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第五章 【2020・0523】 春茜編

慟哭が聴こえる


生きたいのだと

二〇二〇年 五月二十三日


 その日、オレと天野さんは、九州地方のとある村にある神社を訪ねていた。

 応対してくれた神主さんは、三十代前半と意外に若い見た目をしていて、鳥居を潜り錫杖を鳴らしながらやってきたオレたちを歓迎してくれた。


「天野様ですね。曾祖父から話は聞いています。どうぞ、ゆっくりして行ってください」


 天野さんに恭しく頭を下げる。

 オレは天野さんに聞いた。


「天野さん、なんだよ、ここは?」

「来る前に説明したでしょうが」

「いや、聞いてないんだけど? あんた、不老不死のくせしてボケたのか?」


 途端に、錫杖の先が飛んできて、オレの後頭部を勢いよく打った。

 オレが石畳の上で悶絶している頭上から、天野さんの呆れた声が降ってきた。


「百年くらい前にね、この村で起こった殺人事件を解決したの。九州に来たついでに、寄って行こうと思ってね」

「ああ、そう言うことね」


 この人、五百年も生きているせいで、日本のあらゆる場所に痕跡を残しているんだよな。

 オレが「いてて」と言いながら立ち上がると、袴を穿いた神主さんがにこにことしながら、本殿の方を指していた。


「募る話もありますし。とりあえず座りましょうか」



        ※


 本殿前の石段に腰を掛けて待っていると、神主さんがお盆に湯飲みを乗せて戻ってきた。


「どうぞ」

「ありがとうね」

「ありがとうございます」


 湯飲みの中には、甘茶が入っていた。これはありがたい。ここに来るまで休みなしだったから、オレの身体は糖分を求めていたのだ。


 石段に腰を掛け、甘茶を啜りながら、天野さんと神主さんは募る話をしていた。


「天野様…、実際に会うのは初めてですね」

「そうだね。この村に最後に来たのが…、百年前か」

「そうですねえ。曾祖父が神主をしていた時代です」

「あいつには良くしてもらったよ。流石にもう死んでるよね?」

「そうですね。私が五歳の頃に、肺がんで」

「で、あんたはあいつの跡を継いで神主をやっているわけってか」

「はい」


 若い神主さんは嬉しそうに頷いた。


「曾祖父の言いつけなんです。『これから先、天野という女性が訪ねてきたら、食料を分けてよくしてやってくれ』と」

「うん。今日はそのために来たんだよ」

「わかっています。天野様が来るにあたって、米や野菜を沢山取り寄せましたから」

「うん、恩に着るよ」


 天野さんが甘茶を啜る。そして、隣のオレの頭をぽんぽんと撫でた。


「この子がうるさくてね。『美味い飯を食わせろ!』って」

「そうですか。この村の野菜は美味しいですよ。特に、玉蜀黍なんかが、甘くて甘くて…」

 

 遅れて、神主さんは「おや…」って感じの顔をした。


「そう言えば天野様、そちらの少年は?」

「ああ、言ってなかったね」

「はい。曾祖父の文献にも載っていなかったのですが…」

「つい最近、私の旅に同行するようになったクソガキだよ」


 いや、三十年前だけどな。


 神主さんは特に言及することなく、「そうですか」と頷いた。


 オレは甘茶を飲み干して、神主さんに聞いた?


「文献って?」

「ああ…」


 神主さんが照れ臭そうに笑った。


「私の祖先がですねえ…、天野様の英雄譚を、絵巻物に描き記しているのですよ」

「英雄譚…」


 オレは天野さんに白い目を向けた。

 天野さんも少し恥ずかしそうに頬を掻く。

 神主さんが提案した。


「どうです? 蔵に収納してありますから、見て行きますか?」




新章開幕です。よろしくお願いいたします。

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