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その⑯

 どういうことだ?


 意味が分からず、眉間に皺を寄せていると、若者の竹下俊が訴えた。


「あんたはわからないかもしれないが…、新崎の親父は、地元じゃ知らぬもの無しの悪党だぜ? 暴力に長けて、人を簡単に騙す。この町の人間は、みんな新崎の親父に騙されてきたんだ。金をだまし取られているんだよ。あの男に」

「おう、それで?」

「あの男は、基本的に、夜は家にいるんだ。人を騙して得た大金で、この家を買って悠々と暮らしているんだよ。それが、昨日の夜はいないって話を聞いたんだ」


 竹下俊の言葉に、棚村太一、西城秋江らが「うんうん」と頷いた。

 西城秋江がゆっくりと言う。


「あいつ、声がでかいのよ。それで、一昨日に商店街で、『明日はお前の家に遊びに行くぜ!』って、どこかに電話を掛けているのを聞いてね」

「そうですね。私も商店街で聞きました。秋江さんが聞いた内容と同じです」

「おいおい、それで空き巣を決意したのか? 明らかに短絡的って言うか…」

「もちろん、裏付けはとっていましたよ」


 棚村太一がそう言って、呆然としている茜を見た。


「茜ちゃんに聞いたんです。『明日、お父さんは家にいないの?』って」

「あ、オレも聞きました。そうしたら、『うん、いないよ』って」

「私も聞いたわ。それで『女の人の家に遊びに行くらしよ』って言われたの」


 ほうほう…。


 そういえば、茜も同じようなことを言っていた気がする。「今日は女の人のところに行っていない」って。


 話を整理すればこうか。


 茜の親父は、この町じゃ有名の悪党だった。

 その悪党に、町の人間は騙され、脅され、金をとられていた。

 この三人が偶然、昨日の晩に茜の親父が家を留守にすることを知った。

 三人は示し合わせたわけでもなく、この家に空き巣に入った。

 しかし、お互いの気配に恐怖して、それぞれ、押し入れ、タンス、仏間に身を隠している内に眠ってしまった。その間に、茜の父親が帰宅して、何者かによって殺害された。天野さんも殺された。


「うーん…」


 よくわからないな。


 唸っていると、西城秋江が声を裏返しながら言った。


「ねえ、不法侵入したことは認めるわよ。だけど、あそこで死んでいる新崎のことは知らないわ!」

「でもなあ…」


 空き巣…、殺人…、この二つが同じ場所で起こったんだぞ? 関連性を疑わない方がおかしいんじゃないか? 


 それに、簡単にこの事件を警察にゆだねるわけにはいかない。今のままじゃ、ナイフを持ち、血まみれで立ち尽くしていた茜が犯人になってしまうからだ。茜は犯人じゃない。絶対に違う。これは、不老不死歴三十年の勘だった。



 必ず、オレの力で真相を突き止めてやる。


 竹下俊が苛立ったような口調で言った。


「おい。オレたちが悪いよ。空き巣に入ったんだもんな。だから、さっさと警察に通報してくれないか? その…、ここ、臭いんだよ」


 それには、棚村太一も申し訳なさそうに頷いた。


「そうですね…、この部屋…、新崎さんの血の臭気が…。それに、私は新崎さんを殺してなどいませんし…」

「私だって殺してないわよ!」

「そういわれてもな…」


 オレは茜と、茜の親父の死体、そして、空き巣三人を見比べながら頬を掻いた。

 竹下俊が芋虫のように体を動かしながら茜に向かって言った。


「ってかよ、そのまんまのことじゃないか? あんたがこの家に入ったら、あの娘が血まみれで、ナイフを持って立っていた。その前には、父親の死体。これ、完全に娘が殺したようなものだろうが。空き巣の俺たちとは関係ないだろうが」

「いや、無理に決まっているだろ」


 オレは気おされながらも言い返した。


「だって、茜は七歳だぜ? 大の大人を刺して殺せると思うか? まあ、体重を掛ければできないことはないよ。だけど、その際に声を出したり、暴れたりすると思うんだ」


 ちらっと、茜の親父の死体を見る。


「茜が、あんな筋肉粒々の男の力を止められるわけないだろう」

「いやいや、考えすぎだって」


 西城秋江が割り込むように言った。


「私、途中で気を失ったから、この部屋で何が起こったのかは覚えていないけど…、つまりそういうことじゃないの? あんた、新崎の娘のことを庇いたい気持ちはわからんでもないけど、私たちが殺したことにするのは無理があるわよ。きっと、運が良かったのよ。運よく、新崎が暴れなかった、すぐに死んでくれたんじゃないの? それか、ほら」


 彼女はそう言って、鼻でテーブルの方を指した。そこには、ビールの缶やおつまみが置いてある。さきイカなどは、血の臭気を吸って、しおっとしていた。


「見たところ、この男、酒を飲んでいたみたいだし、酔っぱらっていたんじゃないの? それで、何もわからないままに、娘に殺されたのよ」

「そうだ! そうに決まっている!」


 竹下俊が便乗した。


「そうですねえ…、この状況からして、そう判断するしか、ないですねえ」


 棚村太一も同調する。

 三人は互いに顔を見合わせて、嘆くような、ほっとしたような顔で頷きあった。


「この一件は…」

「確実に…」

「新崎の娘がやったことね」


 三人が、呆けている茜の方を見た。

 棚村太一が聞いた。


「茜ちゃん、君は…、お父さんを殺したのかな?」

「…うん、殺したよ」


 茜は虚ろな目で頷いた。

 茜の言葉を待ってましたと言わんばかりに、空き巣三人は顔を見合わせて、不二家のペコちゃんのように、かくかくと頭を上下に振った。


「やはり…」

「茜ちゃんが実の父親を…」

「殺したのね」


 そして、ここぞといわんばかりに声をそろえた。



「「「これで! 万事解決!」」」



「いや、ならねえよ」



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