第13話 “怨電顔蟲”ギガボルトレギオン 後篇
カタコンベではギガボルトレギオンによる雷撃の嵐の攻撃で轟音と電光、そして破壊が続いていた。
アリアもラティナが行った水の精霊召喚により、水属性のエレメントの増大と理術が強化され、反撃していた。
「おらぁぁっ!!」
リゼルも今度は雷で壊された電灯を持ち上げて敵に向けて投げた。
大部分が金属の機械である電灯なら雷を受けても破壊されなかった。だが、ギガボルトレギオンの頭の一つが口で受け止めて嚙み砕かれた。
「くそう‼ これもダメかよー‼ なんか、オルタンシアに来てからの俺、全然ダメだ~!」
リゼルは昨日から全く活躍出来ていない悔しさの苛立ちの余り、右足で地団駄を踏んだ。
「私も水の精霊さん達やランスロットさんを呼んだだけで何も活躍出来てませんよ~」
ラティナはおろおろしていた。
「そこだよ!!」
「ふぇっ⁉」
行き成りリゼルに指を指されて驚くラティナ。
「お前、さっき翼みたいな物を使ったのに、あの騎士、遅いじゃん! 何で遅いんだよ!! 失敗か? “召喚”な、だけに、精霊みたいに、直ぐに、パッと来ないんかよー!!」
「申し訳ありません・・・・・・。私・・・“召喚師”の技能を持っていませんから転移門みたいに空間を飛び越えて呼ぶ事は出来ません。ですからランスロットさんはここまで来るのにどうしても時間がかかってしまいます・・・・・・」
「・・・・・・つまりは、召喚じゃないのかよ・・・・・・」
二人が話し合っているとギガボルトレギオンがラティナ達を守る《力場結界》に六度目の体当たりをかましてきた。
その衝撃で結界の揺らぎと薄れが強まって来た。
「いけません! 《力場結界》の維持も限界が来ました!」
アリアが結界の消滅目前に察知し、叫ぶ。
そして力場の結界が消滅した。アリアが《スレッドオブトレイサー》で作った線の石組だけが残った。
「も、もう一度結界を・・・・・・」
リゼルが言いかけると敵からの攻撃、雷が放たれた。
「ふわぁ~!!」
雷が自分達に目掛けていると気づき、ラティナが悲鳴を上げた・・・・・・刹那に藍色の長槍が空を切る音と共に飛んで来て避雷針として雷を受け止めた。
「あ・・・あれはもしや・・・・・・」
「皆様方、お待たせしました!」
後ろから声がした。
藍色の騎士、ランスロットが宙を飛んで来た。
「やっぱりランスロットさん。来てくれたのですね」
「あの敵を倒せば良いのですね」
そう言いながらランスロットは宙を飛んだまま、ギガボルトレギオンに高速で接近した。
「オルタンシアに長年隠れ潜んでいた悪霊よ。この湖恍の騎士、ランスロットが相手しよう!」
途中、先程ランスロットが投げた藍色の長槍を右手で掴んだ。槍には受け止めた雷の電気が未だに帯電していた。
そして、そのまま槍を左手に持っていた藍色の大盾に収めた。
「《湖恍の水鏡》!」
槍と大盾がなんと大剣へと変形した。
ランスロットは空中で止めると変形した大剣の柄を両手で掴み、後ろへ引いてから構えた。
すると中に帯電していた高電力が増幅され、刀身により纏って輝き出した。
「《水鏡心剣斬》‼」
ランスロットは剣を横様に大きく払うと刀身から電力を纏った水銀色の理力の斬撃が敵に向けて放たれた。
斬撃を受けたギガボルトレギオンは横に真っ二つ斬れた。
『『『『『『『『『『⁉』』』』』』』』』』
「や・・・やったか⁉」
ディアボロスは霊体の怨霊だが、物質世界に干渉する為にエレメントを素材に使って肉体を得ている。
その為、物と場合によって痛覚を感じてしまうという。
斬られた一部のレギオン達は痛みと相手に対する恐怖により、怨みを忘れ、逝こうとした。
『待テ!! 待タンカ!! 逃ゲルナ!!』
指導者と思われる老人顔、かつて村長だったレギオンから電気で出来た虫の脚が複数に出現し、真っ二つに分かれた体(かつ顔)を掴んで、無理矢理くっつけて元に戻し、他のレギオン達に叱咤した。
『儂ノ、儂ラノ悲願ヲ忘レタカ⁉ アノ忌々シイ竜ト精霊協会ノ者共ニ奪ワレタ生マレ故郷ニ帰リタイト思ワンノカ⁉ 我ラハコンナ牢獄ノ様ナ場所ヲ脱シテ何トシテテモアノ場所へ帰ラネバナランノダ!!』
ラティナは見えた。
彼女の《心眼》によって見たギガボルトレギオンのオーラの色。斑状の悲しみの青と恐怖の黒と迷いの灰色が老人顔を中心に怒りと怨みの血の様な赤の色が増大した。
怖気着いていた霊魂達は元村長以下、強い怨念を持つレギオン達よって無理矢理怨みを伝播、思い出されたのだ。
「流石は何百年も保ち続けた怨念! ラティナ殿、申し訳ありませんが私の力では彼等を浄化する事は出来ません」
「はい。あの人達はただ故郷に帰りたいと望んでいるだけですから、その望みを私が叶えさせます。ですから私が理術発動の準備をしますのでランスロットさんとアリアちゃんは防御をお願いします」
「承知」「分かりました」
ランスロットとアリアは揃えて承諾した。
ラティナはある理術発動の為、想像を浮かぶ様、集中した。
その間にランスロットは大剣を今度は弓に変えて水の矢を撃ち出し、アリアは願唱理術を唱え、水の弾を撃って節足を出したままに襲い掛かろうとするギガボルトレギオンを牽制した。
一方、ラティナの周りに白い光の粒子、聖のエレメントが集まり、足元に光の方陣が描かれた。
「《魂の帰り道》」
その後、ラティナは歌い始めた。
「————♪」
その歌は別の文明の言葉による歌詞なのかそれとも歌詞自体が無いのか理解不能だが神の楽器で奏でたかの様な聞いた者を聞き惚れてしまいそうな程、美しく神秘的でどこか懐かしさを感じさせる純粋な声がカタコンベ内に響いた。
ギガボルトレギオンも例外無く、先程まで怒り狂っていたのが嘘の様に動きが止まった。
そして光の方陣を構成していた白い光の粒子が再び分離され、天井に向けて一斉に移動して天へと続く光の道となり、更には暗い洞窟の天井が金色の空へと変わった。
突然の空間の変化にリゼルは驚愕した。
「な・・・何だこれは・・・・・・?」」
「“幻奏術”と言います」
アリアが驚いているリゼルに解説する。
「げんそーじゅつ・・・・・・?」
「“幻奏術”とは理術の一種で空気に振動して耳に聞こえる"音"ではなく魂の音色、つまり理力の波長とエレメントの作用によって霊感から幻覚を見せる幻術です」
「幻術・・・・・・幻か?」
「主に心の治療が目的に生み出された術でラティナ様の様な癒療師や音楽を得意とする理術使いが取得しています」
『オ・・・オオゥ・・・コレハ・・・・・・』
『暖カイ・・・・・・』『母ニ抱カレタ様ナアノ懐カシサ・・・・・・』『心ガ・・・・・・癒サレル・・・・・・』
『ソウカ・・・・・・アノ光ノ先コソガ儂ラノ・・・本当ノ帰ルベキ場所・・・・・・』
動きを止まったギガボルトレギオンの体は風に吹き飛ばされていく砂の像の様に崩れていき、離れた魂が光の道を沿って天へと昇って行った。
過去に追放されてその怨みと故郷への帰還を果たせなかった無念により、悪霊と化し、長年オルタンシアを陰から支配してきた者達や彼らに喰われた犠牲者達がラティナの魂の清らかなる歌声によって怨念に染まった心が癒され、"遥かなる天界"へ昇天したのだ。
「無論、最初から幻奏術を使っても必ず効くとは限りません。歌による内容により、彼らの故郷に帰りたいという望みとランスロット氏がさっきの大技で弱らせてくれたこそ効き天に帰す事が出来たのでしょう」
怨霊達の完全な消滅を確認したラティナは歌うのを止めて両手を合わせて指を握りしめて祈りを捧げた。
「どうか・・・"遥かなる天界"で安らかにお眠り下さい・・・・・・」
祈りを終えたラティナはランスロットとアリアに向けて礼を言った。
「ランスロットさん、アリアちゃん、ありがとうございます。お二人のお陰です」
「礼には及びません」
「いえいえ、それ程でもありません」
ランスロットとアリアがそれぞれ礼を返すと何やら不機嫌な顔になっているリゼルに気づいた。
今回のギガボルトレギオンとの戦いで彼は何も活躍出来なかったから苛立っていた。
「あ・・・・・・リゼル様、気にしないで下さいね。人にはそれぞれ得意な事と相性が悪い事がありますから・・・・・・」
彼から発するオーラを見って察したラティナが宥めるとリゼルは「ふんっ・・・・・・」と言うだけだった。
「さぁ、ラティナ様。結婚式が始まるまで時間がありません。急ぎましょう」
アリアに催促されてラティナ達は急いでカタコンベの出口へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オルタンシアの教会ではジュリアとプルドの結婚式が始まろうとしていた。新郎であるプルドは祭壇の前で緊張しながらも心の中で子供の様にうきうきしながらも花嫁の到着を待っていた。
すると扉が開き、純白のドレスを着たジュリアが入ってきた。
「綺麗だよ、ジュリア」
「ありがとう・・・・・・」
ジュリアは作り笑顔で返したが、プルドは気付いていなかった。
その時、教会に鐘の音が鳴り響き、知事が選んだ牧師代わりの男が聖書を読み上げる。
「汝、プルド・ブレーラムは生涯、妻、ジュリア・クラインを愛し続ける事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「汝、ジュリア・クラインも夫プルド・ブレーラムを愛し続ける事を誓いますか?」
「・・・私は・・・・・・」
「その結婚、お待ち下さいっ!!」
突如、教会内に大声が響いた。
結婚式に参加している人々が一斉に声がした方向へ向けるとラティナが立っていた。
ついに結婚式場に辿り着いたラティナ達は衝撃の急展開が待ち受けていた⁉
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