その⑦
「うう、食べ過ぎた…」
夕食を終えて部屋に帰る途中の廊下で、オレは腹の苦しみを天野さんに訴えた。
「張り裂けそうだ…」
「食い意地張り過ぎよ」
天野さんは腹八分目に抑えたようで、まだまだ余裕がみられる。
「どうする? 田中に言って、胃薬でももらおうか?」
「いや、田中さん、食事が終わったら、町に買い出しに出たんだ。だから、暫く帰ってこないってよ。それに、胃薬なんておっさんみたいで嫌だよ」
「おっさんでしょ。見た目十四。中身三十のおっさんでしょ」
「何ですか? 五百歳のばけもの」
「腹殴ろうか?」
腹を殴られるのは御免なので、そこらで口を噤んだ。
部屋の前に到着する。
天野さんはオレの頭をポンポンと撫でた。
「とりあえず、私は明憲の坊ちゃんのところに絵を描いてもらいに行くから、お腹が苦しいなら休んでたらいいわ」
「おうおう、そうする」
「ああ、めんどくさい。ご飯食べたから、眠いのよね…」
天野さんはぶつぶつと言いながら、欠伸を噛み殺した。
「まあ、このくらいのお礼はしてあげないと…、じゃあ、行ってくるから、しっかりお腹を休めるのよ」
「早くいけよ、母さんじゃあるまいし!」
「言われなくとも行きますよーだ」
天野さんはオレに手を振ると、また、もと来た廊下を戻っていった。
オレは込み上げてくる吐き気に耐えながら、部屋の扉を開けた。