第7話 ディアボロスの迷宮
行方不明のリゼルをラティナに代わって探す事になったアリアとスタンチカ。二人は今、ファルブントモールの地下街にある酒場に訪れていた。
「・・・つまりあんた、世界一のハンターであるザンパル様は猫を見つけてまて良かったんだが、依頼主の家に連れた途端、化け猫になったのか」
「そうなんだ!! このオレ、世界最強、無敵で優しいハンター、ザンパル様が泣いて困っていたから命かけで猫を探してやったのに、その正体が化け猫だったなんで聞いてねぇーぞ!! ドッキリ番組だと思ったぜ、このやろー!!」
スタンの問いに怒り気味で返した酒瓶を片手にカウンター席に座っているこの強面髭面の大男。名はザンバル。ラティナの前に猫のミケ探しを受けていたのが、この世界一のハンターを自称している荒くれ男だ。
ハンターとは、帝国政府が指名手配を受けた犯罪者やディアボロスの様な未知の脅威から要人や帝国民を守る為、軍以外の者に理導兵器の使用許可を与えた賞金稼ぎの狩猟兵。政府が指定した“敵”を捕縛、または討ち、報酬を得る事を生業としている。特に二年前からの異変、すなわち幾多のディアボロスが表へと目立つ様になってから、ハンターはそれらの討伐を受ける者が多くなったという。ディアボロスを倒せばクォーツが得られる。そのクォーツを売る、もしくは理導兵器のエネルギーに使う事で利益が得られるからだ。
「そーだぜ!! こんなの依頼違反だぜ!! あんなバケモンをまた捕まえてこいなんて俺達には無理だ!!」
ザンパルの隣に大声で叫ぶスキンヘッドの男。以前、依頼主のミーレと揉めた荒くれ男だ。
「違ーよ、バカっ!! あの化け猫を無傷で捕まえろなんて心優しいオレ様には無理だから一旦辞めただけだよ!!」
「す、すいません!!」
ザンパルに怒鳴られて謝るスキンヘッドの男。彼と共にいたリーゼントの男はこの髭面の大男の部下で同じハンターだ。
ここの酒場に来る前もアリアとスタンはこの二人に先程の件について謝りたいとの事と重大な事を伝えたいと言われたからだ。
(本当は怖いからなのでは・・・・・・?)とアリアは思った。どう見て優しい性格には見えない以前に金の為ならばディアボロスの退治も受ける筈のハンターが断るのは恐れたからとしか思わなかった。初対面で会った時に堂々と言った「オレ様ありとあらゆる化け物を退治してきた世界最強のハンター、ザンパル様だ!!」も嘘だと思えた。
「そんな訳でおれ達はさぁ、辞めて貰い損ねた猫探しの依頼料の代わりを欲しければ、おれ達の代わりにやってくれる奴を探す為にあの芝居を兄貴と一緒にやらされたという訳なんだ」
リーゼントの男がファルブントモールの道中での騒動を起こした理由についてを説明した。
「そうだったのか」
「それで俺達はあの聖女のお嬢ちゃんに迷惑をかけたお詫びとして大事な事を教えようとした思ったんだがどうやら思い立つのか遅かった所為で一足遅れちまったな・・・・・・」
兄貴ごとスキンヘッドの男が髪を剃りきった頭を掻きながら説明を続けた。
「大事な事と言うのは三日前に鉄の森という場所で起きているという行方不明事件とかそこに魔女が住んでいるとかの事ですか?」
アリアは鉄の森で人が行方不明になっているという情報を既に入手していた。
「いや・・・その鉄の森の事ならあの嬢ちゃんなら多分何とかするじゃねぇかな? 何しろ聖女と呼ばれているだけに凄い奴だって聞いたからな」
「まぁ、間違っていませんね」
「それと魔女なんて本当にいるとは思ってねぇ。単なる迷信に決まってるぜ」
「おれ達が本当に伝えたかった事は、今ヴィンターはヤベェ事になっているらしいんだ」
「ヤベェ事?」
スタンは聞き返した。
「あぁっ・・・この国を担当する軍からの依頼でそいつらを片付けに俺達はヴィンターに来たんだ・・・・・・」
この後、アリアとスタンはザンパルの子分達からラティナに教えるかどうか迷っていた、この平和なヴィンターの裏で起きている衝撃の事実について聞かされた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今は亡き、ミリオネス氏の愛猫ミケを探しに鉄の木が生える“鉄の森”に訪れたラティナ達。しかし、入った後、突然と謎の部屋に閉じ込められ、ラティナは仲間のクートスとダルマニヤンとはぐれてしまった。そんな場所に見知らぬ黒髪の少女と出会った。
「・・・お姉さん、誰・・・・・・?」
見た感じ、歳は十五であろう黒髪の少女はラティナに何者かと聞いた。
「あ、私は精霊教会で癒療師をやっていましたラティナ・ベルディーヌと申します」
「精霊教会って・・・りじゅつとかと言う手品みたいな奇跡を起こす事が出来る人が沢山いて何でも怪我や病気を治せる聖女が納めているというあの教会の・・・・・・?」
少女は疑惑と警戒の目でラティナを見ていた。
「は、はい。その精霊教会です。貴女のお名前は?」
「・・・・・・あ・・・あたしはレン・・・・・・」
黒髪の少女はラティナに警戒しつつも自分の名前を答えた。
「レンちゃんという名前ですね?」
ラティナはレンと名乗った少女の顔を見つめた。
(あれ? レンちゃんの顔、誰かに似てますね?)
レンの顔を見ると何となく最近のある同じ黒髪の人物に似ている気がした。
「うん・・・・・・こっちは・・・フェン。あたしの・・・ペット」
ラティナの噓偽りの無い微笑みにレンという名の少女は少しだけ警戒心を緩め、フェンと呼ばれた黒い子犬は何やら不機嫌みたいになって顔をそっぽ向いた。見ればフェンの首と手足首に褐色の紐を編んで出来た輪が巻かれていた。
「ラティナさんも気が付いたらこの謎の部屋に閉じ込められたの?」
「はい・・・歩いていただけなのに突然と目の前に壁が現れて閉じ込められたみたいです」
「あたしもただ散歩しただけなのに歩いたら閉じ込められたの・・・。何かここ、いつもとは違うみたいでおかしいの・・・・・・」
(いつも? レンちゃん、この立ち入り危険区域にいつも来てるのでしょうか?)
「あの、レンちゃん—―」
ラティナはレンにどうしてここ、出入りを禁止されている鉄の森にどうやって入ったのか、何の目的でここに来たのか聞こうとしたその時・・・・・・。
「グルル・・・!!」
突然、フェンが唸りを上げた。
『ヨウコソーボクノ遊ビ場へ♪』
「「⁉」」
突然と声が響いた。二人はフェンが睨み、声が聞こえた方向へ向けると壁の一部が画面となっていた。そこから猫背で全身暗緑色で額に鋭く尖った角が生えていて顔まで長く垂れた耳を持った爬虫類にも毛の無い子犬人間とも見える不気味な小鬼が映し出されていた。
『ココハボクガ作ッタ迷路♪ ココカラ出タケレバボクト遊ボウヨ♪』
どうやらラティナ達がこの場所にいるは画面に映っているあのディアボロスの仕業の様だ。
「あ、遊びとは一体どの様に・・・?」
『鬼ゴッコダヨ♪』
「「鬼ごっこ?」」
『ソウ。君達ハボクト追イカケッコスルンダヨ♪』
「ふざけんなよ・・・。あたし達をここから出してよ!」
眼前の画面に映っている異形に嫌だという思いを込めて睨みつけて憎々しげに言うレン。
『ダメ♪ 出タイナラボクニ捕マラナイヨウニ逃ゲナガラ自分デ出口ヲ探シテ出ルンダネ。ソレガコノ鬼ゴッコノルールダヨ♪」
画面の小鬼の単純な説明が終えると左右の壁の一部が消えて通路が現れた。
『ボクニ捕マルト痺レルヨ♪ ココカラ先ノ壁ニ触レルノモ痺レルヨ♪ 気ヲツケテネー♪』
画面に映っていたディアボロスの姿は消えた。
「「・・・・・・」」
ラティナとレンは現れた二つの通路をそれぞれ一目で見た後、互いに目を合わせて顔を見た。
「もーーー!! 一体何なのよー、アレはー!」
レンは怒りの声を出した。
「あれはディアボロスです。どうやら私達のいるこの空間はあのディアボロスの仕業みたいですね・・・」
「おーーい、ラティナさーん!!」
突如、壁からダルマニヤンの声が聞こえた。
「ダルちゃん!」
「僕達はあの画面に出て来たディアボロス、グレムリンの作った“迷宮”に閉じ込められたみたいだよ!」
次にクートスの声がした。二人は、隣の部屋に分散されたみたいだ。
「グレムリンは、戦闘力は高くないけどこの“迷宮”を作れる程の強い魔力を持っている厄介なディアボロスだ。こうなってしまった以上、グレムリンの方が有利だ! そいつを満足させるか改心させて昇天させないと外に出られないだろう!」
「そうみたいですね」
「こっちは僕とダルマニヤン、二人いるけどラッちゃん、一人で大丈夫かい?」
「私の方ではレンちゃんという女の子が一人と子犬が一匹います」
「え? 女の子が?」
「分かった。それじゃあラッちゃんは僕達が合流するまでに、その子を守ってあげてー」
「分かりましたー」
「・・・今の声、お姉さんの仲間?」
「はい。私と同じ精霊教会の仲間です」
「ダルちゃんって・・・あの漫画のダルマニヤン?」
「はい」
「マジで?」
ラティナは嘘を吐く人には一目でも見えないと思ったが冗談を言ってるみたいだと思った。有名漫画のキャラクターが実在するとは思ってもみなかった。
「さぁ、クートスさん達と合流するまでにここはジッと待って・・・・・・」
そう言いかけた途端、ラティナ達の背後の通路から何かが入って来た。
それは先程まで画面に映っていた、体に鱗を生やした子犬人間の様な暗緑色の小鬼が右手を上げるとバチバチと音を立てて電気を発した。
「・・・どうやらジッとしない方が良いわね・・・・・・」
こうして小鬼のディアボロス、グレムリンによる命懸けの鬼ごっこが始まった。
悪戯好きのディアボロスに捕まったラティナ達は必死の鬼ごっこが始まった。そして、平和なヴィンターの裏に起きている衝撃の事実とは?
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