その②
その時、後方からのエンジン音が聞こえた。振り返ると、白いトラックが迫ってきている。
オレと天野さんは目を見合わせてから、道路の右端に避けた。だが、トラックはブレーキを駆けて減速すると、オレたちの横に停車した。
窓が開いて、無精髭を生やし、作業着を着た男が顔を出す。頬の皺から察するに、五十歳から六十歳くらいだろうか?
男はオレたちを一瞥して言った。
「もしかして! 天野さんじゃないですか?」
「え…」
オレは困惑して、助けを求めるような目を天野さんに向けた。しかし、彼女もまた「誰だこいつ?」という顔を隠せずにいた。
無精髭の男は、自分の鼻を指さした。
「私ですよ、私! 五十年前に、敷島家の召使いだった!」
「あ、ああ!」
ピンと来たのか、それとも、話を合わせただけなのか、天野さんは手を叩いた。
「そうか! 確か、田中くんだっけ!」
「いや、山田ですよ」
「下の名前は、太郎!」
「いや、太一ですけど…」
自分のことを覚えてくれていない天野さんに、田中太一さんは悲しそうな顔をした。天野さんは「あれれえ?」と頭を掻く。
田中太一さんは、トラックの荷台の方を指して言った。
「とりあえず、乗ってくださいよ。敷島亭まで距離がありますし、ご主人から話は聞いてます」