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その⑩

 彼は、二十九年前に、オレの親父が殺された時に、現場に駆け付けてくれた巡査だった。と言っても、四六時中「帰って将棋したい」と言っていた役立たずだが。


「石丸巡査、あんた、ここで何を?」

「石丸巡査じゃなくて、石丸刑事な? 昇進したんだよ」


 石丸巡査は、煙草をぺっと吐くと、砂利の上で踏み潰した。刑事とは思えない行為を働きながらオレに説明する。


「通報があったんだよ、『裸の少年が、川を流れてきた』って。それで、暇だったから駆け付けてみればこうだ。お前が、頭をパックリと割って死んでやんの。最初は顔を思い出せなかったが、その手に握っている錫杖で記憶が戻ったよ」


「うん?」


 オレは、無意識の内に天野さんの錫杖を握り締めていた。

 錫杖がある。それに、オレは一度、頭をかち割られて死んだってことか。


「いやあ、びっくりだよ」


 石丸刑事は、隈を浮かべた目でオレの裸体を下から上まで見渡した。


「二十九年前と、全く変わってねえんだな」

「あんたは変わり過ぎですよ」


 あの頃の面影が全く無い、無精ひげを生やして、中年太りして、背筋もぐにゃっと曲がっている。


 オレに容姿を指摘された石丸刑事は不機嫌そうに言った。


「オレのことはどうでもいい、何があったか説明しろや。どうして、二十九年前に行方不明になったお前が、この河原で死んでいるのか!」

「だから、変な男に、殺されたんだよ。多分、頭を片手斧で、ガーンッ! って」

「斧で? この河原で襲われたのか?」

「違う違う、ホテル・ピーターに泊ってて…」


 ガンガンと、二日酔いの後のような頭痛に耐えながら記憶を辿っていると、突然、石丸刑事がオレの肩を強い力で掴んだ。


「おい! 今、なんて言った? ピーターってか?」

「ん? ああ、だから、オレと天野さんで、ホテル・ピーターに泊まっていた時だよ。深夜に、天野さんが部屋から消えたから…、探しに外に出たんだよ。そうしたら、一階のエントランスで、黒いマントを纏って、白い仮面を着けた男に遭遇してな…、一度は逃げたんだけど…、四階の自分の部屋の前で、追いつかれて、そのまま殺されたんだ」


 と、簡潔的に説明した後で、オレは辺りを見渡した。


「おい石丸刑事、ここは何処だよ。ホテル・ピーターからどのくらいの距離がある?」

「この河原から、ホテル・ピーターまでは、大体十キロほどだな」

「なあ、それって」

「多分、お前はその男に殺された後に、この川に死体を遺棄されたってことだな」

「うへえ、オレ、不老不死になって結構長いけど…、殺されるのは初めてだな…」

「不老不死でよかったな」


 石丸刑事はそう言って、オレの裸の胸を指で突いた。


「みぐるみを剥がされたってことは、おそらく、死体の身元がわからないようにするためだろうな」

「ああ、確かに、オレあの時、ホテルの浴衣を着てたから…」

「とにかく、オレの車に乗れや。河原を上がったところに停めてあるから」


 石丸刑事は着ていたジャケットを脱ぐと、オレの肩にふさっと被せた。


「話はそれからだ」

「中年臭い…」

「おめえ、また川に沈めてやろうか?」


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