表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/102

その⑨

 オレの村人からの嫌われようは、尋常ではないものだった。


 ただ路地を歩いているだけで、「帰れ」「あっちいけ」「疫病神が」の三拍子。傘でも差していないと、この暴言の雨からは逃れないだろう。


 ったく、オレが何したってんだよ。


 ただ、親父がバニバニ様っていう謎の神様をでっち上げて、村人から謝礼金、研究費をだまし取っただけじゃんかよ。その金だって、嘘がばれた時には全額返済されているんだ。親父のことを嫌うのはいいとして、無実な息子を迫害するのはいかがなものかな。


「大変よねえ」


 オレの心情を察してか、旅人の天野さんはしみじみと言った。


「わかるわ。あんたの気持ち。昔は村八分とか普通に行われていたからねえ。今はマシになったとは思うけど…」

「仲の良かった同級生までこれだよ。親父が詐欺師だとわかった途端、手のひらを返してオレの敵になりやがった」


 もうクルックル。回転しすぎて、手で鉱山彫れそうなくらいの裏切りだったな。


「まともに付き合ってくれるのは、俊介だけだな」

「俊介って、さっき一緒にいた子?」

「あいつ。幼い頃から、一緒に過ごしてきたからな。アパートの上の階なんだよ」

「ふむ」


 オレの隣の天野さんは、適当な相槌を打った。


 彼女が歩く度に、握っていた錫杖がシャランと澄んだ金属音を立てる。春風が彼女の着物の裾を揺らした。


「天野さんは、何処から来たんだ?」

「うーん、よく憶えていないのよねえ、特に、あの頃は地図も無い時代だったし…」

「何言ってんの?」


 この人、時々時代錯誤なことを言うよな。


「まあ、私のことはどうでもいいわ。バニバニ様が嘘だってわかったんだから、この村に留まる理由も無くなったしね」

「あんた、考古学者か何か?」

「そういうわけじゃないけど、不老不死について調べながら各地を旅しているわ」

「暇なんだな」

「まあ、暇ねぇ、私の場合、時間は無限だから」

「なに言ってんの?」


 この人、さっきから変なことばっか言っているな。


 通りすがりの村人たちから、恨みの籠った視線を向けられ、時には水を引っ掛けられたりしながら、オレは現在暮らしているアパートへと辿り着いた。


 外観は比較的綺麗な方で、三階建て。部屋もそこそこ広い。しかし、すぐ近くに墓があり、周りを藪や肥え臭い田園に囲まれているので、家賃はこの村の中でもかなり安い方だった。


 赤錆だらけの階段を上り、「二〇二号室」と書かれたプラ板が貼られた扉の前に立つ。元は牛乳みたいな色をしていたらしいが、経年劣化のせいで、ミックスオレみたいな色になっていた。


「ここまででいい。蜜柑ぶつけて悪かったな。ぶつけたのは俊介だけど」


 そう言って振り返る。


 天野さんが、眉間に皺を寄せて扉を睨みつけていた。


「天野さん?」

「………」


 オレが話しかけても、天野さんは反応を示さない。まるで心をどこかに置き忘れたかのように、ひたすらに扉を見つめている。


 彼女の魂胆を何となく予測したオレは、厳しく言った。


「茶なら出さねえぞ。ってか、オレの家、そんなに金無いし」

「いや……」


 天野さんの表情が、何かを確信したように引き締まる。

 次の瞬間、天野さんは握っていた錫杖をオレに押し付けてきた。


「これ、ちょっと持ってて」

「ああ?」

「私、部屋の中を見てくるから」

「え、ちょっと待てよ」


 言うやいなや、薄汚れた扉のドアノブに手を掛けた天野さんを、オレは慌てて引き留めていた。


「急にどうしたんだよ? ここはオレの家だぜ? 勝手にはいんなよ」

「いいから、あんたはここでおとなしくしてなさい」

「わかった、そう言って、中のもの盗む気だろ!」


 半分本気、半分冗談で言った瞬間、天野さんの腕がオレの方に伸びてきて、オレの胸ぐらを掴んだ。華奢な身体からは想像できない力で引き寄せられる。



 天野さんは声を押し殺して、脅すように言った。


「いいから、私がいいって言うまで、ここで待ってて」

「………」

「あんたの部屋の中から、血の臭いがする…」

「え…?」

「変なのが飛び出してきたら、その錫杖で遠慮なくぶっ叩きなさい」


 そう言うと、天野さんは胸ぐらから手を離し、扉を開けてオレの部屋に入っていった。

 オレは天野さんに渡された錫杖を片手に、その場に立ち尽くした。


「オレの部屋から、血の臭い?」



質問コーナー

Q「克己はどんな女性がタイプですか?」


A「胸が大きくて、目がぱっちりとしている人です。十四歳童貞なので、基本的に優しくされたら落ちます。ちょろいですね。恥を知れ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ