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第二章【2006・0807】夏の館

「愛」などいらない


手繰るは「永遠」


「関心」などいらない


駆けるは「一瞬」

 二〇〇六年八月七日。


 駅を降りてから三時間ほど歩き続けているが、天野さんの言う目的地は一向に近づいてこなかった。既に太陽は西に傾き、木々に囲まれた道路を歩くオレたちの影を長く写す。昼間の猛暑はまだ地上に留まり、オレたちが歩を進める度に、体力を容赦なく削っていった。


 頬を温い汗が伝った。指で拭い、舌でぺろりと舐めるとほのかにしょっぱい。


 リュックの横のポケットに差したペットボトルを取り、キャップを開けて傾けた。ちょろっと、この日射の中で熱された水が舌の上に落ちる。


 ボトルを垂直に傾けても、それ以上は出なかった。



「ああもう!」



 オレはボトルを思い切り、アスファルトの上に叩きつけた。


「こら!」


 すかさず天野さんが怒鳴った。


「ダメでしょ! ポイ捨てしたら!」

「だったら! 水をくれ! 水を買ってくれ! 喉が乾いて死にそうだ!」

「死ぬわけないでしょ、私もあんたも不老不死なんだから」


 馬鹿にしたようにふふっと笑う天野さん。


 オレは発狂して、地面に転がったペットボトルを踏みつけた。


「いつまでこんな旅を続けるつもりだよ!」

「いつまでって、不死を治す方法を見つけるまで…」

「何年! 何年経ったとおもってやがる!」

「さあ、最近カレンダー見ていないから忘れちゃったなあ」

「十六年だこら! 十六年、意味もなく日本中を旅しているんだぞ!」

「なによぉ、たった十六年じゃない。私なんて、五百年は生きているのよ?」

「オレはもう人生の半分生きているんだよ!」

「え、そうなの!」


 大げさに驚く天野さん。


「あんた、何歳だっけ?」

「不老不死になったのが十四歳! 十六年生きてるから、もう三十歳なんだよ!」

「ありゃあ、おじさんじゃん」

「五百年生きているお前はバケモンだろうが!」


 そう叫んだ瞬間、目にも止まらぬ速さで、天野さんが握っていた錫杖が飛んできて、オレの額に激突した。


「グへえ!」


 オレは猫が踏みつぶされたような叫び声を上げて、熱されたアスファルトの上に背中を打ち付ける。


「女の人に、『化け物』なんて言っっちゃダメよ?」


 天野さんはオレの腕を掴んで立たせた。


「ごめんね。最近資金繰りに困ってて…、水もまともに買えないのよ。もう少ししたら目的地に着くから、それまでもう少し我慢してよね」

「ちっ、わかったよ」


 オレは口元を拭った。

 十六年前、不老不死になったオレは、彼女の旅に同行することになったが、不便なことだらけだ。食べなくても死ぬことは無いが、「空腹」であったり、「喉の乾き」等はしっかりと感じるということ。疲労は身体に蓄積するので、永遠に動き続けることはできないこと。


 後は、成長しないことだった。


 あの事件十六年の歳月。


 オレと天野さんは、「不老不死を治す方法」を探して旅に出たものの、一向にそれらしい手がかりを見つけることができていない。ただ、意味もなく日本一周の旅をしているだけだった。


 旅の資金は、主に、旅先で日雇いのバイトを見つけたり、昔交流のあった人を尋ねていくらか分けてもらったりして手に入れていた。だが、ここ最近いい仕事にありつくことができず、金の無い日々が続いていた。しかも、この季節、この猛暑だ。ホテルに泊まる金も無いので、野宿。藪蚊が群がってきて身体中を何度も食われた。


「あー、クーラーの部屋に入りてえ…。アイスくいてえ、コーラ飲みてえ…」

「十六年経ってもその煩悩を捨てられないのって、いかがなものかしらね」

「あ?」


 オレが汗まみれの顔で天野さんをひと睨みすると、彼女はそれを無視して、「ようやくね」と、前方の看板を指さした。


 道路の端に、薄汚れた看板が立っていて、「ようこそ! 村佐村へ!」と、薄汚れたペイントで描かれていた。


「むらさ村?」

「うん、次の目的地ね」

「ここに何の用だよ」


 オレは興味無いように言ったが、足は自然と速まった。

 天野さんも歩を少し速める。


「ここは、五十年前に、ある事件で来たことがあるのよ」

「五十年前に?」


 父さんも母さんも生まれていない時代じゃないか。どんな事件だったんだろう…。

 オレが好奇心で光る目を向けていることに気が付いた天野さんは、「ええと、確か」と、オレに五十年前のことを話そうとした。



 その時、後方からのエンジン音が聞こえた。振り返ると、白いトラックが迫ってきている。


どうでもいい話


克己の、強がっているけど、どこかビビりで、ツッコミが上手い姿は、私の理想の弟です。頭なでなでしてぎゅっと抱きしめてあげたい。気持ち悪いか。

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