その⑩
オレの方にぐっと体重を掛けてきて、その豊満な胸をオレの腕に押し付けてくる。
そのやわい感触に、オレの身体が沸騰したように熱くなった。
「な、な、な、なにを…」
「あは、可愛い。顔が真っ赤…」
遥さんの冷たい手が、オレの紅潮した頬に触れた。
いや! だめだ! 理性を保て!
「あの人、優しいんだけど…、優しすぎて、刺激が足りないのよ」
オレの首筋を指が撫でて、ゆっくりと胸の辺りに降りてくる。
「君みたいな若い子…、久しぶりに見たから、ちょっと、どきどきしちゃって…」
「あ、あは、ははは」
遥さんの目はとろんととろけていた。
オレは舌を噛み、その痛みで理性を保つと、遥さんの手をやんわりと離した。
「すみません、あなたには明憲さんがいますから…」
「あの人はまだ帰って来ないわよ。もちろん、君のお姉さんもね」
お姉さん…、天野さんのことか。
「さっき見たけど、まだアトリエで絵を描いていたから」
「でも…」
「年上の女性が、こんなに頑張って誘っているのよ? 私の鼻をくじかないでよ」
「ひいっ!」
耳元の息を吹きかけられて、オレは縮みあがった。
その隙を突いて、遥さんはオレの肩を掴むと、勢いよくベッドに押し倒した。
「ね? いいでしょ?」
キスをするんじゃないかっていうくらい、遥さんは顔をオレに近づけてきた。
あああああ! 助けて! 天野さん! オレ童貞卒業したいけど、さすがに人の女性には手を出したくないよぉ!
「ね…」
遥さんの唇が迫る。
ああああああ! もう終わりだあ!
オレが諦めて目を閉じた、その時。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!」




