規制官《The way I am》②
アヤメは敵のどんな攻撃にも対応出来るよう、フワリとした重心を維持したままアーマードへと突っ込む――。
これはドッシリと構えて後の先を取る不動流本来の戦い方ではなかったが、無論それは『近接武器を持った人間相手』の技術であり、銃器を携えたアーマード相手に通用するものではない。それを充分理解している彼女は、ユウの『どんな相手にも対応できる』剣技に倣い、その技を自身の流派と融合させてこの剣術へと昇華したのである。
(アーマードの射撃は直線的で精確。要するに極端に長い槍だと思えばいいんだわ)
アヤメは迎え撃つ射線を先読みして躱す――。
(でも槍術の様に手元を捻ったり、しなりを使った変則的な攻撃は存在しない。つまり『単なる突き』と同じ!)
懐に入ったアヤメは「せぇぇぇいッ!」と気合を込めた抜刀逆袈裟斬り。弾ける火花と金属音――から即座に納刀と離脱。
(浅いっ――硬い!)
斬撃をお構い無しに襲うKW9は銃を滑らすような掃射。それを片手のバック転から更に横跳びで躱し、ジグザグの八艘飛びで再度懐に入る。
「はぁッ!」
今度は抜刀から高速の斜め十文字斬り。
(まだ浅い!)
避けては斬り、斬っては避けるアヤメ。――それを幾度と繰り返す内に、その手にある刃が欠ける。彼女は都度『ヴェルンドの鉄』でそれを補修しながら戦っていたが、質量そのものを増やすことは出来ない為、次第にその刀は細く、脆くなっていった。
(このままでは……せめて一撃!)
KW9の横殴りを這う様に伏せて避ける――残ったポニーテールを掠める豪腕。アヤメはそこから全身のバネを使って伸び上がる勢いで、アーマードの脚の付け根に渾身の突き上げ。ガキンッと固い音がして刀身が関節に飲まれる。
確かな手応えを感じたアヤメであったが、刀は内部のクランクに挟まれ動かなくなった。
「!!」
密着距離の彼女にKW9が拳を振り下ろすと、彼女は咄嗟に横転して回避。しかし手放された細身の刀は関節の動きによって剪断破壊された。
(刀が――!)
手元にはもう武器となる《《材料》》が無い。
だが彼女が奮闘している間に、逃げ遅れた者達の避難は殆ど終えられたようで、身を退く彼女を護るように、手の空いたヒロとトウヤが横から援護射撃を加えた。
「大丈夫か、不動」とトウヤ。
煩わしそうに反撃を試みるKW9であったが、その手にあるライフルの弾丸は既に底を突いていた。
「ええ、大丈夫です。怪我もありません。……しかし――」
近接攻撃以外の術を失ったアーマードから三人が距離を取る。
「こちらも大したダメージは与えられてません。脚部のダメージで多少動きは鈍くなったと思いますが……」
「そうか」と言って、ライフルの残弾を確認するトウヤ。
(こちらの弾も残り少ない……)
それはヒロや他の兵士達も同じで、今だ元気なKW9を仕留められるほどの火力は誰の手にも無かった。
と、そこへ――。
「皆、良く持ち堪えてくれたね」と優しい声。
「八重樫先生!」
アーマードの後方から彼らに声を掛けたシュンは、束の間教師然とした笑顔を振りまいてから、すぐにウイングズの顔に戻る。
「《《物凄く》》危ないから離れていなさい」
そう言ってシュンがクロエのハンドガンをアーマードに向けると、KW9は割って入った彼に向けて旋回し、不用意に近付いていく。シュンから武器を奪おうというのである。
「拳銃が欲しいなら、悪いが諦めたまえ。とっても怖い上司からの借り物なんでね。――あ、君たち、今の言葉は外佐には内緒だよ?」
バツが悪そうにウインクしてみせてから、シュンは今度こそとばかりに両足を幅広にして、ガッシリと全身で衝撃を吸収できるように構えた。そして最早迫り来るアーマードの弱点など狙うこともなく、ただ胴体のど真ん中に向けて引き金を引く――。
周囲の土砂を吹き飛ばす颶風とともに、放たれた弾丸は鋼の上半身をブリキの玩具よろしく撃ち砕く。身構えたシュンはそのままの体勢で後ろに1メートル程押しやられた。
「っく――」
脱臼は免れたものの腱にダメージを受けて一瞬顔をしかめる。
皆は暫しその並外れた――まるで大砲を凝縮した様な馬鹿げた威力に絶句していたが、しかしすぐに脅威の排除達成に湧いたのであった。
シュンは近くの兵士がそれを本部に無線で報告するのを見て、彼に断りを入れてからそのマイクを取った。
「外佐、八重樫です。制圧完了しました」
――『了解だ。拳銃は役に立ったろう?』
「ええ、ありがとうございました。お陰で肩と手首がやられました」
――『そうか、気にするな。あとで治してやる』
「助かります。荒療治でないことを願いますよ」
――『ぬかせ』
クロエの苦笑を声に見ると、シュンは笑顔を含みつつ無線を兵士に返した。
***
――時は暫し遡り、場所は市街エリアへと移る。KW9をハッキングし暴走させた原因である神堂マナが、その奇怪な産声を上げた直後。
XM1の胴体に浮き出た神堂マナの顔――ギョロギョロと左右バラバラに気味悪く動く眼球が、やがてマナトに焦点を合わさると、その目が愉悦に浸るように半月形に細められた。
『マァァぁなアぁトォォぉ……』
「?!」
拡声器と変声器をいくつも重ねたような、薄気味悪い濁声がその名を呼ぶ。
(こいつ、なんで俺の名を――!)
ニヤリと笑った神堂マナの顔をマナトは嫌厭の目つきで睨む。隣のホノカは余りの気色悪さと圧倒的な不気味さにすっかり萎縮して、彼の袖をギュッと縋る様に握った。
その様子を見たXM1が憎悪を湛えて顔を歪ませ、喉を捻り潰したような掠れた声を洩らした。
『ぁあアアァぁぁケみヤぁ……』
するとその左手から、ひと目で『ヘイムダルの頭』であると判る光の刃がズゾゾゾと生える。しかしそれはコノエのものとは大きさも形も別物で、刃渡りだけでも3メートルを超える巨大な鎌であった。
XM1から少し離れた横に立っていたクレトが、敵の悪意がホノカへと向けられていることを察知して叫ぶ。
「――ホノカ!」
その声に反応したXM1が上半身を凄まじい勢いで回転させ、右手のレールガンの銃身でクレトを殴り払った。焼かれた両腕では満足に防ぐことも出来ないクレトは、そのまま両腕と肋骨をバキボキとへし折られながら吹き飛ばされた。
「お義兄様っ!」
ホノカが悲鳴に近い声を上げると、再び彼女へと向き直ったXM1。
「――!?」
巨大な鎌をマナトとホノカを断ち切るように振り下ろす。
「危ねえっ!」
二人が左右に飛び退いてそれを避けると、XM1はマナトの方を見向きもせずにホノカを追う。そして再び鎌を高々と振り上げた。
「やっ――」と、言葉に詰まるホノカ。
辛うじて残った勇気を使って業焔の滅剣を絞り出す。しかし――。
『すゥるトのひぃ』
神堂マナの目が眼球が飛び出るかと思うほどに見開かれ、ホノカのレーヴァテインをギロリと睨みつけると、剣は一瞬にして跡形も無く消失してしまった。
「そんな……!」
ホノカがもう一度剣を出そうと殊能を込めても、彼女の手からは火の粉の一欠片すらも発せられることはなかった。





