第11話 怨霊達の妨害
オルタンシアに来てから二日目の朝が来た。
「・・・眠いなぁ・・・・・・」
リゼルは未だに寝足りず眠たそうに眼をこすり、呟きながら先のラティナ達を付いて行った。
そもそもリゼルは昨夜、枕の代わりのクッションだけ床の上に寝かされただけなので完全に眠れなかったという。
ラティナ達は今、ネーアの案内により、教会へ繋がるカタコンベの入り口へ目指していた。
今日は休日なのが朝の町中は出歩く人が少なく、知事の部下も見かけなかった。
アリア曰く、恐らく部下達は町の出入り口の前に集中しているだろうと考えられる。
「着いたわ。あそこがカタコンベの入り口よ」
ネーアは知事の部下がいないか辺りを見回して確認した後、ラティナ達に目的地に辿り着いた事を伝えた。
ラティナ達が着いた場所はオルタンシアの町の西側、町と隣接している高い崖の壁によって行き止まりとなった石畳の広場でネーアが指差したのは黒い石壁の一部屋分の建物だった。
「あそこから入ってカタコンベを通り抜ければ教会に着くわ」
「これで俺達をはめる罠だったらタダじゃおかねえぞ」
ネーアの事を疑っているリゼル。
「手助けしようとしているのに何よその言い草‼ 酷くない⁉ サイテー‼」
「何をー⁉」
「まあまあ、お二人共」
ラティナは直ぐに二人の間に割って喧嘩を止めた。
「私はネーアさんの事信じていますから」
「・・・ラティナ・・・・・・」
「さぁ、行きましょう」
だが、カタコンベの入り口である鉄製の扉は鍵がかかっていた。
「しまった・・・・・・。入り口は鍵がかかっていて、その鍵は知事が持っていたのだっだたわ・・・・・・」
「・・・・・・なら俺が、ぶっ壊す」
リゼルは両手の指をボキボキと鳴らし、その言葉通り扉を破壊する気だった。
「ちょ・・・ちょっと!」
破壊行為をしようと近づくリゼルを止め様とするネーア。
「その必要はありません。私が扉を開けます」
アリアが名乗り上げ、扉の前まで近づいた。
「《スレッドオブトレイサー》」
右腕の袖の中から糸に繋がれた振り子型の霊装を具現させた。
「《軌跡現創糸 再現創》」
アリアの《スレッドオブトレイサー》が重力に逆らい、扉の錠前まで水平方向に向けるとそれは円を描く様に小さく周りだすとその後から虹色の"線"が現れ、幾層も重なり合うと数十秒後に“鍵”が出来上がった。
「《再行動》」
アリアが特定の言葉を宣言すると場属性のエレメントで出来た“鍵”は宙に浮かんだまま、錠前の穴にぴったりとはまり込んだ。そして鍵は右方向へ回り、ガチャリと音を立てて扉が開いた。
「過去に鍵を使った後の電磁波が残っていれば私の理術で開ける事が出来ます。これで中に入れます」
「流石です、アリアちゃん!」
「さぁ、結婚式が始まるまでの時間がありません。急ぎましょう」
「・・・・・・ラ・・・ラティナ」
開いた入り口から中に入ろうとするラティナにネーアが声を掛ける。
「はい、何でしょうか?」
「き・・・気を付けてね・・・・・・」
そのネーアの言葉に聞いたラティナは微笑んだ。
「ありがとうございます。気を付けますね」
カタコンベへの入り口に入るラティナ達をただ見送るネーア。
ネーアはラティナを密かに羨ましがっていた。
太陽や星の様に輝いて皆の心を掴んだ彼女の事が。
嫉妬を堪え子供の頃から楽しく遊び合い、自分の我儘を付き合ってくれたかつての友人だったラティナと再び話す事が出来たネーアの心は少し晴れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・・・・以外に広いのですね」
ラティナの言う通り、オルタンシアのカタコンベは崖の中からは鍾乳洞になっており、天井が高く、長年の雨水によって溶解浸食を受けて出来た鍾乳石が垂下し、そして広く、進む道々の周囲には石製の墓が並んでいた。明かりは電気による電灯が墓と一緒に備えられていたので理術を使う必要はなかった。
「以前読んだ事のあるオルタンシアの歴史書によれば町が出来る前、人々は雨を凌いで生活する為にここ、崖の洞窟の中に生活していたそうです」
歩きながらアリアはこの洞窟にカタコンベが在る理由について解説を始めた。
「そうなのですか?」
「はい、ですから雨水を防ぐ為にこの広い鍾乳洞でカタコンベを作って昔の死んだ人をここに弔ったのでしょう」
「今は使われていないみたいですが・・・・・・墓守の方はいないのでしょうか?」
見た所、訪れた人の為に最近、知事等の訪れた人の為に電灯を設置されたみたいだが、墓は長い間、手入れされておらず埃にまみれていた。そもそも町の入り口を鍵で閉めている時点で放棄されいるだろう。ラティナとしては昔死んだ先祖達をお参りしないのかと気になっていた。
それとこの鍾乳洞のカタコンベは広い上に進む先で分かれ道もあるので迷いやすい。しかし、アリアの霊装、《スレッドオブトレイサー》で過去に教会まで通った人の跡を読み取り、進むべき道の方向を指し示してくれるので迷う事はなかった。
「はぁ・・・、何でこんな事に・・・・・・」
リゼルは溜め息を吐きながら今の嘆きを呟いた。
本来の予想ならば教会の化け物を倒して結婚指輪も取り返したから知事から仕事の報酬を貰えると期待していたのだが、それは嘘で自分は騙されて利用されたのだと思い返すとやがて腹が立って来た。
「・・・・・・取りあえず・・・あの知事、殺そうか」
「だ、駄目ですよ!殺しては」
怒りのままに知事を殺そうと宣言するリゼルを聞こえて慌てて止めるラティナ。
そんなこんなで手の暇と時間のかかる仕掛けもなく順調に進み、結婚式が始まるまでには間に合うと思われた。だが、その道中でラティナ達は異変を察知した。
先ず、感知したのは、アリアの《スレッドオブトレイサー》。出口が差す方向へ一直線に向いていた《スレッドオブトレイサー》が大きく揺れ始めた。
「これは・・・・・・お二人共、来ます! 気を付けて下さい」
その瞬間、地下墓地の洞窟を照らす電灯の光が一斉に点滅しだし、やがては消えて暗闇に包まれた。
「こ、これは!?」
「わ、私も感じます・・・! 凄い怨念が、こちらに向かって来ます!!」
強い怨念を感じたラティナ。
彼女の言葉を聞いたリゼルも緊張が走った
光が灯された。
ただし、電灯からの光ではなく、突然宙に発生した放電による光だ。
むきだし電光の塊から雷となり、ラティナに向けて落ちて行った。
「きゃぁっ!!」
邪悪な殺意を感じたラティナはエンジェロスの高い身体能力を持って素早く横に飛んで雷を避けた。代わりに近くの墓が当たり、砕け散った。
「お・・・おい、こいつはまさか!?」
「はい、あれは間違いなくディアボロスでしょう!」
雷を落とした電気の塊は中から怒りの様相を表した老人の顔が出た。
『ココカラ先ハ、通サン!』
憎しみが含まれた声を発した電気の顔を中心に他の小さい顔が付いた電撃の塊が次々と現れた。
『邪魔サセン・・・』
『憎キ理術使イメ・・・!』
『殺シテヤル!』
『恨メシヤ・・・・・・』
小さな雷球の顔達も憎悪を含ませた言葉を発した。
「あれは多くの霊が一体に集結したレギオン系のディアボロス。それも上級のディアボロスでしょう」
アリアからディアボロスだと判断された電気の化け物の面々が憎悪の相のまま、ラティナ達を一斉に睨んだ。
「何故ですか⁉ 何故、貴方方は私達の邪魔をするのですか?」
「お、おい・・・・・・」
上級ディアボロスの睨みも臆する事は無く、ラティナは聞いた。リゼルとしては彼女の質問を素直に答えてくれる訳がないと思っている。
相手は自制を失った亡霊。恨みと欲望のままに暴走するディアボロスがまともにラティナの質問を答えてくれるはずが無いとリゼルは思っているのだが・・・・・・。
『・・・・・・我々ハカッテ“楽園”ニ居タ・・・・・・』
(普通に訳、つーか過去話を話した!!)
以外にも先程表していた憎悪を抑えて冷静となって老人顔中心の放電のディアボロスは語り始め、リゼルは驚いた。
(今の内に・・・・・・)
アリアは敵が攻撃せず語り出した隙に小袋鞄型の【収納道具箱】から一冊の表紙に緑の水晶珠が付いた分厚い本を取り出した。
「【ディアボロス図鑑】、あのディアボロスの名と情報を教えて」
『イエス。検索ヲ開始シマス』
アリアが【ディアボロス図鑑】と呼ばれた本を電気のディアボロスに向けると水晶から声が響き、風が吹いた訳ではなくページが一人でにめくれていった。
これこそがあるディアボロス専門の研究家が長年の記録をまとめて作った【ディアボロス図鑑】。
図鑑に理導人形の核を与え、自動性をもたらす事で対象のディアボロスが記載されたページを探す手間と隙を無くす事が出来る様になった。
『・・・・・・検索完了。名称“ボルトメガレギオン”』
今、眼前にいる電気塊の面々のディアボロスの名が出たと同時に相手の詳細な情報が記載されたページが開かれた。
アリアが“ボルトメガレギオン”を調べている最中、その対象は次の通りを語った。
彼等は四〇〇前、生前は共和国領の湖の国エーテに属するとある川の村の村長以下の住民達だった。
その村は川の水と採った魚で食し、重い病に侵されても聖女以下の治癒師達によって治療されてきて安寧の生活を送ってきたが、ある日の事、その川の主である竜が突然暴れた。
暴れた影響により、川は激流となって氾濫した。
困った村人達は暴れる竜を止める様、精霊教会に助けを求めた。だが、来たのは救い主では無かった。
村に来た精霊教会の騎士達は竜にまず説得する為対話をした。その後に村人達大人全員、罪を着せられた。
川の竜が暴れた理由は、村が川を汚したから怒っていた。
村人達が死体を川の中に葬り、腐肉と骨で川の水を汚して行った。
だから、住処にしていた川を汚された怒りで制裁のつもりで暴れて氾濫を起こした。
そして精霊教会の騎士達は川の竜の味方となり、一部の善良な村人を除いて川を汚した罪と理術が使えない理由で安寧の地の共和国領から追放され、ほぼ年中雨が降り続ける過酷な地方である雨の国オルタンシアへと送られた。
『許センノダ! 我々ハ川ト共ニ生キテキタモ当然 あの美シキ川コソソノ地ニ産マレタ者ガ最後ニ眠ルニ相応シキ場所ナノダ。ソレヲ精霊教会ノ者共ハ我等人ヨリモ野蛮ナ竜ニ味方シオッタ! ソシテ儂等ヲ追イ出シ、コノ地ニ送ラレタノダ!!』
「で・・・でも、竜さんは精霊さんに近い自然界のみたいなとても大事なお方なのですよ・・・・・・。その時にその川の竜さんに死体を棄てたの悪い事をしたと素直に認めていれば・・・・・・」
『黙レ!!』
放電が更に激しく放出された。
『ソモソモオ前ラ精霊教会ノ者共ガ“聖域”ニカラ理術ガ使エナイ人間ヲ追イ出ス掟ナンゾヲ作ルカラダ! 死ネェッ‼』
激しく音を鳴らし、放電する老人の面がついた電撃の塊から雷となり、高電気の槍となってラティナに向けようとした。
「磁場の精霊よ、アリアは願います。悪意あるものを斥ける力で私達を守り給え。《力場結界》!」
その時、事前に理術発動の準備をしていたアリアによって彼女を中心にした半球形状の力場の結界が張られ、ラティナを雷の攻撃から防いだ。
「アリアちゃん!」
「ラティナ様、話せる様な相手でも説得は無理でしょう」
『邪魔者殺ス! 理術使イハ全テ皆殺シダ!!』
周囲に散っていたボルトメガレギオンの面々が首脳と思われる老人の顔を中心に集まって合体、今や完全一体のディアボロスとなってカタコンベの中で暴れ狂った。
「やはり戦うしかないのですね」
こうしてラティナ達は鍾乳洞のカタコンベでオルタンシアの陰で支配してきた怨霊、ボルトメガレギオンを浄化する為、戦う事になった。
お待たせしました。今年2022年最後の投稿作品です。
10月から12月の後半まで残業多めだった本職の方でも落ち着き始め、ようやくこの最新話を完成する事が出来ました。
来年も「聖天魔物語」を完結まで続ける様に本職と共に頑張っていきたいと思います。
続きが気になる人は応援をお願いします。質問も受けつけます。
良いお年を。




