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その④

 天野さんは悪そうな笑みを浮かべて、敷島明憲さんの腹を小突いた。

 それでも敷島さんは気を悪くすることなく、恭しく頭を下げた。


「とりあえず、部屋に案内します。お召し物は洗濯しますから、部屋着に着替えていただけますか?」


        ※


「昔は、沢山人が住んでいたんですけどね。あの件以来、辞めてしまう人が多くて」


 敷島明憲さんは自嘲気味に言いながら、オレたちを二階の部屋に案内してくれた。


 話によると、この館は四階建て。一階に応接間や食堂。二階に来客用の部屋。三階に、敷島明憲さんらの部屋。そして、一番上の四階に、田中太一さんら執事の部屋があるらしい。


 各階を繋ぐのは、玄関から入って突き当たったところにある螺旋階段と、外に取り付けられた非常階段。エレベーターはあったが、随分前に壊れて動かなくなったという。


 二階にある、来客用の部屋は全部で六つ。オレと天野さんは、螺旋階段を出て、すぐ近くの二部屋をあてがわれた。


「どうぞ、荷物は中に運んでいます。代えの服もありますので、着替えたら、外の籠に入れておいてください。シャワーの用意していますから、いつでもお声掛けくださいね」


「ありがとうございます」


「では、また暫くして」


 敷島明憲さんはオレたち恭しくお辞儀をすると、階段を上って三階にいってしまった。

 廊下に人が居なくなると、オレは緊張の糸を緩めて、天野さんに言った。


「凄いな、あの人。さすが名家の頭首って感じだな」

「そうねえ、昔は餓鬼ってイメージだったけど、父親が居なくなってから、自覚が芽生えたのかしらね」

「そろそろ教えてくれよ。五十年前、ここで何があったんだよ」

「あ、そう言えば言ってなかったわね」

「話についていけなくて、ちょっと肩身が狭かったんだよ」

「なに? 膨れてんの?」

「膨れてねえよ!」


 まあ、悪い事件が起こったことは確かだよな…。これだけ外観と内装がいい館なのに、住んでいる人間が三人しかいない。しかも、奥さんはつい最近嫁いだばかりの若い女。


 オレが廊下を見渡して詮索していると、天野さんは「こら」と言ってオレの頭を叩いた。


「失礼の無いようにね」

「いや、あんたさっきから失礼ばっかりだよな?」

「私は良いのよ。なんたって、この家を救った英雄なんだから」

「親しい仲にも礼儀ありって言葉をご存じでない?」


 初めてあった時もそうだったが、この人は人との距離の詰め方が違うんだよな。


「とりあえず、汚れた服は脱いで、代わりの奴に着替えるわよ。話はそれからね」

「はいはい」

「十分後に克己の部屋に集合でいいかな?」

「おう、いいぞ」


 それだけ言うと、オレは踵を返して自分の部屋に入った。



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