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その㉖

 銃口の先端に取り付けてあった刃が、オレの右目を掠めた。

 途端に、視界の半分が赤く染まった。


「なっ!」


 眼球をやられた。

 平衡感覚を失ったオレは、操縦士を失った飛行機のように左に逸れる。

 好機とばかりに、立て直した竹下俊が、猟銃を振りぬいた。

 ザクッ! と、オレの右腕に激痛が走った。


「うわああ!」


 裂けた肉から、生温かい液体が溢れ出る。

 ふらっとよろめき、足もとにあった岩に顔面を強打…するよりも先に、左手をついて身体を支えると、下半身をよじって、竹下俊の足元を掬った。


 今度は竹下俊が「うわあ!」と情けない声を上げてよろめく。


 今度こそ押し切らんとばかりに、オレは血でぬめった拳を、竹下俊の腹に打ち込んだ。


 手ごたえあり。


 オレの拳が、竹下俊の鳩尾にめり込んでいく。


 竹下俊は喉の奥で呻くと、すぐに歯を食いしばり、オレの肩に猟銃の刃を突き刺した。


 ぐりぐりと、鍵を開けるかのように、刃を肉の奥深くにまでねじ込む。


「くっそ! 往生際悪いんだよ!」


 オレは足に力を込めて身体を支え、全身全霊を込めた頭突きを、奴の鼻先にぶつけた。


 ゴツンッ! と、痛々しい音が耳の奥で弾けた。


 竹下俊は何も言わず、鼻から血を噴出させながらのけぞる。

 倒れたところを、馬乗りになって、もう一発かました。


「がはっ!」

「首を垂れて謝れや!」


 もう一発。


「茜に! 謝れや!」


 もう一発。


「二度と! オレたちの前に!」


 顔をのけぞらせた瞬間、またもや右頬に痛みが走った。


「うわ!」


 なにか鋭いもので斬られた? 

 だが、長物の猟銃はこの至近距離では振り回せない。

 じゃあ、何を? 


「ぐっ!」


 思考が追いつくよりも先に、腹に痛みが走る。


「くそが!」


 竹下俊の顔面を殴ってから、オレは横に転がった。

 とっさに、腹に刺さったものを確認する。それは、サバイバルナイフだった。


「隠し持ってやがったか!」


 抜くのはまずい。だが、刃が深く突き刺さっているせいで、少し動くたびに、肉の中で動いて激痛を伴う。

 身体の力が抜け、その場に手をついた。腹筋が傷ついたせいで立っていられない。


「が、ああ…」


 まずい…、これは非常にまずい。


 顔を上げると、立ち上がった竹下俊が猟銃の銃口をオレの方に向けていた。

 竹下俊の目から光が消える。そして、口角がにいっと吊り上がった。

 ジャコンッ! と、乾いた音がオレの耳をついた。


 弾が装填されたということに気づいた瞬間、足もとを突き上げるような恐怖に襲われた。


「てめえ! ここで撃ってみろよ!」

「うるせえ!」


 興奮して、オレを殺すことだけに囚われた竹下俊はオレの制止を一蹴し、黒いトリガーに指を掛けた。


「よくよく考えてみれば…、てめえは今、茜を誘拐した罪で警察に追われているんだ。てめえをここで殺して埋めたところで…、警察は遠くに逃げたと判断するだろうよ」

「くそ!」


 無駄なあがきだとはわかっていたが、横に転がる。

 だが、それに合わせて銃口が動いた。


「死ねや!」


 まずい、躱せない!


「かつ兄!」


 茜の泣きそうな声が横から聞こえた。


 竹下俊が引き金を引く。


 茜がオレの前に飛び出してきた。


 重厚な轟音が辺りに響き渡る。


 飴色の弾丸が、空を裂きながら発射される。


 茜が両腕を広げる。


 弾丸が、茜の腹を貫いた。



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