幕間 オルタンシアの闇
ラティナがジュリアの看病をしていた頃、オーロックは右手に懐中電灯を持って暗い地下への階段をゆっくりと下りて行った。
やがて長い階段の終着先である暗い広間に辿り着いた。
この物置に使いそうなのに何故か物が一切も置かれていない、暗闇に包まれた広い地下室の中、緊張と恐怖の感情を無表情で隠した初老の知事は部屋の中心位の所まで進み、その場に跪いた。
その時、暗闇の中から激しい放電が突如、発生。『バチバチッ……‼』と破裂音が鳴り続け、周囲の部屋の壁際までの気体中を横走りの電流が絶え間無く流れては発光し、オーロックは恐怖の余り、竦んだが、必死で叫んだ。
「お、落ち着きを‼ 計画は順調に進んでおります‼ ライヒトゥーム・カンパニーから魔水のクォーツを生成する実験が成功と報告。それから得られるエネルギーも普通のクォーツよりも高く強いと好評との事です! 彼らの技術力と魔水のクォーツならば“グラン・オー・ミュール”を超え、我々の悲願である“聖域”へ行く事が出来るでしょう」
オーロックが報告を終えると彼の目の前に電流が集まり、熊が肩並んで二匹分程の大きさのある電気の塊となり、老年男性の顔が浮かび上がった。
『イツ、ダ?』
電気の塊の人面が口を動かし、喋り出した。
「えっ?」
『イツダ、ト聞イテオル!』
電気の大玉の顔が険しい顔となり、オーロックを睨み付けながら迫った。
「そ、それは……まだいつかからなのかは分かりません……」
オーロックが質問に答えた瞬間、電気の顔が怒りの表情に変わった。同時に周りに流れている電流の中からまだ別の一般人の大きさ位の顔が多数出現した。
『早クシロッ‼ モウ何百年モ我々ハ待ッテイタト思ッテンダ‼』
怒鳴りつける電気の大玉と他の面々の間から電流が更に激しく放電され、天井や床に当たっては、黒く焦がした。
オーロックは慌てて周囲の電気の面々に叫んだ。
「落ち着きを! 落ち着きを‼ 今すぐは無理ですが時間はそんなにかかる訳でもありません! 皇帝から共和国領を侵攻する為に危険区域を越える事が出来る物を開発にする様、ライヒトゥーム・カンパニーに依頼を受けて計画を進めていると聞きました! ですからもう少し辛抱を!」
『ダガ、オルタンシアニマタ理術使イ共、シカモソノ内一人ハアノ聖女ガ来タノデハナイカ?』
『ソウダ! 我々ノ存在ガ知ラレル前ニ殺シテシマエ‼』
『ソレトモ、マタ我等ガ消セバ良イノカ?』
大顔面とは別の周囲の面々がそれぞれ意見を唱えた。
今、オーロック知事と対話している相手こそは千年前からオルタンシアに潜み、自分達の存在に気付いた者、この国から逃げ出そうとする者、邪魔になる者を消してきた影の支配者だ。
「そ奴等についてもお待ち下さい。実はここの支社長の次男が私の娘の事を気に入りましたので彼等とのより良い友好を築く為に結婚を許しましたがジュリアがただの医者では治せない重い病気にかかってしまいました。ですからあの聖女が娘を治すまでお待ち下さい。。奴等は今だけ利用するだけの価値が有ります。全て終えた後は私に任せて下さい!」
オーロックは噓偽りの無い、真剣な眼差しで答えた。
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次回は、ラティナ達は真実を突き止めるため、ジュリアのために結婚式を潰しに行く展開となります。