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その㉓

 そいつは、竹下俊だった。


「てめえは…」

「よお、誘拐犯」


 青白く点滅する世界の中で、竹下俊はオレを見てにやっと笑った。

 黒いジーパンに、分厚いチョッキを纏い、頭には藍色のニットを被っている。そして、手には猟銃を装備していた。


「てめえ…、どうしてここに…」

「そりゃあ、こっちのセリフだぜ。ここはオレの親父の土地だぞ? 不法侵入ってやつじゃねえのか?」


 竹下俊はそう言いながら、オレたちに一歩、また一歩近づいた。その落ち葉を踏みしめる、パリッという音が、まるでナイフのようにオレの鼓膜に突き刺さった。

「お前の…親父の土地?」


 ピリピリと頬が粟立った。


 ああ、そういうことか…。


 オレが何かに勘づいた様子を見せたので、竹下俊は余裕を持った口調で言った。


「わかったか? なにが起こっているのか」

「ああ…、わかった」


 オレは茜が背後にいることを確認しながら、ゆっくりと口を開いた。


「ずっと不思議に思っていたんだ。オレとマサムネがあの家に向かっているときに聞いた…、あの炸裂音が。あれは、オレが睨んだ通り、『銃声』だった」

「ああ、そうだ。こいつの音だな」


 そう言って、右手に握った猟銃を掲げる竹下俊。


「だけど…、茜の親父はナイフで殺されているし…、天野さんも、撲殺されている…。誰も銃で殺されてなんかいない…」


 下唇を湿らせた。


「てめえ、本当は…、銃を撃つつもりなんてなかったんだろ?」

「…そうだな」


 今回の事件…、不可思議なことはあれど…、すべて「犯人の失敗」だったのだ。

 それをオレが深読みしすぎたせいで、めちゃくちゃにしちまったんだ。


「どうやって殺したのか…、は置いておいて…、まず、お前と茜の親父との関係について考えてみたんだ」


 茜の親父はなぜ殺されなければならなかったのか?

 単純に、竹下俊に恨まれていたから? 

 違う。

「てめえと、茜の親父…、仲が良かったんだろ? 『悪友』ってやつか?」

「そうだな、そんなものだよ」

「あの野次馬のおばさんに聞いたんだが、てめえの親父さんは、茜の親父に騙されて、山を二束三文で買いたたかれたんだってな? もしかして、それに、息子のお前が一枚噛んでいたんじゃないのか? 例えば…、自分の親父をそそのかせて、茜の親父の話を聞くように仕向け…、そして、だまし取った金を茜の親父と山分けする。そんな感じじゃないか?」


 恐る恐る聞くと、竹下俊は歯を見せて笑った。


「そうだな」


 正解だった。

 オレは竹下俊の動向に警戒しながら続けた。


「てめえはあの場で、さも被害者みたいな顔してたけど…、本当は仲が良かったんだな。一緒に悪事働いて…、この町の人間から金をせしめていたんだ」


 震える指で、竹下俊の装備している猟銃を指す。


「あの家の冷蔵庫に、中途半端に処理されたイノシシの肉があった。オレ、田舎で育ったからわかるんだよ。ああいうのは、まず肉屋には並ばない。綺麗に処理して、臭みを取らないと、イノシシは食えたもんじゃないからな。それなのに、あの不格好なイノシシの肉。あれは、誰かから譲ってもらったか…、または、自分が仕留めないと得ることはできないぜ」

「おお、いい線いってんじゃん」

「オレは後者だと踏んだ。茜の親父が、自ら猟銃を使って仕留めたイノシシの肉だ。多分、買い叩いた山の中でやったんじゃないかな? だけど…、そうなると今度は、ある疑問が生まれる…」


 指をぴんと立てる。


「どうやって、猟銃を入手したか…」


 竹下俊の猟銃が、鈍く光った。


「茜の親父は、狩猟免許を持っていないはずだ。それなのに、どうしてイノシシを狩ることができたのか。誰かがあいつに猟銃を貸したとしか考えられないだろ」


 立てた指で、竹下俊を指した。


「てめえが、茜の親父に猟銃を貸したんだな」

「…そうだよ」



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