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界変のアルテントロピー  作者: 芳蓮蔵
第一章 異能変
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暴走《Mirror's Project》⑥

 遠く離れた建物の屋上から、戦闘を具に観察している者があった。よれたワイシャツの腕を捲り、少ない髪の毛も乱れて散々な風体の男――それはベクター・ランドである。


 彼は大きな箱型の双眼鏡で、戦闘(XM1)を観察し、またその観測データは同時に手元のタブレットに転送されていく。画面には複雑で色とりどりな波形。それを読み解きながらベクターは思考をそのまま口に出した。


「――『ウルズの刻』は、神堂クレトのように広範囲では使えないのか。故に範囲を最小限にしてシールドとして使い、効果時間を延ばしている……? だが神堂クレトと対する場合は互いに効果が打ち消されるようだな」


 ベクターは双眼鏡を首にぶら提げて、無意識に親指の爪を噛む。


「しかし能力はともかく、戦闘経験が足りなさ過ぎる。最初に倒すべきは神堂クレトだろうに――状況判断(その辺り)はまだまだ《《子供》》か」


 XM1がコノエを執拗に攻撃するのは、横からちょっかいを出された子供がむきになっている様にも見えた。


「それに……やはり『オレルスの弓』は絶対感知が無ければ使いこなせないか。自分の弾丸を操作するのでやっと、というところだな。『ヘイムダルの頭』も杠葉コノエ(オリジナル)ほど自在には使いこなせていない――」


 タブレットの波形パターンと戦闘の状況を見比べて、やきもきした様子で唸るベクター。


「機能としては顕現名を用いているが、複製(コピー)というよりは模倣の域(イミテーション)だな……。あの男の言う通りならば、やはり本来の力を得るためには鑑マナトの『アイギスの盾』が鍵が必要――試合のデータだけでは足りなかったか」


 そこでベクターはふと、自分の言葉に疑問を抱く。


「ん……あの男? あの男とは誰のことだ? 私は誰からその知識を――」


 しかし興味はすぐに実験体(XM1)へと戻る。


「まあ今はそんなことはどうでもいい。遅かれ早かれ、鑑マナトは接触してくる。『主人公(プロタゴニスト)運命(イベント)からは逃れられない』――あの男はそう言っていたしな」


 自身の台詞が矛盾を孕んでいることにも気付かず、ベクターはそう言って再び双眼鏡を覗き込んだ。



 ***



 ベクターが語る云々などクレトは知る由もなかったが、敵の殊能の性能についての彼らの見解は概ね一致していた。


 屋内に身を隠すクレトとホノカ――。


「ではお義兄様には、アレの攻略法があると?」


「ああ、奴は俺が接近すれば必ず『ウルズの刻』を使用する。でなければその時点で『詰み』だからな。そしてその間は互いの制止効果が相殺される。だから俺が直接斬るか、或いは俺が奴の殊能を無効化している隙に、誰かが破壊するかだ」


「誰かが……」


「もっともバトルライフルの通常弾(11ミリ)ではあの装甲は貫けないだろう。もっと高い攻撃力が必要だ」


(攻撃力……私の業焔の滅剣(レーヴァテイン)なら――)


 ホノカが自分の手を見つめる。そこへコノエから二人に通信。


「弾が尽きました……一旦後退(さが)ります。気を付けてください」


「了解した。助かったよコノエ」とクレト。


 コノエが退いたことで、XM1の標的は再びクレト達に変わった。旋回して、建物に隠れるクレトとホノカをサーモパルスで探知する。XM1(こちら)はコノエと違い、背負式弾倉(バックパック)にはまだ充分過ぎる弾薬が残っていた。


 機動音(けはい)を察知したクレトが「来るぞっ!」と言葉を発すると同時に、弾かれるように飛び退く二人。


 曲がりくねって飛来したレールガンの弾丸は空気を裂いて、二人がいた場所の地面を抉り取った。勢いよく飛び散ったコンクリート片にヘルメットを割られ、ホノカが悲鳴を上げて倒れた。


「ホノカ!」と、クレトがすぐさまホノカを抱え起こす。


「大丈夫です!」というホノカが、割れたヘルメットを即座に脱ぎ捨てると、額から一筋の血が流れた。


「上がるぞ!」


 クレトとホノカは建物の内階段を昇る――外に逃げれば『オレルスの弓』に加え、『ヘイムダルの頭』による攻撃もある。だが建物は4階建て。屋上まで昇り切ってしまえば手詰まりになる可能性があったが、二人は目の前の危険の回避を優先せざるを得なかった。逃げるクレトらを追って、5秒毎に発射されるレールガンの弾丸が奔る彼らの足元や後ろの壁を破壊していく――。


 飛翔体の絶対感知能力を持たないXM1の弾道は、シキのように針を通す精密さは無い。また軌道を決定してから発射している為、動いている標的には攻撃が当たりづらい。障害物を迂回できる利点はあるものの、事前の着弾決定(そういった意味で)は、命中精度は通常の射撃と変わらないのである。


 しかしやがて、クレトとホノカはついに屋上にまで辿り着いてしまった。


 屋上は外周が多少高めの段になっているだけで、隠れる場所もフェンスすらも無かった――最早逃げ場は無い。


 それを悟ってかXM1は一旦発砲を止め、度重なる連射で過熱状態(オーバーヒート)気味のバッテリーを緊急冷却(クールダウン)し始めた。レールガンの横の排熱口から、蒸発した冷却水がブシュウゥゥと噴き出す――。しかし排熱(それ)が終われば再び射撃が開始される。それまでの猶予は決して長いものではない。


 追い詰められたクレトはホノカを見た――『ウルズの刻』が無効化されてしまう以上、彼女を守る術が自分には無いという焦慮に駆られる。


(『ウルズの刻』が効かない状態で、しかも不規則な軌道の弾丸を避けられるか? ――無理だ、ここからでは発射のタイミングすら判らない。一度階下に戻って……いやどこにいても『オレルスの弓』があれば同じことだ。どうすれば――)


 クレトの額に汗が滲んだその時、建物の下から男性の声がした。



 ***



 クレトとホノカが、XM1によって建物の上へ上へと追い詰められる前――。


 弾薬の補充の為にと連絡を入れ、ヒロミツのいる建物の陰に一時後退したコノエだったが、その理由は弾切れだけではなかった。ライフルを杖代わりに、筒状に変形させた『ヘイムダルの頭』をギプスの様にして右の脛を固定していた彼女は、部屋に入るなり壁に体重を預けて、脚を伸ばしたまま地べたに座り込んだ。


「大丈夫か? 怪我をっ?」と、ヒロミツが駆け寄る。


「少し……被弾し(食らっ)ちゃいました」


 障壁の展開が僅かに遅れ、威力を完全に殺しきれなかったレールガンの弾丸が脚に当たったのである。


 苦痛に顔を歪めるコノエ――その右の脛はレールガンの弾丸が掠めただけで粉砕骨折していた。


「待っていなさい、直ぐに手当を」


 そうしてヒロミツが救護バックを広げているところへ、「杠葉先輩!」と飛び込んできたのはユウであった。そして彼に続いてシキ、マナト、ヒロも駆け込んでくる。


「白峰君……それに天夜君たちもなんで――」


 箝口令が敷かれているはずなのに、と予想外の援軍にコノエは驚いた。


「アーマードの暴走と聞いたが……こりゃ普通じゃあねえな? 大丈夫か、杠葉」とシキ。


 話している間も、そう遠くない距離から、レールガンの爆発のような発射音が聞こえる。ここに到るまでは物見遊山のつもりであったシキの顔は、一転して真剣な表情に切り替わっていた。


「大丈夫よ……なんとかね? ――敵は私と神堂君と天夜君(あなた)の殊能を使うわ。他にも何か隠してるかも」


「アーマードが殊能を使うのか? 今何人で、どんな状況で戦ってるんだ? 何なら白峰先生を――」


 シキが言い掛けたところでマナトが間に割って入った。


「朱宮は?! どこですか!」


「朱宮さんは――今戦ってるのは、神堂君と朱宮さんだけよ」


 そこまで聞いたマナトは即座に建物を飛び出す。ヒロの「マナト!」と呼ぶ制止(こえ)は届かなかった。


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