第4話 お人好しの聖女はほっとけない
「リゼル様は何処へ行かれたのでしょうか・・・?」
トイレに行ったきり戻ってこないリゼル。彼を心配してラティナは探しにフードコートから出た。
最初、近くのトイレの周囲を探しては聞き込みしてみたがリゼルを見かけた人はいなかった。
ラティナは場所を変え、この辺り—―先程昼食を取っていた屋内型食事広場を含め、雑貨店から服屋、菓子屋、玩具屋等々の様々な店が雨露防ぎ用の屋根付きで並ぶ国最大の商店街、ファルブントモール内を歩き回っていた。
ふとラティナは先程、リゼルと言い争い、怒らせた事を思い出した。
「まさか、嫌になったリゼル様は私を置いて行ったのでは・・・・・・」
「・・・・・・本当にすいません。うちの子が・・・・・・」
ラティナの不安な呟きに聞こえた、肩の上に乗っかているユカリが謝った。
「あ、いえ、ユカリさんが謝る事ではありません」
「私がこの姿でさえなければ直接説教したいのですが・・・・・・」
「今のカケルさんは記憶を失っていますから信じてもらえず話が通じないと思いますが・・・・・・」
「しつけーんだよ、ババアっ‼」
突如、男の怒鳴り声が聞こえた。
「お願いします! 私のミケちゃんを助けて下さい‼」
「もう嫌だって言ってんだろ‼」
「お願いします‼ どうか、どうか、この通り—―」
見れば七十代位の太った女性が坊主頭と短めのリーゼントの男二人の服を引っ張りながら泣き喚いていた。
「冗談じゃねーよ! 最初は猫探しなんて簡単だと思ってたのにまさかあの猫かとんでもねぇ化物憑きだったなんてよぉ‼」
「そんでもってその猫はあの恐ろしい“鉄の森”に行ったって聞いたぞ! もう無理だ! この仕事、バンパ様に従って辞めさせてもらうぜ・・・・・・」
「そんな事言わずにお願いします! お願いします‼」
振り切って去ろうとする男達、その二人を泣きながら決して離そうとしない老年女。この三名のやり取りに対し、周りの通行人達は困惑と明らかに困り事だが「面倒臭そうだし、関係無いから関わりたくない」といった心情で見知らぬふりをしていた。
「あ、あの~」
ただし、この場には困っている人を放って置けないかなりのお人好しの一名居た。
懇願と否定による言い争いをしていた三人はかけた声に気が付き、一斉に振り向いた。
「よろしければ私がそのお仕事を引き受けましょうか?」
行方不明者を探している最中なのにこの状況に無視する事も我慢する事も出来なかったラティナが右手を上げて声をかけた。
「なんだ~嬢ちゃん? 悪い事は言わねぇ。あっちに行ってな」
「いや、待て! この嬢ちゃんよく見てみると・・・・・・」
坊主頭の男がラティナを追い返そうとするとリーゼントの男が止めてラティナをじっくりと見つめた。
「何だ、知ってる奴か?」
「この子・・・・・・可愛いな~」
リーゼント男の頬を薄っすら赤く染め、鼻の孔を広げて興奮して鼻息を大きく吐いた。そのある意味の圧力のある顔にラティナも思わずたじろいた。
「確かによく見ると可愛いな・・・・・・」
坊主頭の男も右手で顎の下を持ち、ラティナの美貌の顔を見始めた。そんな時に老婆が「ごほんごほん」と咳をして、男達は何やら慌てた。
「と、とにかく! 嬢ちゃんみてぇななよなよとした女一人には荷が重すぎる事だ‼」
「そ、そうだ! 首突っ込むじゃねぇ! 子供は家に帰って、寝てな‼」
「で・・・でも・・・・・・」
「まぁまぁ。そこのお二人方、血気盛んさも良いがここは冷静になってお嬢ちゃんの話を聞きなされ」
「そうだー! そうだー!」
荒くれ者達を止めるべく、また新たなる声が二人——否、一人と一羽が皆を振り向かせた。
「あ! 貴方方は——」
「おっ、俺の事知ってんのかい、お嬢ちゃん?」
声の主達の正体は、ラティナがヴィンターで最初に訪れた場所で見かけた、サーカス広場で漫才を繰り広げた道化師風のスタンとオウムのパロットだ。
「何だー? おっさん、変な格好しやっがてよぉ!」
リーゼントの男がスタンに突っかかった。
「おっさんではない。俺は・・・・・・」
「変なおっさんだ」
「はい、そーです。変なおっさんです」
「・・・・・・」
オウムの言うがまま、変なおっさんを自認するスタンにリーゼント男は何て言ったら良いのか分からず、それ以上の言葉が出なかった。代わりに今度は坊主頭が突っかかった。
「おうおう、変なおっさんよぉ。とっとと俺達の前から失せねぇとお前ぇを絞めるぞ!」
「何ぃ⁉」
スタンは下を向いて自分のズボンを見た。
「俺、チャック空|いていたの?」
「違えよ! ズボンのチャックを閉|めるんじゃねぇよ‼」
「そうか・・・おっさんのネクタイを直してくれるのか。君はなんて良い奴なんだ」
「ネクタイを締める、でもねぇ‼ ぶちのめすぞって言いてんだよ‼」
怒りの余り、顔を真っ赤にさせてスタンを殴ろうと近づいた。
「ま、待て! 暴力はいかんぞ‼ ここは平和的に話し合おう! だから落ち着きたまえ! 落ち着こう! おちつこう」
慌てた様子を見せたかと思ったら両手を、剣等の物を握る形にして上げたり、下げたりする素振りを見せた。まるである食べ物を作る為、ついている動作を。
「餅つこうじゃないか!」
「・・・・・・」
この時、皆言葉が出なかった。ただ、リーゼント男の一声によって静寂が破られた。
「ぷっ・・・」
「受けてんじゃんぇよ⁉」
「はははっ。受けてくれたぞ。ねぇパロット」
「ヨカッタナー」
「はぁ・・・なんて調子狂うおっさんなんだ」
スタンによって坊主頭は馬鹿々々しくなり、やる気を失せるとまた新たに声かかる者達が現れた。
「おや。そこに居るのはラティナ様ではありませんか」
「あ、貴女は——」
一人は初めて見る、柔和な笑みを浮かべた水色の短髪の青年だが、声をかけた方のもう一人はまたしてもラティナには見知った人物だった。
「アリアちゃん?」
オルタンシアで出会い、騒動を解決した後に別れた銀髪少女の理術使いのアリアだ。
「一週間ぶりです」
「ちょっと待て! ラティナ様って・・・・・・」
「聞いた事あるぞ・・・。嬢ちゃん、まさか精霊教会の⁉」
「な、なんと貴女様はあの有名な聖女のラティナ・ベルディーヌ様ですか⁉」
ラティナの名を知ると先程まで泣いていた老婆がいきなり元気になり、彼女の目の前まで詰め寄った。
「は、はい・・・そうですが・・・・・・」
「良かった~私、貴女様の様なお方を待っていました! 貴女ならミケちゃんを救う事が出来ます!」
老婆はラティナの右手を掴んだ。
「詳しい話は家で話します。さぁ、こちらへ‼」
「え? ちょっ・・・きゃぁっ⁉」
返答する前にラティナは老婆に引っ張られて連れて行かれた。
「ふむ・・・どうやら厄介事に捕まったみたいだわね」
「そうみたいだね。僕達も付いて行こうか?」
「異論ありません。行きましょう」
スタンとアリア、連れの青の三人もラティナ達を追ってこの場から去った。
「「・・・・・・」」
さっきまで老婆が泣き付かれて脅して荒くれの二人は置いてかれて立ち竦んでいた。
またしても厄介事をつっこんだラティナ。その次に待ち受けるのは魔女が住む地?
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