第6話 鉄の森
ディアボロスに取り憑かれた猫、ミケを探して“鉄の森”に訪れる事になったラティナ。そして彼女の護衛として共にするのは、前回のオルタンシアで知り合ったアリアと共に居た、彼女と同じ新人理術使いの青年、クートス・キュー。
「僕の事、クートとか好きに呼んで良いよ。あ、でもクーは駄目だからね。僕の師匠と被るから」
「そのお師匠様も名前にクーが付いているのですが?」
「うん、そうなんだ。そういう訳で貴女の事、ラッちゃんって呼んで良いかな?」
外見年齢は十八歳位の青年だが、子供みたいに人懐っこい性格で、精霊教会の者でありながら聖女ラティナに対して慣れ慣れしくあだ名で呼ぼうとしている。
「良いですよ」と笑顔で答えるラティナ。
最も多くの教会の者達が尊敬を込めて勝手に呼んでいるだけなので本人さえ嫌でなければ別にあだ名で呼んだり、呼び捨てにしたりしても咎めたりはしない。
「うん、よろしくね」
お互い、知り合って間もないが疑いを知らないラティナは当然の如く警戒心も無く、直ぐにクートスと打ち解け合っていた。
「ところでラッちゃんは“鉄の森”とはどういう所なのか知っている?」
「う~ん・・・・・・危険区域だと言う事位しか知りません」
「僕もヴィンターがクロイツ帝国と呼ばれていた頃から鉄の採鉱場位しか聞いた事無いんだよね。あ、歩きながら話している内に見えて来たよ」
クートスが指差す方向に巨大な壁と門が見えた。
「おーい!」
野太い声が聞こえた。
門の前に門番と思われる二人とその二人の間に立っている者の合計三人の人影が見えた。声をかけた者は真ん中の方だ。
「君達がスタン先生が言ってた二人だねー?」
身長は幼児位低い。だが、頭も胴体も幼児よりも二回り丸々と太い、手足が生えた雪だるまみたいな体型。
「え・・・? 嘘・・・・・・?」
声をかけた主の姿を見てラティナは驚いていた。彼の事はつい最近見知った後だから驚いているのだ。
「・・・あれってもしかして・・・・・・」
クートスも知っている人物だ。ただし、一目見れば人間じゃない。だからと言って妖精の国に棲息するドワーフではない。頭に糸で縫い、別の布で繕い直された獣耳が付いた帽子を被っていて、サクランボみたいな赤く丸い鼻に、短足、全身赤紫色した、髭も生えている狸の様な猫の様な着ぐるみ姿だ。
「やぁボク、ダルマニヤン。よろしくね」
ダルマニヤンと自称する雪だるまみたいな幼児位の着ぐるみがニカっと笑顔のまま、手を振った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
"ダルマニヤン"。
数々の不思議な空想科学と冒険を題材にした漫画を描いてきた、ロディオス大陸東の帝都区出身の有名漫画家、エフ・エフによって七〇年前に連載された子供向けの現代幻想日常笑劇漫画の主人公。猫と雪だるまを素に合体させた姿形で、心を持ち、自身で動く猫の魔法人形。
元々、捨てられた猫のぬいぐるみだったが未来の賢者イクセイの魔法で心と命を得たのだ。
自由に動ける様になったダルマニヤンはその恩返しとして、過去の多彩な不幸に見舞われたイクセイや彼の親族、友人達の運命を変える為、賢者イクセイが作った不思議な魔法の道具を使って過去の時代に行き、もう一人の主人公である十歳の頃のイクセイや親族・友人達願いを叶えるというのがこの漫画のあらすじである。
毎月毎に児童向け月刊誌で掲載される話は、勉強も運動も苦手で泣き虫弱虫な子供の頃のイクセイまたは彼の親や従妹達の悩みに合わせて多種多様の魔法の道具を使い、それらを解決して彼等を不幸に陥れた厄介者達を負かしては、逆に奪って不適切に使い続けた結果、しっぺ返しを受けて最後に悲惨な末路を追い込ませて反省させる話もあれば、感動的な終わらせかたにする話もあったり、イクセイをより堕落させようと目論むダルマニヤンのライバル的存在である謎の犬型魔法人形、ブルッケン男爵と争ったり等、様々な話が一話完結型で繰り広げられている。
誰もが「あんな事が出来たら良いな」という願いを叶える事を題目にして最終的には教訓になる事もあれば時には良い意味での感動的に与える終わり方もある夢みたいに不思議な話に魅了され、ファンとなる人が続出されている。
十年も超える連載は子供のみにならず、大人になっても愛好は衰えず、愛され続け、アニメ化にもな 十年も超える連載は子供のみにならず、大人になっても衰えない愛好者が多く、今も愛され続けて、アニメ化にもなり、映画化にもなった。
しかし、エフ・エフ氏が突然の難病でこの世から去った事により、漫画『ダルマニヤン』は最終回も迎えていないまま、連載が終わってしまった。だが、作者の没後でもアニメは終わらず、七〇年たった今でも放送されて、子供から大人までも全世界中で高い人気を誇っている。
今でこそ漫画『ダルマニヤン』は、伝説の漫画家エフ・エフが数々生み出した作品の中でも最高傑作とされ、原作者の代表作となった。
ヴィンターの主である聖女ステラもそんな老若男女問わず魅力されている『ダルマニヤン』の人気さに目を付けてダルマニヤンや仲間達を主題にした遊園地、"ダルマニヤンランド"の建造を実現させたのだ。
「まさか、あの有名なダルちゃんと一緒になるなんて夢にも思っていませんでした♪」
リゼルの屋敷で『ダルマニヤン』の漫画を読んでから彼のファンとなったラティナは嬉しい気持ちになっていた。そんな聖女も魅了されている有名漫画の一番星の主役が現実に実在しているのだ。
「着ぐるみじゃないの?」
クートスは疑わしそうにダルマニヤンをジロジロと見つめた。
「ボクの事はひとまず置いといて。ボクはスタン先生に頼まれて君達を手伝いに来た、正真正銘の味方だから。ここから先の“鉄の森”は危険な所だから気を引き締めた方が良いよ」
誤魔化す様に笑顔で強引に話を進めるダルマニヤン。
「その通りです」
「ここから先の“鉄の森”は以前から一般人を立ち寄らせない危険区域で怪我を負う場合もあります」
門番達が説明しながら大きな門を開けた。
「ふわぁ~、こ・・・これが鉄の森?」
開いた先に目にした光景は、全体黒い木が並んでいた。否、木ではない。鉄だ。なんと岩の地面から棒状の鉄が生えていて頭の先が複数に分かれて枝となり、見た目が木の様な形が一本一本並び立ち、正に“鉄の森”だ。
「鉄の森はガリア大陸で最も鉱属性のエレメントが豊富なこの地の中でも異状に強く影響を受けた場所です」
「あの鉄の木は地下から出た鉄の溶岩が固まった物です。今も熱しているので触るのは危険です」」
「元々、特級程ではなかったので鉄の採取場として盛んな所でしたが今は訪れた鉱夫達の中で行方不明となる事態が相次いています」
「古来から住み付き、大人しくしていた魔女が悪さを始めて鉱夫達を攫っている噂を聞きました」
二人の門番が交互に鉄の森について説明した。
「え? その鉱夫さん達が行方不明となっている話は初めてききましたが・・・・・・」
「本当にあの有名な魔女が住んでいるのですか?」とクートスが聞いた。
「噂ですから何とも言えませんが・・・行方不明の話は本当です」
「貴女方がこの危険な場所に入る理由もミーレ奥様から聞きました・・・・・・。聖女ラティナ様、守護騎士団のお二方、お気を付け下さい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「鉄の森の所有者はミリオネス氏なんだ。その人は元々、鉄製品を作って売り出す会社の社長だったんだ」
熱が未だ帯びている天然鉄の木に囲まれた道を歩きながらダルマニヤンがこの場所、鉄の森について語り始めた。
「社長だった人の奥さんの命令だから僕達はこの危険区域に入れたという訳だね」
「それで質問ですが・・・・・・。本当に魔女がここにいるのですか?」
かってラティナが通っていた“聖学院”で教わった恐るべき存在、“魔女”と聞いて不安そうに聞いた。
「・・・昔からヴィンターに住んでいた人達にとってはね、有名な話なんだってさ」
「大人しくしていた魔女が悪さを始めたと聞きましたが・・・・・・」
「そうなんだ。ここの魔女はあまり悪い事をした話がない事で有名なんだ。だから今まで噂程度しか知られていないし、今も本当にいるかどうかも分からないんだ」
「・・・・・・ちなみにその魔女さんはどんな—―ふわっ⁉」
何かにぶつかり、弾かれた。
鉄の木が無い道を歩いてきたからそれにぶつかった訳ではない。誰かにぶつかったのかラティナは慌てて前を見るとそこに黄色に光る筋が走る壁があった。
「え? 壁・・・・・・?」
今まで鉄の木に囲まれた道を歩いていた筈かいつの間にか前後左右上一面、同じく光の筋が入った壁に囲まれた部屋にいた。
ラティナは慌てて周りを見渡すとクートスとダルマニヤンの姿が無い。
代わりに一人の黒髪の少女と黒い毛の子犬が座っていた。
鉄で出来た場所からいきなり奇妙な部屋に移されたラティナ。そこで謎の少女と子犬と出会う。
続きが気になる人は応援ポイントか感想をお願いします。




