第9話 赤頭巾の魔女
必死の逃走により疲弊したレンと鉱夫達を守る為、ディアボロス、グレムリンに立ち向かうラティナ。
「大丈夫なの!? 本当に」
ラティナが聖属性の理術で張った《聖域結界》から心配そうに尋ねるレン。
「大丈夫です! 先程の様に防御や足止めなら何とかは・・・・・・」
「クラエ!♪」
グレムリンの角から稲妻状の電気の光線が放たれた。
「え!? そんな、いきなりー!?」
電気の光線が高速にラティナに目掛けて一直線。動揺状態の彼女に当たる直前に—―突然と壁が破壊され、そこから小柄の人影が飛び出した。
「砂防壁!」
人影がラティナにとって聞いた事のある声で唱えるとラティナの目の前に砂で形成された壁が現れ、グレムリンの攻撃を防いだ。
「ラティナ様、もう大丈夫です」
「アリアちゃん!」
砂壁の理術でラティナを救ったのは別行動で別れた筈のアリアだった。
「ラッちゃん、大丈夫かい?」
アリアの背後、破壊された壁の穴から出て来たのは、迷宮に取り込まれた時、離れ離れになっていたクートスとダルマニャンだ。クートスの両手に氷から作られた様な青白色の水晶で出来た穂先のを槍を持っていた。
「クートスさん、とダルちゃん!」
「ラティナ様、あのグレムリンは偽物です」
ラティナの前に立つグレムリンを偽物だと断言して指差すアリア。
「本体は・・・・・・」
アリアが長い右袖から振り子型の霊装、スレッドオブトレイサーをぶら下げた。
「そこです」
アリアの言葉と共にスレッドオブトレイサーが上へと伸びていき、天井に突き刺した。否、すり抜けた。
「ウワ―――!」
すり抜けた天井から声が上げた。そしてなんとスレッドオブトレイサーの糸に縛られたグレムリンが落ちてきた。
「遊び感覚て楽しむ大抵のグレムリンはこの様に真上に隠れて偽物を操っていたのです。私の技能の一つ、ダウジングで突き止める事が出来ました」
「ムー、ズルスンナー!!」
自分が作った壁を破壊されてここまで近道した行為と安全場所から引き落とされた事にグレムリンは怒り、糸に縛られたまま立ち上がり、アリア達に向けて電気光線を放った。
「今度はボクに任せてー!」
アリアの前にダルマニャンが庇う形に出ると腹に装着しているベルト付き小型鞄型の【収納道具箱】のチャックを開けて中に手を入れた。そこから細長い針、金属製の爪楊枝の様な物を取り出して投げた。
「【身代わり避雷針】——!!」
道具の名を叫ぶと同時に上へ高く投げた。すると電気光線が投げた爪楊枝——【身代わり避雷針】の上方へ曲がり、それに当たった。
「!? ヌー!!」
狙った筈の攻撃が変な棒一本によって予期せぬ方向へ外してしまったグレムリンは、次の行動に移した。直ちに分身をニ体生み出して二人の不埒者を排除する為、突撃させた。
「では次は僕が・・・・・・」
今度はクートスが前に出た。
「《プロメッション・バースト》。 《序》——」
槍を一回転してから後ろへ下げると向かってくるニ体の分身グレムリンを水晶の穂先でまとめて腹に突き刺した。
すると、水晶は青く光り、突き刺されたニ体の分身グレムリンの体が霜に覆われ、やがては全体が氷像と化として凍った。この槍こそがクートス・キューの霊装だ。
クートスがニ体の分身を突き刺した内、本体のグレムリンからまた次々と生み出され、そのまま新たな六体の分身が突進した。
グレムリンの追行に感づいたクートスもまた次の行動に移した。
霊装の槍を一旦後ろへ引き抜き、半回転させた。反対側には小さく細めだが、蝋燭の火をそのまま形にした様な赤色の水晶の穂先が付いていた。
「《破》——」
そのまま凍ったニ体の分身に再び突き刺した。すると赤水晶の穂先から猛烈に震え始めた。
振動を加えられた二体の氷像は大きなひび割れが出来始めた。
「《急》!!」
次の宣言した後、赤水晶の穂先から真っ赤な光が照らされた瞬間——突き刺された氷像のグレムリンの背中が爆発した。
爆破により、砕け散った数多の氷の欠片が爆風に乗って白く濃い蒸気と熱波と共に六体の分身グレムリンを吹き飛ばした。
蒸気が散ると分身のグレムリン達は消失した。
「!?」
「これが僕の霊装、《フリーレンヒッツェ》」
先程、壁を破壊したのもこの《フリーレンヒッツェ》の能力によるものだ。
クートスの固有理術である《凍結昇華》。氷属性による凍結と蒸属性による水分蒸発のニつの混合属性の順次技術による特有の理術。それが槍として具現化した《フリーレンヒッツェ》を使えば、最初に青白の水晶の槍で対象を刺した時に急速凍結させ、次に反対側に付いている炎熱の赤水晶の槍で再び凍った物を刺した瞬時に振動させて構造を破壊する。最後にそのまま水分を蒸発させて完全に粉砕させるという恐ろしい武器なのだ。それが火力を上げれば水蒸気爆発も引き起こす事も可能である。
「・・・ヒィッ!!」
子供並の知性を持つ本人にとって未知の武器を持つクートスに恐れを感じたグレムリン本体は直ぐに別の行動に出た。
グレムリンが素早く左側の誰もいない方へ走った。そこへ移動した後に右手で振り上げると下から壁が生じ、クートス達との間を完全に隔ててしまった。
「あ、逃げた!?」
ダルマニャンの言う通り、グレムリンは逃げたのであった。
「あ、あちらにも!」
グレムリンが消えた反対側にも壁が生じて、ラティナとクートス、ダルマニャンの三人と《聖域結界》の結界内にいた鉱夫達から切り離されてしまった。
ラティナ達が生じた壁で切り離されて動揺している隙にグレムリンは急いで離れ様と奥へ走った。
「ナンダヨ! ナンダヨ、アイツハ!? トニカク、コウナッタラアイツダケココオイダサナクチャ・・・ア痛ッ!?」
突然鋭いもので噛まれ、グレムリンは痛みにより足を止めた。
痛みを感じた右足を見てみると黒い子犬に噛まれていた。ラティナ達と共にいて一緒にこの迷宮に入れたフェンだ。小さな体を生かして塞がれる直前に壁を素早く飛び越えてグレムリンを追い駆けた様だ。
「コ・・・コイツ、離レロ!!」
噛んでいるフェンを離そうと右足を上げ下げて振り回すグレムリン。
「良くやったわフェン・・・。もう逃がさないよ」
突如、グレムリンの目の前、何も無い筈の空間に赤と黒色の大きなニ対の刃、鋏の先端が一部突き出た。
「・・・・・・っ!?」
鋏のニ対の刃が左へ後に下へと移動する形に切り裂いていった。そして切り裂かれた空間の一部は紙の様に重力に従って下へと折れ曲がってそこから虚空に続く異空間の穴が開いた。
そこから真っ赤な色の頭巾を被った少女が出て来た。顔は頭巾の影に隠れて見えなかった。右手には先程、空間を切り裂いて開けた、明らかに持ち主よりも大きい赤と黒色の鋏を持っていた。
「よくもさっきは追い回してくれたわね・・・・・・」
「サッキ・・・・・・? マサカ、オマエハ!」
「覚悟しなさい」
赤頭巾の少女が鋏を持ったまま右手を上げると鋏の先に赤色の光子が集まって炎の紋章を描いた方陣が浮かんだ。
その方陣に今度は黒い光子が集まって暗い赤色の方陣に染めた。
「魔炎の精霊よ、あたしは命じる。怒りと怨みの炎を燃え上がらせ、憎たらしいあいつを焼き付けろ。怨炎!!」
暗赤色の方陣から同じ色の炎が噴き出た。
暗い炎は鬼の様な恐ろしい形相となり、グレムリンを喰らう勢いで襲い掛かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ゴメンナサイ・・・ゴメンナサイ・・・・・・」
「・・・・・・これ・・・一体何が起きたのかな?」
クートスが《フリーレンヒッツェ》で壁を破壊して逃げたグレムリンを追い駆けた。だが、追い着いた時、グレムリンは何かに怯え、懇願に許しを請う様に呟きながらうずくまっていた。よく見れば体が所々焼かれて焦げていた。
「ボクハタダアソビタカッタダケナノ・・・アソンデホシカッタダケナンダヨ・・・。パパモママモフダンアソンデクレナイカラビンターノ遊園地楽シンデイタノニガイコツノヒトタチニコロサレチャッタ・・・・・・」
「骸骨の人達・・・?」
どうやらこのディアボロスは生前、中々誰にも遊んでもらえなかった子供。両親と共にヴィンターに来た時に別のディアボロスに殺されたらしい。それで遊べなかった無念がディアボロスのグレムリンとなってしまったみたいだ。
泣きじゃくるグレムリンにラティナが後ろから優しく抱いた。
「?」
「私達がたくさん遊んであげましたからもうこの辺にして良い子はお寝んねしましょうね」
ラティナが酷い敵だった者に頭を撫でながら優しく説いた。
「・・・でも・・・・・・」
「ほら良い子だから」
ラティナの背中に《アンペインローゼ》の翼を顕現させてグレムリンを包み込んだ。
「ワァ・・・オネェサンノ体アッタカイ・・・ナンダガ・・・眠タク・・・ナッテキタ・・・・・・」
グレムリンの体が下から小さな光の粒子となって崩れていった。
「ゴメンナサイネ・・・・・・」
グレムリンの体が完全に消滅し、魂は“遥かなる天界”へと昇った。と同時に周りの壁もグレムリンと同様、消滅し始めた。
作り主であるグレムリンが昇天したから迷宮も崩壊して元の鉄の森に戻り始めたのだ。
「どうか・・・来世で幸があります様に・・・・・・」
それを確認したラティナは両手を合わせて祈りを捧げた。
「さすがだね、ラッちゃん」
「いえ、クートさんのお陰です。助けてくれてありがとうございます。ダルちゃんもありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
「本当に危ない所でしたね」
「あ、そう言えばどうしてアリアちゃんがここに?」
「リゼルさんを見つけました」
「え。それは本当ですか?」
「はい、それでリゼルさんの事はスタンさんに任せて私がラティナ様に教えようとここまで来ました」
アリアのスレッドオブトレイサーならラティナの追跡も容易いだろう。
「それでは・・・どうしましょうか・・・・・・」
ラティナが直ぐにでもリゼルに会おうとするか先に猫探しを済ませるか悩んでいると・・・・・・。
「やったね、お姉ちゃん!」
鉄の木の後ろからレンが出て来た。
「レンちゃん! どうしてここに?」
ラティナ達の許まで急ぎ足で駆けこんだレン。
「お姉ちゃんの事、心配だからここまで来たんだ」
「ダメですよ。危ないから」
「あたしは十五よ。子供扱いしないで」
子供扱いされた事に不満で口を尖らせるレン。
「ところでお姉ちゃんって・・・・・・」
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。良かったらあたしん家においで。お茶とか用意できるから」
「レンちゃんの家、近くにあるのですか? ・・・嬉しいですけど今は先にミケちゃんを探してからにしますので」
「ラッちゃん、この娘誰だい?」
「お姉ちゃん、この人誰? 彼氏?」
「ち、違いますよ」
「僕の名は、クートス・キュー。こちらのラッちゃんと同じ理術使いでいわゆる仲間さ。それでこちらは・・・」
「アリアです」
「それとこっちはご存じの通り、ダルマニャン」
クートスとアリアとダルマニャンは軽く紹介を返した。
「あ、え? 本当だダルマニャンもいる?」
「うん、こんにちは。ボク、ダルマニャン」
「えぇと・・・あたしはレン・・・。それで、こっちはフェン。あたしの・・・ペット」
自分も紹介を返したレンは足元にいたフェンにもクートスとダルマニャンに紹介した。
「レンちゃんとは迷宮の中で会いました。何でも散歩してた時に閉じ込められたみたいです」
「この危険区域を散歩に?」
「あ・・・いや、その・・・あたしん家はここに近くがあるんじゃなくて・・・む、向こう、鉄の森の外のから来たのよ」
ダルマニャンの疑問にレンは慌てた様に説明しだした。
「鉄の森の外から? ん~まぁ確かに向こう側なら全てか鉄の森じゃないから安全な場所で村や集落があってもおかしくないかな・・・・・・」
「ね、ねぇ、それよりもお姉ちゃん達、ミケちゃんという子を探しているみたいだけど」
「はい、私達は猫を探しています」
「それならあたしも手伝うよ」
「本当ですか?」
「うん、一応、助けてもらった事だし、とにかくお礼がしたいのよ。それなら良いでしょ?」
「ん~、僕は構わないけど、ダルマニャンはどうする?」
「う~ん・・・仕様がない。この娘をこのここに置いていく訳にはいかないし・・・。その前にさっきの部屋が在った場所に戻ろう。鉱夫の人達を念の為、門まで連れて戻るのも今回の依頼の一つだからね」
「私もその方が良いと思います。リゼルさんの事はスタンさんがいますからゆっくりでも大丈夫でしょう」
「うん、よろしくねー♪」
ラティナが初めて会った時の警戒心が強かった閉塞さとは打って変わり、今は明るく人懐こい性格を表していた。
(あれ? そう言えばユカリさん、レンちゃんと会ってから大人しいですね?)
(・・・・・・)
ラティナの右肩に大人しく、一言も口出ししなかった幽霊憑きの子熊の人形。
表情は分からないが彼女から出てるオーラは戸惑いの色が表していた。明らかにどこかリゼルの面影を感じられるレンの事を知っているみたいだ。
こうして悪霊憑きの猫探しの途中、ラティナ達は鉄の森で謎を秘めた少女、レンと彼女のペットだという黒い子犬のフェンを猫探しの仲間に加わった。
後にこの平和な国、ヴィンターで大きな騒動を引き起こす要因の一つになる事も知らずに。
謎の少女レンとペットのフェンを仲間に加えたラティナ。一方その頃のリゼルは?
という訳で今年の「聖天魔物語」もここまで。来年も応援よろしくお願いします。
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良いお年を。




