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その⑭

 三十分後。


 日輪が東の山から現れて、部屋の中を白い光で照らしだした。埃と血の臭気が漂うその中で、オレは縄で拘束した三人の前に仁王立ちしていた。


「さあ、説明してもらおうか」


 タンスの中で眠っていた、四十代くらいの男。

 押し入れの中で眠っていた、二十代くらいの若い男。

 奥の仏間で眠っていた、三十代くらいの女。


 どうして、茜の父親の死体がある部屋にいたのか。そして、天野さんの撲殺の件と何か関係があるのか。


 しっかり聞き出してやる。


 オレが睨むと、タンスの中で眠っていた四十代くらいの男が「待ってくれ」と口を開いた。


「…こ、これは、何が起こっているんだ」

「そりゃこっちのセリフだよ」

「こ、こっちのセリフって…、君は誰なんだ? どうして、あそこで、新崎が死んでいるんだ…」

「だから、こっちのセリフだっつーの!」


 オレは声を荒げると、男の他、二十代くらいの男と、三十代くらいの女に目をやった。


「とりあえず、お前ら、自分の名前と職業を教えやがれ」

「ぼ、僕は、『棚村太一』だよ」


 タンスの中で眠っていた、四十代くらいの男が言った。


「四十三歳で…。こ、この町で…、工場業を営んでいるんだ。ほら、知らないか? 『棚村家具』って店。あの店主なんだよ」

「あ、ああ」


 オレは曖昧に頷いた。


 それから、押し入れの中で眠っていた、二十代くらいの男に目を向ける。

 男は「ひい…」とひきつったような悲鳴を上げてから、名乗った。


「お、オレは…、『竹下俊』…。に、二十五歳だ。今は…、実家でニートをやっているんだけど…」

「おうおう、立派なことだな」


 次に、奥の仏間で眠っていた女に目を向ける。

 女は唇を尖らせ、舌打ちをしてから答えた。


「私は…、『西城秋江』。二十…一よ」

「いや、嘘だろ」

「三十二歳! 悪い?」

「サバ読む方が悪い」

「町のはずれにある、質屋で働いてるわ! 文句ある?」

「いや、ないよ」


 とりあえず、三人の素性はわかった。

 オレは学ランの内ポケットから取り出した手帳に、三人の名前と職業、年齢を書き記した。手帳を閉じてから、三人に聞く。


「で、改めて聞こう。お前ら、この家で何をしていた?」

「そ…」

「それ…」

「は…」


 息の合った言葉の繋ぎ方。


「あいわかった。お前らが共犯でいかがわしいことをしていたわけだな。よし、さっそく警察に行くんだな」

「いやいや! 待ってくれ! マジでいかがわしいことはしていないんだって!」


 竹下俊が二十代の若者らしい張りのある声を上げて反論した。


「だ、大体、お前は何なんだ! 人をこんな縄で拘束して! さっさと警察を呼べばいい話だろうが!」


 まあ、言っていることはごもっともだが。

 このまま茜を警察に渡したら、警察は茜が父親を殺したということで、事件を終わらせる可能性がある。


 それは何としても避けたい。


「じゃあ、何してたんだよ」

「だから、空き巣だって!」

「いかがわしさ全快じゃねえか!」


 すると、竹下俊の隣にいた、棚村太一が「おや」という顔をした。


「竹下さん、あなたも空き巣ですか…。いやあ、奇遇ですねえ。私も空き巣を働いていたんですよ」

「え、棚村さんもですか? いやあ、こんな偶然もあるんですねえ!」

「ちょっとちょっと! あんたたち。私を放って話を進めないでくれる? 私だって、空き巣をやっていたんだから!」

「おお! 秋江さんも! いやあ、素晴らしい偶然ですなあ」

「どうです? 今度、空き巣仲間として、一緒に飲みに行きませんか?」

「おお、いいですねえ」

「よし、行きましょうか。私、良い店知ってんのよ」

「おお、さすが秋江さん。じゃあ、秋江さんに任せるとしますか!」


 竹下俊、棚村太一、西城秋江の目が一斉にオレの方を向いた。

 棚村太一が言う。


「じゃあ、そういうことで」

「おう! じゃあ、一緒に酒を飲んで、今回の事件について語り合うとしますか…って! ちがあああううう!」


 オレは持っていた手帳で、三人の頭を叩いた。


「なんだよ! 全員空き巣かよ! ってか、なんで開き直って拘束解くように求めてんだこら!」


 M1でも通用せんばかりの気持ちのいいノリ突っ込みを決めたオレは、そのままの勢いで、棚村太一の頭をぺしぺしと叩いた。


「おい、おふざけ抜きで説明しろ。本当に空き巣なのか。あそこに倒れている親父とどう関係があるのか、何か不審なものを見なかったか!」

「そういわれましても…」


 空き巣のくせして、棚村太一は丁寧な言葉で言った。


「ほかの人はどうか知りませんが…、私は、本当に空き巣目的でこの家に入ったんですよ。そうですね…、時間は、九時ごろでしょうか? はい、昨日の夜のことですね」


 すると、隣で聞いていた竹下俊が割り込んできた。


「お、オレも空き巣しようと思って…、この家に侵入したんだ。時間はよく覚えてないな。だけど…、オレがこの部屋を物色していた時に、棚村さんと出くわしていないから、棚村さんが入ってくるよりも前かもしれねえな」

「棚村さんと、出くわしていない…?」


 オレが首をかしげると、今度は西城秋江が口を開いた。


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