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聖天魔物語 ~この厳しく残酷な世界を癒しで救う聖女~  作者: 江戸ノ地雷屋
第3章 赤頭巾の魔女と紅血の瞳
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第4話 お人好しの聖女はほっとけない

「リゼル様は何処(どこ)へ行かれたのでしょうか・・・?」


 トイレに行ったきり戻ってこないリゼル。彼を心配してラティナは探しにフードコートから出た。

 最初、近くのトイレの周囲を探しては聞き込みしてみたがリゼルを見かけた人はいなかった。

 ラティナは場所を変え、この辺り—―先程昼食を取っていた屋内型食事広場(フードコート)を含め、雑貨店から服屋、菓子屋、玩具屋等々の様々な店が雨露防ぎ用の屋根付きで並ぶ国最大の商店街、ファルブントモール内を歩き回っていた。

 ふとラティナは先程、リゼルと言い争い、怒らせた(こと)を思い出した。


「まさか、嫌になったリゼル様は私を置いて行ったのでは・・・・・・」


「・・・・・・本当にすいません。うちの子が・・・・・・」


 ラティナの不安な呟きに聞こえた、肩の上に乗っかているユカリが謝った。


「あ、いえ、ユカリさんが謝る(こと)ではありません」


「私がこの姿でさえなければ直接説教したいのですが・・・・・・」


「今のカケルさんは記憶を失っていますから信じてもらえず話が通じないと思いますが・・・・・・」


「しつけーんだよ、ババアっ‼」


 突如、男の怒鳴り声が聞こえた。


「お願いします! 私のミケちゃんを助けて下さい‼」


「もう嫌だって言ってんだろ‼」


「お願いします‼ どうか、どうか、この通り—―」


 見れば七十代(ぐらい)の太った女性が坊主頭(スキンヘッド)と短めのリーゼントの男二人(ふたり)の服を引っ張りながら泣き()いていた。


「冗談じゃねーよ! 最初は()()()なんて簡単だと思ってたのにまさかあの猫かとんでもねぇ化物憑きだったなんてよぉ‼」


「そんでもってその猫はあの恐ろしい“鉄の森”に行ったって聞いたぞ! もう無理だ! この仕事、バンパ様に従って辞めさせてもらうぜ・・・・・・」


「そんな(こと)言わずにお願いします! お願いします‼」


 振り切って去ろうとする男(たち)、その二人(ふたり)を泣きながら決して離そうとしない老年女。この三名のやり取りに対し、周りの通行人(たち)は困惑と明らかに困り(ごと)だが「面倒臭そうだし、関係無いから関わりたくない」といった心情で見知らぬふりをしていた。


「あ、あの~」


 ただし、この場には困っている人を放って置けないかなりのお人好しの一名居た。

 懇願(こんがん)と否定による言い争いをしていた三人(さんにん)はかけた声に気が付き、一斉に振り向いた。


「よろしければ私がそのお仕事を引き受けましょうか?」


 行方不明者を探している最中なのにこの状況に無視する(こと)も我慢する(こと)も出来なかったラティナが右手を上げて声をかけた。


「なんだ~嬢ちゃん? 悪い(こと)は言わねぇ。あっちに行ってな」


「いや、待て! この嬢ちゃんよく見てみると・・・・・・」


 坊主頭の男がラティナを追い返そうとするとリーゼントの男が止めてラティナをじっくりと見つめた。


(なん)だ、知ってる奴か?」


「この子・・・・・・可愛(かわい)いな~」


 リーゼント男の頬を薄っすら赤く染め、鼻の孔を広げて興奮して鼻息を大きく吐いた。そのある意味の圧力のある顔にラティナも思わずたじろいた。


「確かによく見ると可愛(かわい)いな・・・・・・」


 坊主頭の男も右手で(あご)の下を持ち、ラティナの美貌の顔を見始めた。そんな時に老婆が「ごほんごほん」と咳をして、男(たち)は何やら慌てた。


「と、とにかく! 嬢ちゃんみてぇななよなよとした女一人(ひとり)には荷が重すぎる(こと)だ‼」


「そ、そうだ! 首突っ込むじゃねぇ! 子供は家に(けぇ)って、寝てな‼」


「で・・・でも・・・・・・」


「まぁまぁ。そこのお二人(ふたり)(がた)、血気盛んさも()いがここは冷静になってお嬢ちゃんの話を聞きなされ」


「そうだー! そうだー!」


 荒くれ者(たち)を止めるべく、また新たなる声が二人(ふたり)——否、一人(ひとり)と一羽が皆を振り向かせた。


「あ! 貴方(あなた)(かた)は——」


「おっ、(おれ)(こと)知ってんのかい、お嬢ちゃん?」


 声の主(たち)の正体は、ラティナがヴィンターで最初に訪れた場所で見かけた、サーカス広場で漫才を繰り広げた道化師風のスタンとオウムのパロットだ。


(なん)だー? おっさん、変な格好(かっこ)しやっがてよぉ!」


 リーゼントの男がスタンに突っかかった。


「おっさんではない。(おれ)は・・・・・・」


「変なおっさんだ」


「はい、そーです。変なおっさんです」


「・・・・・・」


 オウムの言うがまま、変なおっさんを自認するスタンにリーゼント男は(なん)て言ったら()いのか分からず、それ以上の言葉が出なかった。代わりに今度は坊主頭が突っかかった。


「おうおう、変なおっさんよぉ。とっとと(おれ)(たち)の前から失せねぇとお()ぇを()めるぞ!」


「何ぃ⁉」


 スタンは下を向いて自分のズボンを見た。


(おれ)、チャック()|いていたの?」


(ちげ)えよ! ズボンのチャックを()|めるんじゃねぇよ‼」


「そうか・・・おっさんのネクタイを直してくれるのか。君はなんて()い奴なんだ」


「ネクタイを()める、でもねぇ‼ ぶちのめすぞって言いてんだよ‼」


 怒りの余り、顔を真っ赤にさせてスタンを殴ろうと近づいた。


「ま、待て! 暴力はいかんぞ‼ ここは平和的に話し合おう! だから落ち着きたまえ! 落ち着こう! おちつこう」


 慌てた様子を見せたかと思ったら両手を、剣等の物を握る形にして上げたり、下げたりする素振りを見せた。まるである食べ物を作る為、ついている動作を。


「餅つこうじゃないか!」


「・・・・・・」


 この時、皆言葉が出なかった。ただ、リーゼント男の一声によって静寂が破られた。


「ぷっ・・・」


「受けてんじゃんぇよ⁉」


「はははっ。受けてくれたぞ。ねぇパロット」


「ヨカッタナー」


「はぁ・・・なんて調子狂うおっさんなんだ」


 スタンによって坊主頭は馬鹿々々しくなり、やる気を失せるとまた新たに声かかる者(たち)が現れた。


「おや。そこに居るのはラティナ様ではありませんか」


「あ、貴女(あなた)は——」


 一人(ひとり)は初めて見る、柔和な笑みを浮かべた水色の短髪の青年だが、声をかけた方のもう一人(ひとり)はまたしてもラティナには見知った人物だった。


「アリアちゃん?」


 オルタンシアで出会い、騒動を解決した後に別れた銀髪少女の理術(りじゅつ)使いのアリアだ。


「一週間ぶりです」


「ちょっと待て! ラティナ様って・・・・・・」


「聞いた(こと)あるぞ・・・。嬢ちゃん、まさか精霊教会の⁉」


「な、なんと貴女(あなた)様はあの有名な聖女のラティナ・ベルディーヌ様ですか⁉」


 ラティナの名を知ると先程まで泣いていた老婆がいきなり元気になり、彼女の目の前まで詰め寄った。


「は、はい・・・そうですが・・・・・・」


「良かった~私、貴女(あなた)様の(よう)なお(かた)を待っていました! 貴女(あなた)ならミケちゃんを救う(こと)が出来ます!」


 老婆はラティナの右手を掴んだ。


「詳しい話は家で話します。さぁ、こちらへ‼」


「え? ちょっ・・・きゃぁっ⁉」


 返答する前にラティナは老婆に引っ張られて連れて行かれた。


「ふむ・・・どうやら厄介(ごと)に捕まったみたいだわね」


「そうみたいだね。僕(たち)も付いて行こうか?」


「異論ありません。行きましょう」


 スタンとアリア、連れの青の三人もラティナ(たち)を追ってこの場から去った。


「「・・・・・・」」


 さっきまで老婆が泣き付かれて脅して荒くれの二人(ふたり)は置いてかれて立ち竦んでいた。

またしても厄介事をつっこんだラティナ。その次に待ち受けるのは魔女が住む地?

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