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その⑫

 ニ十分後、石丸刑事の運転するヴィッツは、昨日オレが宿泊する予定だった、ホテル・ピーターの前に停車した。


 オレは恐る恐る聞いた。


「おい、まさか、乗り込むんじゃないだろうなあ」

「馬鹿言え、偵察だよ」


 石丸刑事は、窓からホテルの外観を眺めた。

 オレも釣られて、窓から外を眺める。


 昨日は気が付かなかったことだが、正面から見ると、このホテルには窓が無かった。なので、薄汚れた外壁が目立ち、のっぺりとした印象を抱いた。


「このホテル、窓が無いんだな」

「ああ、そうだな、オレも思ったんだよ。これじゃあ、日当たりが悪くて仕方がない」

「いや、でも、このホテルの受付の男が言ってたわ、『山側に窓があるから、景色が悪い』って」

「山側に?」


 ということは、窓は、オレたちが停車している面から裏側にあるってことか。


「なんでこういう作りにしたんだろうな。ホテルなんて、接客業なんだから、外観も綺麗にしないと行けないのに…」


 正面に窓を付けず、日光の差し込みが悪く、景観も悪い山側に窓を取り付けた。しかも、そこには宿泊部屋が位置しているのか。


 あのホテルにチェックインしたとき、客の少なさに気づいていたけど…、確かに、無料券でももらわないと、こういうホテルには泊まらないな…。別に、天野さんのチョイスを疑っているわけではない。


 石丸刑事は、窓を少し開けて、煙草に火を点けた。煙を吐いてから言う。


「にしても、お前、あの別嬪とこんなところに泊まってたのかよ、羨ましいなあ」

「別嬪って、天野さんのこと?」

「ああ、二十九年前に会った時は何も言わなかったが、ありゃ別嬪だ。一度でいいから、ああいう綺麗な女とやってみたかったよ」

「いや、やってないから、オレと天野さん」

「ん? ってことは、お前、四十三歳になっても童貞か? ええ?」

「いや、うん、童貞ですとも」


 声に詰まりながら頷くと、石丸刑事は拳を高々と振り上げた。


「勝った!」

「何を勝ち誇っているんだよ」


 石丸刑事は口から煙をぷかぷかと吐きながらオレにさらなる情報を求めた。


「まあ、一緒に泊まっていた天野が消えて、それを探しに出たお前が殺されて…、川に流されたところまでは理解した。他に、気になったこととか無いか?」

「気になったことね…」



 オレは顎に手をやって考える。

 昨晩は、あの化物から逃げるのに必死だったから、そこまで周りのことに気が回っていないんだよな…。


「じゃあ、質問を変えよう。お前は、自分を殺した奴が、どんな人間だと思うか?」

「どんな人間って…」


 そう考えた後で、オレは背筋がすっと寒くなるのを感じた。

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