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界変のアルテントロピー  作者: 芳蓮蔵
第一章 異能変
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規制官《The way I am》⑥

 ユウが通りに目をやると、閑かな大通りを黒いコートのクロエがハンドガンを手に悠々と歩いてきた。


「クロエさん!」と、笑顔のユウ。


 しかし直後にユウの背筋に悪寒が走った。


「(違和感が……)まだ、生きて――!」


 ユウが振り返った目の前で再生を始めるXM1。しかし同時に彼の背後で、拳銃の発砲音が2発――左右に切り離されたXM1本体(神堂マナの頭部)を、クロエが易々と撃ち抜いたのである。その銃弾が致命傷となり、ディソーダー神堂マナは絶命した。


「最後まで気を抜くな」とクロエ。


「すみません……」


 クロエは銃をコートの下にしまう。


「とは云え、初のディソーダー戦としては及第点だ」


「え――見てたんですか? クロエさん」


「ああ、途中からな」


「ええ……(手伝ってくれればいいのに……)」


 さっきまでの威勢はどこへやら、ユウは途端にいつもの一少年へと変貌しつつ肩を落とした。そんな彼の銀色の頭を、クロエが犬でもあやすかのように雑に撫でる。


「そんな顔するな。よくやったな、ユウ。少しはらしく(・・・)なったぞ」


 クロエが初めて自分を認めてくれた気がして、ユウは照れ臭そうに「へへ」と微笑んだ。


「ただスーツはもう少し短いほうがいい」


 指摘を受けて自分のスーツジャケットを見るユウ。言われてみればほんの少し袖丈が長いような気がしないでもないが、そもそもスーツなどまともに着こなしたことのない彼である。どれぐらいが正しいサイズなのかが皆目分からなかった。


「これで……解決(おわり)なんですね?」とユウ。


「そうだな――。当然事後処理はあるが、それは私がやる。だから一応は解決と言っていいだろう。……もっとも今回の事件(ヤマ)に関しては謎が多過ぎるがな」


(? ――謎?)


 ユウは小首を傾げてみせたが、クロエはそれ以上云わず、憐れ鉄の骸となった神堂マナの亡骸を見ながら言った。


「とりあえず負傷者の手当てをしておく。完治していないのは天夜だけか」


「はい……」と、申し訳なさそうに俯くユウ。


 彼の治癒魔法は重傷であっても治すことが出来るが、シキの腕のような欠損部分の再生までは不可能なのであった。


 二人はマナトとホノカが付き添うシキとクレトの許へと行って、その絶望的な怪我の具合を診た。魔法によって傷口は塞がり心肺状況にも問題は無かったが、引き千切られた腕の断面はいかにも痛々しい。


(流石にこれは――)と思うユウであったが、クロエは平然とした顔でジャケットの内ポケットから、親指大の白いカプセルを取り出して言った。


「まあ左腕損失(この程度)の怪我ならすぐに治るな」


 それを聴いて、ユウだけでなくマナトとホノカも「えっ?」と目を丸くした。


 クロエはシキの制服に付着した彼の血を採取すると、そのカプセルに数滴入れる。すると間もなくカプセルの色が白からオレンジに変わった。


「何ですかそれ?」とユウ。


RRRI(スリーアールアイ)という源世界の医療器械だ。通常アイオードが内蔵している物だが、今は破壊後(その通り)だからとりあえず私が創った。――少し血が足りないな」


「なら私が輸血パックを!」と急いで走り出そうとするホノカに、クロエは「構わん」と一言。


 彼女はそっと地面に手を翳して、周囲の地面の砂を磁石の如く引き寄せて集めると、それを空中で改変して血液を創り出す。浮遊する大きな球体状の血液は、そこから視えないチューブを下るようにしてシキの身体中に注がれていく。


「白峰先生……これは何の殊能なんですか……?」と、驚きを隠せず尋ねるホノカ。


「私の持つ『アルテントロピー(ユグドラシルの王)』だよ」


 その間にカプセルの色がオレンジからグリーンを経て、最終的にブルーに変わった。クロエはカプセルの蓋を開け、中から薄紅色をしたゲル状の塊を取り出して、それをシキの腕の傷口に塗る。


「よし」と、一息吐くクロエ。


 するとシキの傷口から徐々にではあるが、凝視していれば変化が判るほどのスピードで、肉が盛り上がり始めた。


「4、5時間もあれば再生し終えるだろう。多少のリハビリテーションは必要だが」


 マナトらはその台詞に唖然としたものの、どうやらもう心配無さそうだと安堵して、ホッと胸を撫で下ろした。


 ホノカが「ありがとうございます!」と頭を下げるのに対し。


「先生、アンタは一体――」とマナト。


「それは後日教えてやる……。それよりもお前たちには戻るべき場所があるだろう? 生徒の勝手な行動は、教師として見過ごす訳にはいかんからな?」


 そう言ってクロエは優しく微笑んだ。



 ***



 XM1の騒動から2週間後――。


(ユウ・天・アルゲンテアの音声記録より)


 今回の事件について亜世界グレイターヘイム内では、ネスト理事会の広報担当から『他国からのハッキングによる試作型アーマードの暴走』という、当たらずとも遠からずといった公式発表がなされた。


 でも国名が明らかにされなかった事や、アーマードの詳細が有耶無耶にされてしまった事などを含めて、報道番組やSNS、また学校の生徒達(みんな)の間では様々な憶測や変な噂まで飛び交って、一時巷はこの話題で持ちきりになっていた。だけど延期になってた選抜対抗試合の決勝戦の日程が決まると、少なくとも校内での注目はそっちに移った。


 ネストの統括本部や軍の上層部の人たちは、ディソーダーである神堂マナの件を『強力なアーマードの開発という観点においては有効な研究』としながらも、人体を機械の一部として使用していたり、また今回みたいな人格の暴走による不安定さから、実戦での使用はリスクが大き過ぎると判断したらしく、事実上『ミラーズプロジェクトは破棄』という決断が下されたとのこと。


 暴走したアーマードXM1の開発者であるベクター・ランド博士は、この決定を不服とはしたものの、延べ8人の死者を出したという深刻な事実には抗いようがなく、大人しく更迭の処分を受け入れたらしい。


 僕は正直罪に対する処分が軽いと思ったけど、それは彼の能力を買い、計画を裏で支援していた塔金家の当主、塔金カゲヒサの根回しがあったせいだとクロエさんが言っていた。その代わりに、計画の全容を殆ど知らされていなかったLEAD(リード)研の所長が、記者会見で深々と頭を下げ、辞任することとなった。


 なんか可哀想な気もするけど、よく見る光景だなとは感じたし、結局どんな世界でも社会というのは同じ様な構造なんだとも思った。それが正しいか間違っているかなんていうのは僕には解らないけど、クロエさんならきっと『それも生き方(こたえ)の1つだ』なんて台詞を言ったかもしれない。


 僕自身については、規制官として亜世界での初任務を終えて、源世界に帰る為の手続きの途中。本来なら瞬時に戻れるはずなんだけど、アイオードの機能不全で上手くいかないらしい。元素デバイスはアルテントロピーでは作れないから、代わりのアイオードが送られてくるまでは亜世界(こちら)で待機。


 お陰で僕は、ゆっくりと身の回りや心の整理を付けてクラスの皆とも別れの挨拶をすることができた。


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