表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/102

その⑫

 オレの理解力が皆無なのか、それとも、天野さんがおかしいのか。

 オレが見た時、天野さんは正真正銘死んでいた。のか? じゃあ、今、オレの目の前にいる天野さんはなんだ? 「生き返った」だなんて表現しているけど、ゾンビみたいなものなのか?


「あんた、何者?」

「その話は、ややこしくなるから控えるわ」

「既にややこしんだけど」

「私は死んでいた! でも生き返った! これにてお話終了! 本題に戻るわよ!」


 本題とはつまり、誰がオレの親父を殺したのか? ということだった。

 強引に話を戻した天野さんは、犯人の行先について推理をした。


「簡単なことよ、克己、あんたは部屋の扉の前でずっと待機していたんでしょ?」

「ん? ああ、そうだよ、あんたが貸してくれた錫杖を持ったまま」

「つまり、あんたのお父さんを殺して、そこに駆け付けた私も殺した犯人の逃げ場所は、二つあるってことね」

「二つ?」


「おい旅人! それって、玄関から逃げるか、ベランダから逃げるか。ってことか?」


 石丸巡査が頭の悪いことを言った。

 天野さんは敬語を交えてやんわりと否定した。


「違いますよ。入り口の扉には克己がいて、ずっと見張っていたんだから、まず扉から外にでることは不可能です」


「じゃあ、ベランダから逃げたのは?」


「それは正解です。そしてもう一つが、『まだこの部屋に留まっている』という手ですね」

「え…」


 青ざめていた顔がさらに青くなる石丸巡査。歯をカチカチと鳴らしながら天野さんに聞いた。


「もしかして、まだ、この近くに、殺人鬼が…?」


「可能性の話をしました。押入れとか、お風呂とか、一通りは調べて、人間がいないことは確認済みですが…、もしかしたら、意外なところに隠れているかも」

「ええ、いやだよお、もう『ベランダから逃げた』ってことにしようぜ」



 こいつ、本当に警察官なのか?



 強引に犯人の行動を決定する石丸巡査に、天野さんは厳しい現実を突きつけた。


「そうですね。私も、克己も、『ベランダから逃げた』という説を推奨したいんですけど…、それだと少し問題があるんです」

「問題?」

「はい」


 オレと天野さんは顔を見合わせると、フローリングに足を踏み入れた。

 親父の血だまりを踏まないように気を付けながら、慎重に移動すると、窓を開けて狭いベランダに立った。

 ベランダは、親父の専用スペースのようなものになっていて、足元の灰皿には大量の煙草の灰が捨ててあった。


「下、見てくださいよ」

「ああん?」


 石丸巡査は、怪訝な顔をしながら、ベランダの手すりか身を乗り出して真下を見た。

 オレはさっき天野さんと一緒に見たので、何があるかはわかっていた。


「なんだよ、田んぼがあるだけじゃねえか」

「田んぼですよ? しかも、春になって水を入れ始めてぬかるんでいる田んぼですよ?」

「それが、どうしたんだよ…」


 ここまで説明しても察しの悪い石丸巡査。


 オレはじれったくなり、乱暴に言った。


「だからよ! ここは二階だぜ? ベランダから逃げるにしても、真下は田んぼなんだ! 降り立った時に、絶対に足跡が残るはずだろう! そのくらいわかれよ、この無能警察!」


「ああ?」


 石丸巡査は、どすの効いた声でオレを睨みつけた。

 それから、もう一度ベランダから身を乗り出して下を見る。


「確かに…、足跡は無いな…」

「だろう?」


 そこが、オレと天野さんで悩んでいる点だった。


「玄関はオレが見張っていたから、誰も出ていないことは確かなんだよ。室内だって、一通り探して人間がいないことは確認済み。じゃあ、消去法で、逃げ道はベランダになるんだけど、それでも、真下の田んぼには足跡一つ残っていないんだ」

「ほうほう、じゃあ、結局犯人が何処に逃げたかわからないってことだな?」

「まあ、そういうこと」


補足


石丸巡査は、私の別作品にも登場します。性格は違うので、パラレルワールドの石丸巡査だと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ