表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/102

その㉒

「もう一人、いたのかよ!」


 オレは錫杖を握った手で床を着いて跳び上がり、男から距離をとった。


 男は石丸刑事には目もくれず、オレの方に走ってくる。そして、あまり上手いとは言えない動きで、斧をめちゃくちゃに振ってきた。


 ガシャンッ! ドゴンッ! バキンッ! と、空を切った刃が、壁や扉に激突して、あらゆるものを砕いていく。破片が煙のように辺りに漂い、オレの鼻の奥をくすぐった。


 仮面の奥の男が言う。


「どういうことですか? 君は昨日、殺したはずですけど?」

「殺しただあ? ってことは! お前かよ! オレのイケメン顔に斧振り下ろした奴は!」

「ただの間抜け面でしたけどね!」


 大振りの一撃。


 上体を退け逸らせて、なんとか躱す。


「ははは! 残念だったな! お前らが人間とわかった以上! もう怖がる理由なんて無いんだよ!」


 天野さんの愛用している錫杖を、長く握り、中段に構えた。



「さっさとお前らぶっ倒して、天野さんを助けるぜえ!」

「残念ですが、その娘なら」


 男が言いかけたところで、オレは錫杖を槍投げのような動作で投げた。

 空を切った錫杖は、男の仮面に直撃する。


 バカンッ! と乾いた音が響き、男の仮面が粉々に砕けた。 


 オレは獣のような勢いで男との間を詰めると、がら空きになったその腹に蹴りを入れる。

 柔らかい。腹筋は鍛えていないな?


 仮面の奥から、チェックインの時に受付に立っていた初老の男の顔が現れる。


 倒れこんだ男をオレは睨んだ。


「おい、今、なんて言った?」

「その娘なら、既に…」

「ああ? なんて言ったんだよ!」

「話を聞けよ」


 話なんて聞いている暇は無かった。オレは錫杖を拾い上げると、先ほど同様、男の喉元に突きつける。


「天野さんが既に死体になっているとか、なっていないとかはどうでもいい。あの人の場所を教えろってんだ。ああ? 殺すぞ。お前らはオレらと違って何回も生き返るわけじゃねえだろ?」


 ぐっと、男のぼこっと出っ張った喉ぼとけに、錫杖を押し付ける。


 気道を圧迫された男は、淡が絡んだような呻き声を上げた。


「だ、だから…」

「ほら、早く言えよ」

「君の、後ろに…」

「え?」


 はっとして振り返る。


 そこには、天野さん、ではなくて、三人目の黒マントの男が立っていた。


 しまった! と、その場から飛びのこうとしたときにはもう遅い。


 男の振り下ろした斧が、オレの右肩に食い込んだ。


 メリッ! と、鈍い音が脳に直接響くようだった。


 肩の骨が砕け、肉が切れる。途端に、噴水のように血が吹き出した。


「くそがっ!」


 オレはそれでも、後退して、錫杖を構えた。しかし、腱を切断されたおかげで、右腕がだらりとたれる。


「なんだよ、なんで、三人もいるんだよ!」


 右肩から血が流れ落ちる。右半身が返り血で真っ赤になっていて、焼けるように熱くなっていた。天井にまで飛び散った血液が、まるで雨のように絨毯を濡らしていく。


 貧血の症状が現れ始め、地面が感覚を失ったようにぐにゃりと歪んだ。


 石丸刑事の上に倒れていた男。

 オレが拘束したはずだった男。

 そして、オレの肩を斧で抉った男がゆらゆらと立ち上がり、オレと石丸刑事を取り囲んだ。


 石丸刑事が手を上げて、降参のポーズをとりながら言う。


「君たちは、このホテルの関係者だね! 一体、ここで何をしていると言うんだ!」

「答えに辿り着いていたじゃないか…」


 オレに痛手を与えた男が、仮面を取り外す。石丸刑事並みに年老いた男が顔を現した。

 オレの血肉がこびり付いた斧の刃を舐めて、男は言った。


「快楽殺人だよ。他に理由があるかい?」

「快楽殺人だぁ…?」


 オレは挑発するように言ったが、語尾に力が入らなかった。すぐに石丸刑事が宥める。


「お前は不老不死だが、苦痛は感じるだろう。しゃべるのは控えておけ」


 忠告を無視して、オレは続けた。


「このホテルの、行方不明事件は、全部あんたらの仕業かよ…」

「そうだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ