ある出来事によりリゼルの理性が吹き飛び暴れ狂う状態になっていた。そしてゴウの仲間であるモイを倒した。それから暴れて死闘を繰り広げていた最中にアリス達に連れ去られていた。なのでその事の記憶も無かった。
リゼルがそう考えていると—―ゴウがいきなり突進してきた。
「もう逃がさねぇからな、覚悟しやがれ!!」
ゴウの凶器と化した鋼鉄の右腕がリゼルに向けて襲い掛かった。
リゼルは咄嗟に硬化させた両腕を交差した。防御の態勢をとったのだ。
自分の体は鉄の様に硬くなれる。念じれば更に硬度を高める事が出来る。鉄だろうと巨大だろうと敵の拳なんて防げる。リゼルは自身持ってそう考えていた。だが・・・ゴウの腕が両腕に触れた瞬間—―。
「うぐっ!?」
リゼルは地面を引きずりながら後ろへ後退させられる形に吹き飛んだ。
(!? ひ・・・響く!)
傷は、負ってない。だけど硬化したリゼルの腕は殴られた際に発生した衝撃と振動によって内部に響き、堪らなかった。
「どうだ! オレ様のパンチは!!」
(何が、起きたんだ!?)
リゼルは自分が何故吹き飛んだのか疑問に思った。
「おらぁっ!!」
再びリゼルを殴り飛ばそうとゴウは突進しながら右腕を大きく振り上げた。すると振り上げたゴウの機械腕から後ろに向けて火が噴いた。そしてリゼルに向かって砲弾の如く、勢い付けて殴りかかってきた。
リゼルは咄嗟に後ろへ跳躍した。
降り降ろされた拳はリゼルがいた地面へ叩き付けられた。そこは噴射力と重量によって破壊力が増し、地表が吹き飛んでゴウの拳程の穴が空いた。
(戦わなければやられる!)
そう判断したリゼルは黒鉄の爪を立てた右手で敵に向けて突き刺そうとした。
ゴウは迫るリゼルの右手を掴んだ。そしてそのまま握り潰そうと力を込めた。
そうはさせまいとリゼルは右手に念じた。熱くなるようにと。
掴まれたリゼルの手は段々と熱が高まってきた。ゴウは堪らず放りる様に放した。
ゴウは次の攻撃手段として図体の背中から担いでいた物を取り出した。
それはゴウの背丈程の大きさもある凶器、理導鋸だ。
レバーを引くとクォーツを動力にした機関が作動し、鎖状に連なった刃の歯が回転した。どんな太い物でも斬り裂く恐怖の兵器がリゼルに向かって振り下ろされた。
リゼルは最初、即座に左へ全体移動させて避けた。二度目の横斬りは後退、三度目は左上からの斬りをまた後退で避けたが、その時、左足の踵が石につまずき、バランスが崩れた。
転びそうになったリゼルに好機と見たゴウは理導鋸を真上に上げた。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
理導鋸の刃がリゼルの体に振り下ろされた。硬化した右手の甲に。
硬く、そして肥大化したリゼルの右腕は理導鋸でも木の様に直ぐに斬り裂く事は出来なかった。但し、理導鋸の回転する連鎖の刃は止まらず、じわじわと右手を斬り削っていた。
「グハハハハ! このまま斬って、てめぇの面ごとぶった斬ってやるぜ!」
「ぐっ・・・」
今のリゼルの体勢は転んで顔の上に右腕を上げたままの仰向けとなっていた。このままリゼルは右手も顔も理導鋸の餌食になるのは時間の問題だろう。
「ギャハハハハ! 死ね! 死ねっ! 死ねぇー!!」
大声で笑い狂うゴウ。マスクから血走った眼が見えた気がした。
「・・・理不尽だ・・・・・・」
小さな声でリゼルは呟いた。理導鋸の駆動音とそれによって発せられている音、正気ではない為かゴウはリゼルの声は聞こえてない様だ。
(何で俺がこんな目に・・・こんな変な奴にやられる様な合わなくちゃならないんだよ?)
リゼルは心の中にあるものを湧き上がらせていた。
(あ~腹立たしい~ムカつく!)
その湧き上がる感情の正体は怒りだ。
(殺してぇ・・・。殺す・・・。コロス! コロスコロスコロスコロスコロスコロスブッコロス!!)
リゼルは、切れた。理性を。
右手を斬り続けている理導鋸を掴んだ。
「ガアアアアア!!」
「!?」
リゼルが咆哮を上げた。その瞬間に理導鋸の刃の回転が止まった。そして掴んだ部分が蒸気を上げて真っ赤となり、真っ二つに折った。
「んはっ!?」
驚愕の声を上げるゴウ。
理導鋸をへし折ったリゼルの顔は、右半身が黒鉄に覆われていた。
リゼルの紅い眼が憎たらしき敵を睨んでいた。
「う・・・うおぉぉぉ!!」
恐怖を感じたゴウは右腕から火のクォーツを燃料にした噴射機関から火を吹き出し、リゼルに目掛けて殴りかかる。
同時にリゼルも迎え撃った。ゴウの機械の拳よりも大きくなった右手で掌底による迎撃を加えた。そして相手の手を破壊した。
「ぐげっ!」
ゴウの右手を破壊した後、リゼルは瞬時に左手を上げるとゴウの左腕を手刀で斧の如く叩き斬った。
「ぐぎゃぁ!!」
それから今度はゴウの胸を右手で突き刺した。それから左手も突き刺し、機械化された胸を左右分ける様に引き裂いた。
「ぎゃぁ!! や・・・止めろ!!」
リゼルは、止めない。再び開かれたゴウの胸に突き刺し、機械の部品を力づくで引き抜いた。
「やべろ!!」
それでもリゼルは止まらない。苦痛の声を上げるゴウの胸から容赦無く次々と部品や導線を引き抜いていった。
「やべでくでぇぇ!!」
そして止めないリゼルはついに内臓にも手をかけ、引きちぎった
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
断末魔の声を上げた後、ゴウは狂化したリゼルによってバラバラにされた。
大変、長らくお待たせしました。無印版「聖天魔物語」の最新話です。
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