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その④

 十分後、やっと理不尽な暴力から解放されたオレは、顔を泥まみれにして、鼻から血を流しながら蜜柑の木の下に正座させられていた。


 女は「まったく!」と、オレからはぎ取った学ランの上着を使って、自分の顔面に付着した蜜柑の果汁を拭き取っている。


「あの…」


 オレはそっと手を上げた。


「さすがに、やりすぎじゃないですか?」

「ええ? なんで? あなたが蜜柑をぶつけて来たから報復しただけじゃない。因果応報って言葉を知らないのかしら?」


 旅人は先ほどに比べて、随分と女らしい口調に戻っていた。


 近くで見ると、やはり若い印象だ。声の質とか、頬の張りといい、十八歳くらいだろうか?


「まったく、信じらんない! 人に蜜柑を投げる奴があるかしら! 乱世なんて、果物なんて高級品よ? 私、食べ物を粗末にする人が一番嫌いなのよね!」

「人に暴力振って、みぐるみを剥ぐ人は嫌いじゃないんですか?」

「大っ嫌い」


 旅人は、蜜柑の汁でべたべたになった学ランをオレに投げた。


「だめだわ。べたべたが取れない…、着物にもついちゃったじゃない! これはもう捨てるしかないわね。あーあ、結構気に行ってたんだけどなあ。もう佐々木さん生きてないのに…」

「ごめんよ」


 まあ、投げたのは俊介だけどな。

 すると、女は思い出したように手を叩き、オレの顔にぐっと顔を近づけてきた。

 水晶のようにころんと透き通った目を視線が合う。

 オレは心臓がどきっとするのを感じながら、女の話に耳を傾けた。


「あなた、この村の人間でしょ? 少し聞きたいことが…」

「うううううううううん、そうだけど…」

「動揺しすぎでしょ!」


 俊介と同じつっこみ。


 女は呆れたような顔をして、もう一度聞いた。


「いい? あなたは、この村の、人間、でしょ?」

「そそそそそそそそうだよ」

「あい、わかった。この村の人間じゃないってことね。邪魔したわね」

「いやいや! この村の人間だから! ちょっとシャイなだけだから!」


 オレは踵を返して立ち去ろうとする女を引き留めた。


「オレの名前は、笠本克己。この村の人間だよ」


 その証拠にと、オレは学ランの袖に着いた校章を女に見せた。すぐ近くにある中学のものだ。


 オレがこの村の人間であることを確認した女は、「そう、よかった」と、蜜柑の汁で汚れた胸を撫でおろし、オレに名を明かした。


「そう、よかったわ。私は天野。旅人よ」

質問コーナー

Q「天野の好きな食べ物は?」


A「なんでも食べます。お腹が空いたら、芋とか掘って食べます。処世術が上手いので、その気になれば、回らない寿司も食べられるそうですよ」

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