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聖天魔物語 ~この厳しく残酷な世界を癒しで救う聖女~  作者: 江戸ノ地雷屋
第3章 赤頭巾の魔女と紅血の瞳
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第3話 飛び出し

「いや~(みな)さんどれも凄い芸でとても面白かったからつい、お昼まで時間かけてしまいましたね」


「ん・・・・・・」


 サーカス広場で曲芸師(たち)の芸を気が済むまで全て見終えた頃、時間帯は昼となっていた。ラティナ(たち)は広場を出て、昼食を食べに次の場所へ向かう途中だった。


「面白くありませんでしたか?」


「いや・・・」


 リゼルの顔は口を開いたまま、気抜けした感じだったのでラティナは《心眼(しんがん)》で見てみると驚きと感心の色のオーラが見えたので嘘はついていなかった。そう、リゼルも理術(りじゅつ)使い(たち)が見せた芸に()せられて、今は少々、呆然としていたのだ。そんな彼の気持ちを読み取ったラティナは微笑んだ。


(どうやらヴィンター(ここ)に来た甲斐があって良かったですね)


 ラティナ(たち)の周りには同じ(よう)に別の場所まで歩いて行く人々がいた。その移動する大勢の人に紛れてリゼルの背後に迫る人物がいた。

 その男はリゼルの後ろに近づくと右手をこっそりと伸ばし、手慣れた(よう)に彼の黒い外套(コート)の左側のポケットに右手を素早く突っ込んだ。この男は多くの財貨を持って集まるこの国(ヴィンター)でスリを得意とする盗人(ぬすっと)一人(ひとり)。彼はこれまで気を緩めて油断しきっている者から財布を盗んできたが、今回の狙った相手が悪過ぎた。

 リゼルはポケットに入れられた途端、敏感に察知し、ポケットに入れた後ろの男の手を右手で握る(よう)にがっちりと(つか)んだ。


(いて)てー!!」


「リゼル様⁉」


 男の悲鳴に気づき、ラティナを含めた周りの人々は一斉にその方向へ振り向いた。


「な、何しゃがんだよ⁉」


「それはこっちのセリフだ。(なん)だ、この手に持ってるのは?」


 リゼルが掴んでいる右手を持ち上げると男の手には財布が握られていた。


「い、いや・・・これは・・・あ(いた)たたたた‼」


 誤魔化そうとする男の右手にリゼルは相手の腕をへし折る勢いで握る手を強めた。


「返せ」


「は、はぃい・・・・・・」


 財布を盗もうとした盗人(ぬすっと)の男は恐怖に怯え、財布を手放した。それから骨の(ずい)まで痛めつけられた右手をぶら下げながらもリゼルから逃げる(よう)に去って行った。


   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「やっぱり、今のはやり過ぎだと思います」


「まだ言うんかよ・・・・・・」


 しつこく言ってくるラティナに呆れながら牛肉のパティとチーズとピクルスを挟んだハンバーガーを一口頬張った。

 ラティナ(たち)は今、多様な飲食店が円に隣接して店から買った料理や飲み物を内側のテーブルで食事する方式という巨大ドームの屋内型食事広場(フードコート)で昼食を取っていた。

 先程のリゼルが盗人(ぬすっと)(おこな)ったやり方に対してラティナはやり過ぎだと抗議し、現在にまで二人(ふたり)は口論を続けていた。

 二人(ふたり)の言い争いを見物している人々の中には先のスリ騒ぎで見かけた人も居てリゼルを恐れて警戒する視線もあった。


「あいつは俺達(おれたち)の財布を盗もうとしていた盗人だろ? なら痛い目に合わせてやるのはどーぜんだろ?」


「確かに泥棒さんはいけない(こと)ですが・・・だからと言って何もあの人の腕を痛めつけなくてもまでもいいじゃないですか」


 ユカリはリゼルの言い分も分かるがラティナの言う通り、やり過ぎだと思い、どちららか正しいのか分からず、ただ二人(ふたり)の口論を見守るしかなかった。そもそも今のユカリは小熊の人形の姿だからリゼルの前に出る訳にもいかないのでただラティナの後ろでオロオロするしか出来なかった。


「あそこまでやった方がまた盗みを働く気も失せるだろうが」


「ですが・・・・・・」


「あーもう! しつけーし、うぜぇー! 何度も何度も(おんな)(こと)を、繰り返し、言ってくるな―‼」


 とうとうリゼルの堪忍袋の緒が切れ、周囲の人目も構わず大声で怒鳴りつけた。


「す・・・すいません・・・・・・」


 リゼルの怒気に押され、ラティナは大人しく引き下がった。


「ちっ、たくよっ・・・・・・」


 ハンバーガーの最後の一欠けらを口に入れて、椅子から立ち上がった。


「あ、リゼル様、どこへ?」


「トイレだよ」


 リゼルはラティナから離れ、ひそひそ話や視線を気にしていないかの(よう)にフードコートの外にあるトイレへ向かって歩き出した。癇癪(かんしゃく)を起こしながら去って行くリゼルの後ろ姿にユカリは悲しそうに見つめた。


(ラティナさん、本当にごめんなさいね・・・。本当に昔はあんな子じゃなかったのに・・・・・・)


「いえ・・・ユカリさんが誤る(こと)ではありませんので」


 折角、普段から笑わないリゼルの(ため)に楽しめさせようとこの夢の地に来たというのに台無しになった気分となり、ラティナは溜息を吐いた。


   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(たくっ・・・本当にこういう時には生意気だな、あいつは・・・・・・)


 トイレを済ませた後、未だに苛立ちを沈み切れないリゼル。そんな状態の時に—―。


(⁉)


 何かを頭にぶつけられた。

 ぶつかった方向の下に向けると小石が落ちていた。それでぶつけられた(よう)だ。

 人間とはどういう訳か違うリゼルの体は鉄並みに硬い(ため)、小石程度では怪我(ケガ)どころが痛みも感じる(こと)も無く、ただ響くだけだった。

 頭を上げると向こうにある建物と建物の間、路地裏の陰から手が出て、挑発しているのか「こっちへ来い」と手降りしていた。


(喧嘩を売っているのか?)


 小石をぶつけられた痛みは感じなかったが、自分を攻撃する者、ムカつく(こと)を言う者、害する者を決して許さないリゼルは、再び怒りの炎を上げた。


(上等だ!)


 石を投げた犯人を追いかけようとリゼルは走り出し、路地裏の奥へと入って行った。

娯楽の国での最初で小さなトラブルからいきなり別れたラティナとリゼル。二人はそれぞれの出来事に突っ込み、やがて国全体を揺るがす大きな事件に巻き込まれるであろう。

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