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聖天魔物語 ~この厳しく残酷な世界を癒しで救う聖女~  作者: 江戸ノ地雷屋
第3章 赤頭巾の魔女と紅血の瞳
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第2話 サーカス広場

(ここがヴィンターか・・・)


 愉快な音楽が流れる娯楽の国、ヴィンターの出入り口である巨大な正門を前にしてリゼルは顔は無表情だが心の中で関心していた。


「ふわぁ、ふわぁ~。リ・・・リゼル様、ヴィンターですよ、ヴィンター! 楽しそうですね~」


「お前が楽しそうだな・・・・・・」


 うきうきと楽しそうに目を輝かせてはしゃぐラティナの姿にリゼルに呆れていた。

 ラティナもリゼルの突っ込みの言葉に気付き、顔が真っ赤になった。

 箱入り育ちのラティナとしては憧れの場所に来た(こと)で思わず喜びの感情を爆発してしまったのだろう。


「リ・・・リゼル様は楽しみだと思いませんか?」


「・・・・・・想像出来ないからピンと来ない」


「それならば中に入りましょう。きっとリゼル様も楽しめるものがあるかもしれませんよ」


 リゼルの右手を掴み、ヴィンターの中へ連れて行こうと引っ張った。リゼルも大人しく彼女に従って正門まで歩き出した。


「ようこそ、ヴィンターへ」


 窓口の受付嬢が笑顔でラティナ(たち)を迎えた。

 正門はかつて軍事国家時代の砦であり、現在は改修されて中は広いエントランスとなっており、ラティナ(たち)はそこでヴィンターの入国手続きを(おこな)った。


「入国するには身分を証明する物が必要ですが(なに)かお持ちですか?」


「これで()でしょうか?」


 ラティナは精霊教会の証である十字架のロザリオを取り出して受付嬢に見せた。


「私、精霊教会の者です」


「ちょっとお預かりしますね」


 受付嬢はラティナからロザリオを預かり、本物か偽物かを確かめる(ため)、じっくりと見定めた。


「失礼ですが、理術(りじゅつ)使いの(かた)でしたら出来ればあまり目立ちすぎない程度で(なん)でも()いので何か証明するものを見せてくれませんか?」


理術(りじゅつ)使いだと証明するものですか? これはどうでしょうか?」


 ラティナは右手から薄紅色の傘の姿をした霊装(れいそう)、《アンペインローゼ》を顕現して見せた。


「ふむ・・・・・・霊装(れいそう)を具現化出来る(かた)ですね。ありがとうございます。こちらのロザリオも本物だと確認しました。お返しますね」


 預かっていたロザリオを元の持ち主であるラティナに返した。


霊装(れいそう)って理術(りじゅつ)使いならば誰でも使える(よう)なもんじゃないのか?)


 疑問を思ったリゼルは後で——正門から出て次の目的地まで移動している最中——ラティナに聞いた所、霊装(れいそう)は使い手の戦う意志によって固有理術(こゆうりじゅつ)を武器として具現した物であるが(ゆえ)に共和国領では農業や生産業(など)戦いとは無縁な生活を送っている人もいるので(いま)だに霊装(れいそう)を持たない人もいるらしい。


「そちらの(かた)理術(りじゅつ)使いですか?」


 リゼルにもラティナと同じ理術(りじゅつ)使いなのかと聞かれていると察して返事の代わりに右手を黒い鉤爪に硬化してみせた。


「ありがとうございます。こちらのロザリオも本物だと確認しました。お返しますね」


 リゼルも理術(りじゅつ)使いだと思い込んだ受付嬢は預かっていたロザリオを元の持ち主であるラティナに返した。


「本日はヴィンターにどの(よう)な理由でお越しになられたのですか?」


「今日はただ観光しに来ただけです」


「そうですが、それでは理術(りじゅつ)使いの方々は年間パスポートをお(すす)めします」


「年間ぱすぽーと?」


「入国を許された証でこの券一枚で一年間でヴィンター中のアトラクションを遊ぶ(こと)が出来たり、美術館や博物館(など)の展示施設を無料で入館する(こと)が出来たりします。本来ならば一枚で三万アウルになりますが理術(りじゅつ)使いならばお一人(ひとり)様、千アウル。二人(ふたり)でニ千アウルになります」


 慣れている(よう)で年間パスポートについてぺらぺらと解説する受付嬢。


(よーする国に入るには金が必要かよ・・・・・・)


 以前訪れたオルタンシアとは違い、入国に代金が必要だという(こと)にリゼルは少々不満だと思った。


「分かりました。ではそれにします。リゼル様、お願いします」


「ん」


 ラティナに言われてリゼルは窓口の受付嬢にニ千アウル分の代金を払った。ラティナが持っているとお金を落とすか騙されたり、盗まれたりする恐れがあるのでリゼルが財布役として預かっていた。


「そうしましたらお写真撮らせて貰いますね♪」


 受付嬢はカメラと呼ばれる機械式の道具を取り出し、ラティナとリゼルの顔をそれぞれ撮った。それからしばしの間を取ると窓口から二枚のそれぞれに二人(ふたり)の顔写真が張り付いた掌(サイズ)(カード)と黒い印肉を窓口から差し出した。


「お次はこれを指一本で付けてご自分の写真が貼られた方の札の白く四角い部分に押して下さい」


 二人(ふたり)は受付嬢の言われた通り、顔写真付きの(カード)にある四角い部分に指紋を押した。


「終わったらその札を持って下さい」


 札を持つと押されて(うつ)された指紋の跡が黒から蒼銀色に薄っすらと光った。


「これでパスポートの完成です」


「ふわぁ~なんか光りましたが」


「ふふっ・・・この印肉はある特殊な鉱物で作った物で押した本人が持つと理力(りりょく)に反応して光る(よう)になっています」


成程(なるほど)~、これなら本人だという証になりますね」


「・・・なんか、すごいな・・・。こんな便利な物があるなんて・・・・・・」


「これもヴィンター(この国)の創立者である聖女ステラ様が作った物の(ひと)つです。くれぐれも無くさない(よう)に気を付けて下さいね。後はこの国の地図もどうぞ」


 受付嬢から二人(ふたり)分のパスポートとヴィンターの施設に関する解説付きの全体地図を受け取ったラティナとリゼル。


「それでは()ってらっしゃいませ。娯楽の国、ヴィンターに良い旅を♪」


 こうしてヴィンターに入国を許されたラティナ(たち)


「それでどっから()くんだ?」


 リゼルに聞かれてラティナは(もら)ったヴィンターの地図を広げた。


「そうですね・・・・・・それならまずはここから近い“サーカス広場”からはどうでしょうか?」


「サーカス広場?」


「色んな曲芸師や手品師が集まる広場だそうです」


   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 大正門から目と鼻の先にある最初の場所、サーカス広場は、名前の通り、ヴィンター出身(ある)いは他国から来た有名無名問わない曲芸師や手品師(たち)が週日にち時間(ごと)に入れ替えては得意自慢の芸がいつでも見られるの大広場。今日もこの広場を管理するの主から許可を得て指定された場所で観客(ゲスト)(たち)驚愕(きょうがく)で華麗な芸を見せ付けていた。

 例えば和の国から来た、(サル)を二本足歩きをさせる(サル)回しの芸者や一輪車を乗りながら両手で十本のピンを宙に、輪を描く(よう)に投げ上げては交互に受け止めて繰り返していくジャグリングをこなしていく曲芸師、木と木の高い位置の間にロープを張って綱渡りをする軽業師(など)が観客を集めていた。


「ふわぁ~本当に(みな)さん、凄いですね~」


 曲芸師(たち)の凄くて珍しい芸をきょろきょろと見回っては率直な感想を述べるラティナ。


「・・・むしろ、あれとあちらの方が凄いんだが・・・・・・」


 リゼルが指差す二箇所の方向には誰よりも観客を多く集めていた。というのも彼()(おこな)っている演技が目を疑いたくなる程の奇跡を起こしているからだ。

 一人(ひとり)目はヴァイオリン使いの音楽家だが、彼が引くと同時に金色に煌めく粒子が(かな)でる音楽に合わせて音符の形となり、華麗に舞い上がり、幻想的に見せていた。

 二人(ふたり)目は唐辛子を食べると火を噴く褐色肌の男だが、単純に口から火を噴くだけではなく、吐いた炎が(ヘビ)となって宙を舞っていた。

 彼()の驚くべく奇跡の(よう)な演技がより多くの人々を歓声上げさせて(とりこ)にさせたのだ。


「あいつら理術(りじゅつ)使いだろ」


「そうみたいですね。この国に住んでいる理術(りじゅつ)使いか“自由人(フリー)”の(かた)かもしれませんね」


「ふりー?」


「はい、精霊教会に属さない理術(りじゅつ)使いの(こと)です。共和国領にも住まずにあの方々(かたがた)みたいに曲芸師か手品師となって生活費を稼いでいる聞いた(こと)があります」


「へ~、まあ、手品だと言い張れば連中も納得するだろうな・・・・・・」


「さぁ、どの(かた)の芸を見ましょうか・・・・・・」


「さあさあ、寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい!」


 ラティナ(たち)はどの芸を見ようかと考えていると人際大きな声が聞こえた。

 大きな声がした方向に向くと観客が何処(どこ)も比べると一番少なく、十数人程度に集まっていて、その人(たち)が見ている先に奇妙な男が居た。

 どこか奇妙かというと顔中を白く塗り、鼻の下に先を巻き毛(カール)にした髭を生やして丸眼鏡をかけた、如何(いか)にも道化風の赤い服を着た年配の男で右手に持っている杖の上に暗緑色をしたオウムが乗っかていた。


「わたくしの(こと)、スタンとお呼び下さい」


「オレ、アロニー。こいつの相棒」


 スタンと名乗った男の次にアロニーという名の暗緑色のオウムが喋り出した。


「これから皆様に面白い話を聞かせましょう」


「ほうほう・・・どんな話だ?」


「この国はその昔、軍事国家だった(こと)は知っているかな?」


「ああ、知っている確か名はクロイツ帝国でガリア大陸を征服しようとしていたんだったな」


「そうだ、しかしそのクロイツ帝国は後に大帝国と呼ばれる(こと)になるロディオス帝国に敗れ、当時の王が死んだ後に次の皇位と政策をかけた内乱によって国は一時に滅び、(のち)にヴィンターの主となる“銀貨の聖女”ステラ様が買い取り、今の娯楽の国として作り直したのだ」


「それならば昔のクロイツなんて滅んで良かったんじゃないのか?」


「そうだな・・・戦争ばっかり起こす国なんてろくなもんじゃない・・・人が大勢死ぬ・・・。その戦争の犠牲者であったステラ様は同じ境遇の子供(たち)(ため)に今の喜びと楽しさ(あふ)れる国に変えたのだ。()()なんてもう絶対に()()()()!」


「・・・・・・」


 このスタンの言葉によって空気が凍った。


「おい、お前の下らない駄洒落(ダジャレ)(みんな)凍っちまったぞ! 大体、これの何処(どこ)か面白い話になんだよ、この三流芸人!」


「んだと、この鳥!! 今日の晩飯にすっぞ!!」


 怒ったスタンがアロニーを掴もうとするが上に飛んで避ける。


「相棒を食う気かよ! へっぽこオヤジ!!」


(くちばし)でスタンの短い黒髪の頭に一撃を入れるアロニー。


「あ痛っ!! こいつ、この恩知らず!!」


「どんな恩だよ⁉」


「忘れたのか⁉ (おれ)も忘れたわ!!」


 この道化の男とオウムの叩き合いによる喧嘩のやり取りによって観客(たち)は笑いが込み上げた。


「・・・あの・・・喧嘩を止めた方が()いのでしょうか?」


「いや、ほっとけ。多分、これは漫才と言って芸の(ひと)つだろう・・・・・・」


 リゼルには道化師風の中年男とオウムの喧嘩が(なん)かわざとらしく見えた。


「ええ、そうよ。あれも彼・・・スタンさんの得意とする芸の(ひと)つなのよ。あの人はいつもダジャレを言って滑った時には相方のオウムと喧嘩する振りを見せて笑わせようとするのよ」


 ラティナ(たち)の隣に立っている観客のおばさんが答えた。


「あの人は道化師役者が本業だ。ダジャレはつまらないがボケ役は最高だよ」


 おばさんの夫であろう、二人(ふたり)の息子であろう楽しそうな目で見ている小さな男の子を肩車している男も答えた。


「そうですか・・・・・・」


 ラティナはむしろスタンと喧嘩しているオウムが妙に不自然だと思えて気になっていた。

娯楽の国の最初の驚きと笑いを呼ぶ地に踏み入れたラティナ達。しかし次話は最初の受難も訪れ様としていた。

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