その⑨
どのくらい眠っていただろうか?
目を覚ますと、オレは灰色の空を見上げて倒れていた。
「うう…、なんだ?」
頭が割れるように痛い。
首だけを動かして辺りを見渡すと、オレは、河原の砂利の上に横たわっていることがわかった。なんか寒いな、と思って、首から下に目を向ける。
「むむ!」
オレの身体は、一糸まとわぬ、すっぽんぽん。
「きゃあ! なんだこれ!」
女みたいな叫び声を上げて上体を起こすと、すぐさま、後頭部を何者かにはたかれた。
「おら! すぐに起きるな!」
「ふぎゃっ! 何すんだよ!」
食い気味に振り返ると、そこには、焦げ茶色のジャケットを着て、髪の毛がぼさぼさの、中年男が立っていた。口には火の点いた煙草が咥えられて、もくもくと煙を漂わせている。
中年男は、オレに向かって軽く手を上げた。
「よお、久しぶりだな、詐欺師の息子」
「ん?」
二十九年ぶりに聞くセリフ。
「あんた、誰だ?」
「覚えてねえのか? オレは行方不明になったお前を必死こいて探していたってのに…」
そう言って、中年男は、ジャケットのポケットからあるものを取り出して、オレに翳した。
男が取り出して見せたもの、それは、警察手帳だった。
「ああ!」
「ようやく思い出したか!」
「石丸名人!」
「誰が棋士じゃ! ってか、オレの趣味覚えていってことは、オレのこと覚えているんじゃねえか!」
彼は、二十九年前に、オレの親父が殺された時に、現場に駆け付けてくれた巡査だった。と言っても、四六時中「帰って将棋したい」と言っていた役立たずだが。




