プロローグ
「この意気地なし‼」
水の雫が地面に落ちた時に響く雨の音が常に鳴り続ける中、怒声が飛んでは大量の音の波によってかき消されていった。
分厚い雲によって空は見えないが時刻は夜。ある森の中に二人の若い男女が傘も持たず、雨に打たれながら立っていた。
二人共、体が濡れる事など気にしていられない様子で、先程の怒声の主らしい身分の高い家のお嬢様なら着る少々豪華な服を着た女性が、庭師が着る土汚れした服を着た青年を睨んでいた。
「貴方、本当に馬鹿なの!? こんな機会を逃そうとするなんて‼ 私の事、愛してるんじゃなかったの⁉ 嘘なの、ねえ⁉」
「…………」
青年は黙っていた。
「何か言い返したらどうなの⁉ ねえ‼」
青年は黙っていた口を開き、言い始める。
「何度も言わせるな……。俺は教会の皆を……捨て子だった俺を育ててくれた院長先生を裏切る事は出来ない……」
「それじゃあ、私は他の男と結婚しても良いの⁉」
青年は後ろの方面に向き、こう言った。
「……それよりも早く家に帰れ。風邪引くぞ……」
「……っ!! 馬鹿ッ‼ もう知らない‼ 顔も見たくない‼ あんたなんかいなくなればいいのよ‼」
女性からの絶交めいた宣告を聞いた青年の心に傷付いた。
男は絶望の足取りで歩き、それから駆け足となってこの場から去った。
一人残った女性が立ったまま、体に濡れる雨の水に紛れて涙を流した。
「馬鹿ッ……もう信じられない……! もうあんな奴なんか……あんな町なんか……」
泣きながら独り言を呟いたその時、雲に覆われた空から一筋の紅い光が流星の如く突き破って落ちて来た。
紅い光は女性に目掛けて落ちて来る。
女性が紅い光に気付いた時はそれが当たった。
禍々《まがまが》しい紅色の光が照らされ、数秒後に光が消えた時、雨が止んだ。暗い夜の森の中、紅い光に当たった女性は倒れていた。そして意識が失う直前に呟いた。
「……もう死ねばいいのよ……あいつも……町の連中も……皆…皆まとめて……」
それから六日後、この地、雨の国“オルタンシア”にラティナとリゼルが飛び越えて来た。
第2章プロローグからの開幕です。




