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聖天魔物語 ~この厳しく残酷な世界を癒しで救う聖女~  作者: 江戸ノ地雷屋
第3章 赤頭巾の魔女と紅血の瞳
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第1話 ヴィンターへ行こう

「リゼル様~そろそろ出掛けませんか~?」


 数多の本を乗せた本棚が多く立ち並ぶ図書室、その部屋の中心に行儀悪く前のテーブルの上に両足を置き、漫画という本を読みながら椅子に座っているリゼルに居候中のラティナが話しかけた。

 オルタンシアの事件を収束させてリゼルが住処(すみか)にしている、何処(どこ)かの場所の館に戻ってから一週間、ラティナとリゼルはここで休みを取っていた。掃除に洗濯、料理の家事をさせられはしたがプランタンでは滅多に取れなかった長い休日でもう十分に休息したラティナはリゼルに外へ出かける(よう)に進めた。


「出掛けるって・・・・・・?」


「この館にあった食料もそろそろ尽きそうですし・・・これも見て下さい」


 ラティナは手に持っている【転移門の鍵(ゲート・キー)】を見せた。鍵の形をした道具(アイテム)に付いている宝石部分は空色に光っていた。


「【転移門の鍵(ゲート・キー)】の宝石部分(ここ)が光っているとうい(こと)は今、この(かぎ)が使えて今なら何処(どこ)へでも行けますよ」


「・・・・・・何処(どこ)へ、行くんだ?」


「ヴィンターへ行こうと考えています」


「ピンター?」


「ヴィンターです。ガリア大陸にある国の(ひと)つでそこはとても大きな美術館や博物館に劇場、それから店が凄い数のある商店街とそしてなんと街そのものが遊園地となっている世界最大の娯楽国だと話に聞きました」


「ふ~ん」


「私、一度(ぐらい)は行ってみたいと思いました。もの凄く楽しいらしいですよ。リゼル様も楽しめそうな所があるかもしれませんしよ。お金もオーロックさんから沢山(たくさん)貰いましたし・・・」


「ん~そうだな・・・・・・」


 リゼルは少し考えて、そして決めた。


「んじゃ・・・行くか」


「本当ですか」


 子供の(よう)に無邪気な感じに(きら)めかせて喜びの顔を(あらわ)すラティナ。


「お前の作る(めし)不味(まず)いからそろそろマシな料理(もん)、食いたいしな・・・・・・」


 リゼルのきつい苦情(セリフ)によって喜びから申し訳無いといった暗い気持ちに切り替えられた。

 この一週間、ラティナが(おこな)ってきた掃除や洗濯では平等社会であるが(ゆえ)に箱入り娘だが聖女だからといってもそこまでお嬢様扱いにせず自らも積極的にしてきた(ため)、上手に出来たか料理は、彼女が包丁を恐れる余りに扱いが下手な(ため)、作った料理も味付けはそれなりに悪くは無いのだがそれでも不味(まず)かった。


「あう・・・すいません・・・・・・」


「それじゃぁ、準備させろ」


「は・・・はい、出掛ける前の準備ですね。分かりました」


 椅子から立ち上がったリゼルは準備の(ため)、自室へ向かおうと図書室から出た。

 一人(ひとり)残されたラティナは息を吐いた。


「はぁっ・・・取りあえずはリゼル様をヴィンターへ連れて行く(こと)は出来ましたね・・・・・・」


 実の所、前からヴィンターに行きたい気持ちもあるがラティナが決めた訳ではなく、昨夜、就寝する直前にかつてプランタンの大聖堂にも何処(どこ)からともなく現れたあの不思議な鏡が出現し、その鏡から“世界の聖女”アリスが現れてヴィンターに行く(よう)(すす)めたのだ。


「正直に言えば、ヴィンターには私と同じ癒漁師(聖女)のステラさんがいるからリゼル様の記憶を戻して貰おうかと考えていましたが・・・・・・」


 ラティナと同じ、癒漁師(ゆりょうし)にして“銀貨の聖女”ステラ。彼女が担当する国がヴィンターであり、帝国領に属しているが共和国にとっては全国でただ唯一の両立国でもあるのだ。何故(なぜ)かと言うとステラが()けた商才と固有理術(こゆうりじゅつ)の力で得た財力を持ってかつて(ほろ)びそうになっていた国を丸ごと買い取り、娯楽の国へと作り直したのだ。だからこそ“娯楽の国”ヴィンターは帝国領で唯一、聖女が在席している国でもあるのだ。


「今思い出したのですが、私・・・リゼル様と一緒にいる(ため)、精霊教会から抜け出した身でした・・・。どうしましょう・・・・・・」


 ラティナは右肩に乗せている小熊の人形に話しかけた。両手(サイズ)の小熊は「いや、私に聞かれても・・・・・・」と言いたげに首を傾げた。

 この小熊の人形は、リゼルごと本名、カケルの母であるユカリの霊が宿っていた。

 オルタンシアで息子(リゼル)を心配して付いて来たユカリ。媒介が無いままだとまたディアボロスになってしまう恐れがある(ため)、今は人形に宿り()いたのだ。リゼルを前の善良なる人間に更生させる(ため)と行方不明になった他の家族を探して彼()の行く先を見届けて未練を無くす(ため)に。


(教会に戻ったら?)


 人形に声帯が付いていない(ため)、ラティナにしか聞こえない念話で話しかけてきた。


「戻ったら二度とリ・・・カケルさんとは一緒にいられなくなりますし、教会の上の方々がやっつけてしまうかまた封印してしまうかもしれませんよ? だから教会には戻る訳はいきませんので・・・・・・」


(やっぱりその精霊教会はカケルを許すつもりはないのですね・・・・・・)


「直接聞いた訳ではありませんが・・・恐らく皆さんはカケルさんの過去を知らずに倒そうと考えているでしょう・・・・・・」


(ユカリさんも何故(なぜ)、あの(かた)があの(よう)能力(ちから)を得てしまったのか詳しく知らないみたおですし・・・・・・)


 ユカリから聞いた話によると彼女の死後にリゼルの怪力と体を硬化させる理術(りじゅつ)とは違う異能力を得てしまったが、その奇妙な力を得た時を見ていないので彼に何があったのかは知らないと言う。ただ傷害事を起こした時、カケルの左手の甲に謎の紋章が有ったという。


「・・・そう言えばヴィンターには“ルーン”という紋章みたいな(もの)を扱う人がいると聞いた(こと)がありましたが・・・・・・まぁ、行ったら考えるしかありませんね」


(大丈夫ですが)


 ユカリが不安だと分かる程、弱々しい音長の念話で話しかけた。


「不安だと思うのでしょうか、どうしたらいいのかと悩んでもしょうがないからまずは行ってから考えるのが大事だと思っています。アリスさんもきっと何があるからこそヴィンターに行く(よう)に教えたのでしょう」


 昨夜に会った本物の“世界の聖女”ならば彼女は噂通りであれば不幸が起きる未来を予言する能力があると聞いた。

 初めてアリスと出会った時から同じエンジェロスの理力(りりょく)の波長を感じたのか不思議と彼女の言葉には信頼を感じた。


   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 【転移門の鍵(ゲート・キー)】を使い、館から空間転移してきたラティナとリゼル(それと小熊人形のユカリ)。


「着きました」


 四度目なので慣れたのか空間転移に酔いも全くなかった。


「・・・ここかヴィンター、か・・・・・・?」


 周囲を見回しながら呟くリゼル。着いた先が長方形に加工されて組み込んだ石の壁に囲まれた薄暗い地下だった。


「間違っていなければヴィンター(ここ)転移門(ゲート)がある所は地下なのでしょう・・・。取り敢えずあちらへ進んでみましょう」


 ラティナが指差した方向には石造りの壁に付着している緑色に光る胞子状の物体が暗闇の地下を照らしていた。


光苔(ひかりこけ)ですね。ヴィンターではその(よう)(もの)が生えていると聞きました」


 しばらく光苔(ひかりこけ)によって照らされた道を歩いていると見張りであろう一人(ひとり)の男と出会った。


「共和国領から来た(かた)ですか?」


「え・・・えと・・・・・・」


「はい。プランタンから来た理術(りじゅつ)使いの者です」


 ラティナに変わってリゼルが平然と嘘つく(よう)に答えた。


「観光目的ですか?」


「はい、そうです」


 リゼルが答えると見張りの男はにこやかに笑った。


「ここから階段を登ればヴィンターです。足元に気を付けて下さいね」


 見張りの男が指した方向には石で出来た階段があった。


 ラティナとリゼルはゆっくりと石の階段を登って行った。

 やがて暗緑色の金属の扉がある階へと登り切った。

 リゼルは扉を開けようと手にかけた。

 扉は鉄では違うみたいで軽く開いた。

 扉から太陽の光が漏れ出し、リゼルが眩しさの余りに放して両腕で目を覆うと扉が一人(ひとり)に開いた。


「「ようこそ、娯楽の国、ヴィンターへ!!」」


 開いた先の外から扉を開けたであろう二人(ふたり)の女性が笑顔でラティナ(たち)を出迎えた。

 その向こうの先には祭り時の(よう)な音楽と人々の声が溢れ流れ、オルタンシアの町とはまた違った楽しさと賑やかさを感じさせる町々が見えた。

この3月でも本業の残業地獄と死んだ祖母の一周忌を行いながらも小説を書き、取り敢えずは何とか最新話を完成させて載せる事が出来ました。

今度の舞台である娯楽の国に着いたラティナ達はまたしても大きな事件に巻き込まれる事になるのだ。

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