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その③

 結局、じゃんけんで風呂が先になった。


「とにかく、部屋に行こう」


 天野さんがオレの袖を引っ張って、エレベーターの扉まで連れていく。


 右側に設置された「←」のボタンを押して、エレベーターが降りてくるのを待っていると、入れは、ふと、扉の上にある看板に気が付いた。


 それは、何の変哲も無い、アルミのような金属でできた階数表示の看板だ。



 一階…「spring」

 二階…「summer」

 三階…「autumn」

 四階…「winter」



 そう、刻印されている。


 オレは天野さんに聞いた。


「なあ、天野さん、あの英語、どういう意味だ?」

「え、ああ、わからない」


 天野さんは気まずそうに首を横に振った。


「なんで? 五百年生きてきたんだろ?」

「いや、だって、ずっと日本に住んでいるんだから、英語なんて使わないし…」


 すると、背後から先ほどの男性の声が聞こえた。


「春、夏、秋、冬、という意味ですよ」


 振り返ると、受付の男性がにこやかに立っていた。


 男性は骨張った指で、金属板を指さす。


「このホテルの創業者が、海外の方だったので、各階に、四季の名前を付けたかったようですね」


 なるほど、一階が「春」で、二階が「夏」、三階が「秋」で、四階が「冬」というわけか。


 オレが感心していると、天野さんが横から脇腹を小突いた。


「あんた、四季の英語くらい、中学で習うでしょうが」

「いや、だって二十九年も生きていたら、忘れるさ」


 お互い英語に関してはポンコツということが判明したところで、エレベーターが一階に到着した。


 男性に一礼してから、オレたちはエレベーターに乗り込んだ。


 四階に到着する。


「四階ってことは、冬か!」


 わざわざ各階に四季を当てはめているのだから、雪の模様の絨毯だとか、白うさぎの置物があったりと、きっと冬にちなんだ特徴があるものだと思っていた。しかし、エレベーターを降りてみると、何とも味気の無い光景が広がっていた。


 床には薄汚れた赤い絨毯が敷かれ、壁紙は赤茶一色。


 オレは裏切られたような気分で、床を蹴った。


「なんでえ、内装にまでこだわるのが一流のホテルマンだろ?」

「そりゃそうでしょ、期待しすぎ」


 天野さんはそっけなく言うと、オレの袖を引っ張った。


「ほら、部屋に入るよ?」


 エレベーターを出て突き当たり、右に廊下を曲がって暫く進み、右手にある「四〇三号室」が、オレたちが今晩泊まる部屋だった。


 鍵を使って開けて中に入る。


 二人部屋ということもあって、なかなか広い。ふかふかのベッドが二つ。バスルームとトイレは別々だ。特別入れるものは無いけれど、冷蔵庫も完備されていた。


「まあ、悪くないな」


 オレは白いシーツが被せられたベッドに、リュックを投げた。


「悪くないでしょ?」


 天野さんはまんざらでもないように薄い胸を張った。


「今日はたんと贅沢しちゃいなさい! なんたって、食べ放題だから! お風呂入り放題だから!」


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