海琴 〜私の好きな人〜
昼休み。私は目の前の友達二人に見つめられていた。
「と、言うわけでございますのです……」
「ばっかじゃないの」
「え、あ、で、でもっ! みこちゃんはそれなりに頑張ったと……思うよ? 」
最初に辛辣な言葉を投げつけてきたのは、千歌ちゃん。金髪のポニテで目も少し吊り目なキツい印象だけど、ホントは純情ないい子。
次に慰めて(?)くれるような事を言ってくれたのは聖美ちゃん。ふんわりとしたボブヘアーの小柄な子。だけど胸は私よりも大きいの。
この二人は中学も一緒だったみたい。私とは高校入ってから仲良くなったけどね。
「わ、わかってるよぉ……。そんなストレートに馬鹿馬鹿言わないでよちーちゃん。きーちゃんはありがとう。でも微妙に慰めになってないかもぉ……」
そして机に突っ伏してグチグチ言ってる私が澤盛 海琴。十六歳。久鳴谷学園の一年生。
私は今、教室で昨日の失敗を友達に聞いてもらってるの。聞いてもらってるって言うか、言わされたのかな。私が自分の席でぼ〜っとしてたら、『ため息ばっかり付いてどうしたのよ。言いなさい。ほら早く』だって。自分のではそんなにため息ばっかりしてるつもりは無かったんだけどな。
そして言った後の反応がコレ。
その失敗って言うのが、バイト先に時々お客さんとして来る、現在私が片思い中の人に言ってしまった一言。
……いや、もうホントに『セットで私はどうですか?』って何!? なんでそんな言葉がいきなり頭に浮かんできちゃうの!? そしてなんでそれを言っちゃうの私!
それにそれを聞いた時のあの人の『えっ?』って顔! すぐになんとか誤魔化したけど、上手く誤魔化せたかな? そんな事言ってないって思ってくれたかな? これでもう来てくれなくなったら嫌だったから、『また来てください』って言ってはみたけど……。
もうダメ。せっかく《《また》》縁が出来たと思ったのになぁ。あ、でも私の事気付いてないんだよね……はぁ。
「てゆーか海琴さ、いつから好きでどんな人なのよ。前から好きな人がいる。バイト先によく来る。とは聞いていたけどさ? 相手がどんな人か言ったことないじゃない」
「う?」
私がう〜う〜言ってると、千歌ちゃんが棒付き飴を舐めながらそんな事を聞いてきた。
「いや、『う?』じゃなくてさ」
「え、聞く? 聞いちゃう? え〜どうしよっかなぁ〜?」
「うざっ」
「ひどいっ!」
「あ、でも、きよも気になるかも〜。だってみこちゃん、入学してから結構告白されてるけど、全部すぐに断ってるもん。中にはカッコイイ人もいたよね?」
「う〜ん、確かにカッコイイ人はいたけど、それはみんなが見てもカッコイイ人であって、私にとってのカッコイイじゃないからね。それに中学の時は全然だったよ? もっと地味だったし。あの人の為に可愛くなる努力したんだもん」
そう。中学までの私は、教室の床を眺めて過ごしていたようなものだった。だけどあの人のおかげで前を、上を向いて歩けるようになった。私をちゃんと見てくれてる人がいるって分かったから。
「うわ、乙女だ。乙女がいる。少女漫画の中から出てきたみたいだ」
「う、うるさいな! いいじゃん別に!」
うぅ、言うんじゃなかった。
「で、いつからで」
「どんな人なの〜?」
「な、何!? 二人揃って打ち合わせでもしてたの!?」
「「ぜんぜ〜ん」」
二人とも息合いすぎだよっ!
「うぅ……じゃあ言うけど、別におもしろくもなんともないからね?」
私がそう言うと、二人は頷きながらニコニコしている。それを見ながら小さく息を吐くと、彼の事を話し始めた。