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第三章【2015・0916】秋の眠り

夕暮れに祈るは北斗七星


天野旅路に流れるは


導き三歩流星群

 二〇一五年 九月十六日


 公園のジャングルジムのてっぺんに腰を掛けたオレは、ブランコの傍で菓子のゴミを啄んでいる鴉を眺めながら、天野さんに買ってもらった腕時計に視線を移した。何か不吉なことでも起こるのか、四時四十四分ちょうど。一人で「リーチだぜ!」と叫んでみたが、その言葉も、秋の夕暮れに吸い込まれていった。


 昨日までの、オーブンで焼かれるような猛暑はどこへやら。黒くなりつつある山から、そよそよと柔らかな風が吹いてオレの頬を撫でた。涼しいと言うよりも、寒い。オレは大げさに身震いして、さながら、館を警備する武士のような面持ちで天野さんの帰りを待った。


「天野さん、おせえなあ」


 そうぼやくと、図ったように、公園に白い着物を着た女性が入ってきた。


「あ、帰ってきた」


 オレはひょいっとジャングルジムから飛び降りる。着地時の衝撃を上手く緩和できず、足の裏から脳天に掛けて、痺れるような衝撃が駆け巡った。


「いてえ…」

「大丈夫?」 


 天野さんがぱたぱたと駆け寄ってきたので、オレは涙目、そして、涙声になりながら「大丈夫!」と親指を立てておいた。


 オレの馬鹿な行動は無視して、天野さんは「やったわよ!」と、オレの今日の成果をm市せてきた。


「大量ね」

「お、すごい」


 天野さんが両手いっぱいに抱えて帰ってきたもの。それは大量のサツマイモだった。一つ一つがまるまると太っていて、鮮やかな赤茶色をしている。ざっと数えて、十個くらいだろうか? これで三日は食いつなげそうだ。


「こんな大量なサツマイモ、どうやって手に入れたんだ? 買ったわけじゃないだろ?」


「ああ、簡単よ」


 いたずらっぽい笑みを浮かべて、天野さんはオレにウインクした。


「サツマイモ畑に行って、作業しているおじさんに『おとうさん! なにやっているんですか?』と聞くだけで、みんな得意げになって『サツマイモだよ! 食ってみるか?』って分けてくれるの!」

「サツマイモなんて、みりゃわかるだろうに」

「いや、土に埋まっているからわからんでしょ」


 とにかく、余計な出費をせず、今日と明日の食料が手に入ったことは素直に喜ぶべきだった。


「じゃあ、さっそく焼いていくわ! 克己! 落ち葉を集めて!」

「おうよ!」


 その日は、公園で焚火をしての焼き芋パーティーとなった。近所の住人に「放火されてる!」と通報されたのは言うまでも無い。

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