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その⑮

 オレが首をかしげると、今度は西城秋江が口を開いた。


「私も、空き巣を働こうとこの家に入ったわ。時間は、確か九時半ぐらいだったかしらね? 最初にこの和室に入ったけど、この二人の姿は無かったわ」

「姿が…、無かった?」


 どういうことだ?

 示し合わせたわけではない。だが、年末ジャンボも目の玉を引ん剝くくらいの確立で、三人の泥棒が家に入ったんだ。出くわしてもおかしくないんじゃないか?


 オレは腕組みをして三人を見渡した。


「嘘…、ついてないよな?」

「「「ついてません!」」」


 三人の声がそろった。なんか怪しい。


 いや、まあ、無理な話ではないか。


「一応聞いておくけど、三人はどうして、タンス、押し入れ、奥の仏間に隠れていたんだ?」

「そりゃあ…」


 竹下俊が答えた。


「金目のものを物色していたら、人の気配がしてだな。あの時は全身の血が凍り付いたよ。それで、急いで、押し入れの襖を開けて中に隠れたんだ」

「棚村さんは?」

「私もそんな理由ですね。この和室を物色していたら、玄関の方から人が近づいてくる気配がして…、慌ててタンスの中に身を隠しました」

「そうか…」


 西城秋江の方を見る。


 彼女はびくっと肩を震わせてから、まくしたてるように答えた。


「私も、二人と同じ理由よ。この部屋で金目のものを漁っていたら、誰かが帰ってきたから。パニックになって部屋の奥にね」


 なるほど…。


 竹下俊がこの家に入った時間を正確に覚えていないから何とも言えないが、お互いがお互いにビビッて隠れたということか。例えば、最初にこの家に入ったのが棚村さんだとすると、彼はその後に入ってきた竹下俊に驚いてタンスに隠れた。その竹下俊は、後から入ってきた西城秋江にビビッて押し入れに隠れた。そして、西城秋江は、本命の茜の父親に驚いて奥の部屋に隠れた…と。


 三人が鉢合わせなかったのは、これで説明がつく。


「でもなんで?」


 それでも、納得できない部分があった。


「なんで三人とも、『隠れた』んだ? 縁側の窓を開けて、一気に逃げ出せばよかっただろうが」


 部屋は薄暗いんだ。顔を見られることはまずないだろう。

 すると、竹下俊が苦虫を噛み潰したような顔をした。


「む、無理なんだよ」

「無理?」

「前に、同じことを考えた人がいましてね」


 そう言って、棚村太一が話を継いだ。


「前にも、この家には空き巣が入っているんですよ。彼も、帰宅した新崎の父親に出くわして…、すぐに逃げ出したそうです。ですが…」


 話の途中で、身震いをする棚村太一。


 オレは彼が言おうとしていることを察して、壁際の茜の親父の死体に視線を移した。

 棚村太一が絞り出す。


「彼、とても屈強でしょう? 喧嘩も強いし、脚も速いんですよ。だから、その人、すぐに捕まってぼこぼこに殴られましてねえ。両足の骨、両腕の骨、あばら三本、折られているんです。あと、肺が一つ破裂していまして」

「なるほどね…」


 見たところ、この家の周りは木組みの塀で囲まれ、さらに、水が張った田んぼが囲んでいる。逃げられるのは玄関から町に続く一本の畦道だけだ。あそこを走って逃げたとして、喧嘩方面に運動神経が発達している茜の親父なら、すぐに追いついて半殺しにすることだろう。

 隠れた方が賢明。だが、見つかった時は一巻の終わり。というわけか。

 オレなら全身全霊を込めて走って逃げるな。という言葉を飲み込みながら、次に浮かんだ質問を三人にぶつけた。


「とは言うが…、お前ら、なんで今日…というか昨日に空き巣に入ったんだ?」

「それは…」


 捕まったら殺される。竜の巣穴に飛び込むようなものだ。そんなリスクを冒してまで空き巣に入って手に入れたかったものは何だろう?


 西城秋江が言った。


「今日がチャンスだったのよ!」


 その言葉に、隣の竹下俊と棚村太一が頷いた。


「ああ、今日しかなかったんだよ。安全に、この家に空き巣に入る日は…」

「そうですね。私も、今日しかないと踏んで空き巣に入りました。まあ、それを考えている人が二人もいるとは思いませんでしたが…」

「ああ? 今日しかなかった?」


 どういうことだ?



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