第12話 “怨電顔蟲”ギガボルトレギオン 前篇
リゼルは駆け出し、先程の落雷で壊れた墓の大きく残った残骸を両手で掴んだ。
「ぬんっ!」
自身の怪力で墓の残骸を大きく持ち上げた。
「うおらぁっ!!」
そしてそのまま敵であるギガボルトレギオンに向けて投げた。
だが、ギガボルトレギオンが一瞬で光ると投げた大石が雷によって粉々に破壊された。
「クソっ! ダメか!」
見る限り電気で構成をされたギガボルトレギオンを直接攻撃は無理だと判断したリゼルは石製の墓を投げた攻撃したが失敗した。悔しそうに言葉を漏らすと電撃珠のディアボロスから再び、雷が放たれた。
リゼルに向けた雷はアリアが作り出した力場の結界によって阻まれた。
「ギガボルトレギオンは雷属性のエレメントで構成されたディアボロス。ただの石では効果がありません」
「そんな事は、今分かったよ! どうすりゃ良いんだよ!?」
リゼルは苛立ちの余り怒号で聞き返したがアリアは特に気にする事無く答えた。
「こうします」
アリアはカタコンベ内に溜まった水色の光子、水のエレメントを左手に集め、理術発動の準備をした。
「《水柱》」
発唱を唱え、集めた水のエレメントの光球を撃ち出すと地面に落ち、水の雫が描かれた水色の光の紋様陣となった。そして中心の雫の図から水の柱が噴き出され、宙に浮かぶギガボルトレギオンに直撃した。
『『『『『グオォォゥ⁉』』』』』
噴き上がった水流を受けてギガボルトレギオンの面々は電気の体を激しく放電させて苦痛の声を揃って上げた。
「効いた⁉」
「やはり水には効く様ですね。レギオン系は元が小体で同種の複数のディアボロスが集まって出来たもの。普通の上級ディアボロスと比較しても弱点を攻めれば何とか対処する事が出来る筈です」
『オ、オノレェ・・・・・・!』
『ヨクモヤッタナ!』『ナニスル!』『痛イワ!』『酷イ!』『許セン!!』
攻撃の噴水が出し尽くし、終えた直後に統率者と思われる老人顔のギガボルトレギオンは怒ると他の面々も言葉は合わないが共有に全員怒り出した。
『『『『『『グオォォォォ!』』』』』』
怒りに一致した怨霊達は今度、ラティナ達を押し潰そうと体当たりをしてきた。
「‼ これはいけません」
アリアは右手に具現したままの《スレッドオブトレイサー》を操り、彼女達を守る《力場結界》内の裏面全体に振り子の先から半物質化された“線”が生み出され、骨組となった。
高圧の電気そのものであるギガボルトレギオンが力場の結界に直撃した。
結界は衝撃と圧力によって響いたがアリアが張った線の骨組のお陰で潰れる事は無かった。
「これで大丈夫ですが、一先ずに過ぎません・・・・・・。この結界も使った理力による時間制限があります。かと言って私では彼らを止めるには力が足りません。そこでラティナ様」
「は、はい?」
いきなり名を呼ばれて戸惑いながらもラティナは返事を返した。
「私がディアボロスを何とか押さえている間に先日、ランスロット氏から貰った“羽”を使って彼を呼んで下さい。その後、ウンディーネを召喚して下さい。水のエレメントを増やして水属性の理術の威力を強めさせて貰います」
「は、はい」
ラティナは慌てながらも《アンペインローゼ》の傘布に触れると藍色に光る札状の物質が出た。
「え、え~と確かにこれに理力を注ぎ込んで・・・・・・」
“ランスロットの翼”を両手の指を組み合わせていつも行っている祈りの手の形ラティナの体内の理力を注ぎ込むと藍色の光が更に増し、強く輝いた。
そして頭の中に騎士、ランスロットの形象を強く思い浮かべた。
(ランスロットさん・・・・・・お願い、助けに来て下さい!!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
“グラン・オー・ミュール”
古代ガリア語で訳すと“大いなる水の壁”と意味する。
世界四大瀑布の一つである巨大な滝でオルタンシアとガリア大陸の内側にある共和国領を隔てる大自然生んだ壁の一つでもある。
オルタンシアがほぼ年中に雨が降るのもその滝から流れ落ちて出来た水煙と大陸の温暖な気候によって雨曇となっているからという所以だ。
その凄まじく壮大な光景をポギーがぼんやりと崖の上から見ていた。
「ポギー殿。またここにお居てですか」
後ろから全身藍色の鎧を着た騎士、ランスロットが話しかけられてポギーは思わず驚いた。
「わっ!? ・・・・・・なんだ、ランスロットさんか・・・驚かさないで下さいよ・・・・・・」
今、二人はランスロットが現在、住まいとしている森の広間から北へ歩いて五分に“グラン・オー・ミュール”を一望できる崖の上に居た。
「・・・・・・まだあそこへ向かおうとは考えていませんか?」
「心配しないで下さいよ。俺、もう死にに行く様な事はしませんから。・・・・・・理術も使えない奴が通り抜けるのは無理ですよね・・・・・・」
「・・・・・・」
そう言うポギーの表情は暗くなりつつも、視線は未だに巨大な滝を見つめていた。
ポギーは九日前、“グラン・オー・ミュール”の近くまで来た事があった。
その時のポギーの様子は何かの訳ありの様で生きる希望を無くし、まるで自暴自棄気味となって無意識で彷徨って来たのかと思わせる雰囲気だった。
滝の辺まで辿り着いた途端、足を滑らせて左足を捻って川に落ちてしまった。滝から流れ落ちた川の勢いは象も溺れる程の激流。危うく溺れ死ぬか、流木や岩石に当たって体がばらばらになりそうだった所をランスロットに救われのであった。これが二人の出会いでもあった。
何故、この様な危険な場所に来たのかと訊ねてみたら、ポギーは「訳は言えないが・・・・・・自分はこの滝の先にある共和国領の国に行きたい」と答えただけだった。
ランスロットは反対するしかなかった。当然の事だろう。
“グラン・オー・ミュール”は帝国政府が特級危険区域と認定された場所。精霊教会の者は“大自然界”と呼び、生還率が極めて零に近い程、普通の人間では現代の科学力を持ったとしても避けて通る事は不可能と言われている。
中には上まで行ける洞窟が在るがその道を阻む膨大に流れる滝の水の重量と勢力によって体を頑丈に鍛えた人間だろうと鉄製の乗り物に乗っても押し潰され、対流で出来た大渦の滝壺で粉々かつ挽肉となってしまい、正に“大いなる水の壁”と名付けられるだけに相応しき、障害となる危険な滝で過去に珍品と名誉を求めた冒険者や共和国領から追放させて帰郷を望んだ者達が多く挑んだが誰一人も突破する事は出来ず、殆どの者達が命を失って逝った。それ故にランスロットが住む北の森を昔は“自殺の森”と呼んでいたという偶然にもアリアが勝手に名付けた事はあながち間違っていなかった。
例え、飛行する機械によってこの滝を飛び越えたどしても次の障害が待っている。それが気流の嵐の空と竜達が住む領域だ。
一度入ったら最後、空を飛んでも前後左右気まぐれに入り乱れる気流の嵐で飛行機を運転不能に陥らせ、その嵐の中を自慢の翼によって平然と飛ぶ緑竜や翼亜竜らによって撃墜され、最後は地亜竜や生まれてから知性が未熟で強暴な子竜達の餌になってしまうというこれまた危険な場所で、兵器を用いても竜が持つ鉄よりも硬い鱗によって殺す事も出来ない。この大自然界の地域を通り抜けなければ共和国領に辿り着く事は不可能だ。
更に補足すれば、別の進路から進もうとしても結果は同じ事だ。
東の進路は触れただけでも死に至らしめ、金属までも腐食させるありとあらゆる毒が混合した毒ガスが噴き出る谷。
西は幻覚作用のある霧と強大な磁場によって方向を狂わせて死ぬまで迷わせる迷いの樹海。
北は地方全体が活火山の山脈と溶岩の海という人間も住めないが、唯一赤竜達のみが住まう超高熱の地帯というどの道も共和国領へ続く道全てが人智を超えた超自然と強力な生物が存在する特級危険区域によって阻まれていて、並の人間が通り抜ける事は不可能とされている。
ただし、理術使いならば話は別だ。
自然の化身である精霊の声を聴き、力を借りる理術使いならば特級危険区域も超える事は可能だろう。
そして特級危険区域を超えた先に辿り着く、大自然界の中で唯一の安全地帯である聖なる場所、“聖域”に構えた国や町こそが共和国領。ガリア大陸でもラティナの故郷、プランタンを含んだ四つの国が存在する。
今まで強大な科学力を持つ帝国が攻めこもうとしなかったのは共和国領が“大自然界”という特級危険区域の中にあるから、手出しも出来なかったのだ。その上、聖属性のエレメントが満ち溢れている為、ディアボロスも寄せ付けないでいた。
今の理術使いではなくなったポギーが“グラン・オー・ミュール”へ行っても共和国領に辿り着けず、絶対に死ぬであろう。
ランスロットはポギーにそう説得して行くのを諦めさせたが彼はどうしても元の場所に帰りたくなかったので仕方なく、住処に泊まらせた。
「・・・・・・ポギー殿、まだ故郷に戻る気はありませんか?」
「・・・・・・すいません・・・・・・。俺、帰る場所はもうありませんから・・・・・・」
そう言うポギーの顔から悲しさを感じた。
「そうでしたか・・・・・・」
実の所、ランスロットは知っていた。
ポギーが帰りたくない理由を。
時折、森から出て、この国の守護天使としてオルタンシア内を見回っていたのだ。
その道中でランスロットは見てしまった。
ポギーは知事の娘、ジュリアから駆け落ちの誘いを受けていた事。そしてポギーはその誘いを断り、彼女を怒らせてしまい、二人がそのまま別れた時までランスロットは見ていたのだ。
ポギーも本当は迷っていたのだろう。愛する人と孤児の自分を育ててくれた町の人の板挟みに悩み、自分の選択に間違っていたのかという苦悩に陥っているだろう。
事実を知るランスロットは彼を厳しく言う言葉も慰める言葉もかけられなかった。
何故ならばランスロットも遥か昔、エンジェロスに転生する前の人間だった頃にポギーと似た状況に会った事があるからだ。
そうかつて従っていた主君の婚約者だが政略結婚に嫌気を差した姫が惚れていたランスロットに駆け落ちの懇願をされてその時の選択が騎士団と古の国を崩壊する原因を作ってしまった。
だからこそ、その当時の本人が選択した結果が、本当にこれでよかったのか、それとも愛する人を怒らせてしまい、間違っていたのかというポギーの苦悩にランスロットは同情していた。
(こんな事なら癒療師であるラティナ殿に事情を全てを話しておけば・・・・・・)
ランスロットがそう考えていると聞き覚えのある声、ラティナの念の言葉が聞こえた。
「!! ポギー殿、また暫しの間、ここを離れますので大人しく待っていて下さい」
「え!?」
ポギーが何事かと聞く前にランスロットはマントをなびかせて空を飛んだ。
助けを呼ぶラティナの許へ向かって。
次の話はオルタンシアを支配していたディアボロスとの決着。結婚式に間に合うのか?
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