その⑳
「残念ですが、これ以上話すことはありませんよ?」
オレたちの背後で、男の声がした。
背筋がぞくっとする。
「石丸刑事!」
オレは咄嗟に、彼の身体を突き飛ばしていた。
二人で一緒に、血生臭い絨毯の上に倒れこむのと同時に、すぐ傍の扉が「ガシャンッ!」と激しい音を立てて砕けた。
オレたちの頭の上に、粉々になった木の粉が降りかかる。
見上げると、黒いマントを身に纏い、白い仮面を被った男が立っていた。片手にはオレを殺した時と同じ斧。
「あ! お前! オレを殺した!」
「殺した?」
仮面の奥の男が首を傾げた。
「何のことです?」
扉に突き立った斧を抜き、オレの脳天目掛けて振り下ろした。
オレは反射で、天野さんを錫杖を翳していた。
ギンッ!
と、辺りに耳を劈くような金属音が響き渡り、オレの肩の関節が軋むような音を立てた。
斧の斬撃を受けた錫杖は、大きくしなっていた。
「くそ…」
「その錫杖…、ああ、彼が言っていた少年ですか…」
仮面の男は妙に納得する。
「おらあっ!」
オレは火事場の馬鹿力を発揮して、男の斧を押し返した。
男は、よたよたと後ずさる。
オレはこの隙に、倒れたまま唸っている石丸刑事に呼びかけた。
「石丸刑事! しっかりしろよ!」
「じゃあオレの上から退けやああ!」
オレは石丸刑事の上から退いた。
はっとして前を向くと、あの黒マント白仮面男がオレとの間を詰めていた。
「ああもう!」
オレは振り下ろされた斧の刃を、錫杖を使って、華麗にいなした。
「二度目はやられねえぞ!」
片手斧とは言えど、かなりの重量がある。
オレに受け流されたことにより、男は大きくバランスを崩して前のめりになった。
その隙を突いて、オレは男の首筋に錫杖を叩き込んだ。
「成敗!」




