開幕《Followed by clouds》③
空は少しずつ翳りを見せ始めていたが、会場となる真夏の演習場では程好い気候であると云えた。9割方が埋まった仮設スタンド席の上――5階ほどの高さのあちらこちらに、下向きの丸いスピーカーに4基のプロペラを備えた空中音響装置が飛んでいる。そこから女性の声の開始放送が、残響音を孕んで会場に響き渡った。
「これより――全国学校選抜――殊能者対抗試合の――第1試合を――始めます――……」
ザワザワと蠢いていたいた観覧席の動きが鎮まっていき、やがて静まり返る。
「対戦校――……、選手入場――……」
放送に合わせて演習場に登場する生徒達。彼らは一様に全身装衣を着てフルフェイスのヘルメットを脇に抱えている。マナトら第一校はパープルネイビーのスーツとメット、対する国際殊能学院高校の選手がダークグレーである。
両校の選手達が地面に描かれた白い境界線を跨ぐと、客席で見守るリコが緊張した面持ちで言った。
「いよいよ始まりますねぇ。うー……なんだか先生の方が緊張してきましたぁ」
ラインは縦300メートル、横150メートルの長方形――この中がこれから行われる団体戦の戦闘領域である。
リコの隣にはヒロとユウとトウヤ。そして2、3年生のAクラスの面々。他の1-Aの生徒は皆選手として既に控室で待機しているのであった。
(頑張れよ、皆!)とトウヤは、拳を包み心の内で熱い眼差しを第一校に送る――。
選抜試合は団体戦と個人戦に分かれており、その総合成績によって最終的な順位が決まるが、違う種目に同じ選手が参加することは出来ない。団体戦は5名1組のチームによる対人戦で、戦術と連携力が試される。一方の個人戦は、訓練用のアーマード1体を相手にどこまで戦えるか、という個体戦闘能力を見る種目である。
第一校から選抜されたメンバーは、団体戦が4年の天夜シキをリーダーとして、残りは全て1年――鑑マナト、不動アヤメ、三城島チトセ、黛リン。個人戦は4年から神堂クレトと杠葉コノエ、そして1年の朱宮ホノカであった。ヒロとトウヤは他校であれば十分に選手として通用するレベルではあったものの、今年は如何せん他の代表選手が強過ぎるのと、各殊能の相性なども考慮した上でメンバーには選ばれなかった。ユウに関してはクロエからの許可も下りなかったし、何より今この状況ではディソーダーへの備えが最重要であることから、いつ何時でも自由に動けるよう観客としてこの場に臨んでいた。
そして始まる団体戦第一試合――。選手たちは互いに横一列に並んでフィールドの中央で向かい合うと、揃って一礼をしてからフィールドの後端にある自陣の円の中へと退いていく。
フィールド上にはセンターラインを境として左右対称に、縦横1メートル程の障害物が3つずつ凸の字に配置されている。そこに身を隠して撃ち合いながら攻めていく、というのが一般的ではあるが、チームの持つ殊能によってその戦術はどのようにでも変化していくのであった。
選手が自陣で試合用の銃器を装備したり作戦の最終確認をしている間に、場内を浮遊するドローンからルール説明のアナウンスが流れる。それを要約すると以下である。
~団体戦ルール~
【勝利条件】
・相手チームを全員戦闘続行不能状態にする。
・相手チームの身に付けているブレスレットを3本以上、自軍エリアであるライン端から半径5メートルの半円の中に持ち帰る。
・相手チームのリーダーによる敗北宣言。
【注意事項】
・殊能自体(炎や雷など)による相手への直接攻撃は禁止。
・攻撃は試合用の中距離突撃銃、弾丸は特殊ペイント弾を使用。
・1試合の制限時間は45分。それを過ぎた場合は戦況により判定。
【その他】
・共通装備であるバトルスーツは弾丸のペイントに反応する特殊繊維で出来ており、実戦での被ダメージを意識させる為の機能として、被弾した部分は発熱及び硬化する。
説明が終わる頃に、選手達はヘルメットを被り、肩から提げたライフルの安全装置を外す――。ヘルメットは軽量高硬度の樹脂製。耳の前辺りから前半分が全て透明で視界を妨げることはない。透明部分の内側はディスプレイになっており、自身の銃と同期使用することで、残弾数や自分と友軍の弾道照準が表示される。またマイクと骨伝導スピーカーも内蔵されている為、連携が非常にスムーズに取れるようになっていた。
ライフルは機関部が持ち手の後方にあるブルパップ方式。フェイスモニターによる照準が前提である為照準器は付いておらず、その代わりに弾倉を上から差し込む形になっている。この上部弾倉方式には、銃を抱え込んだ状態や伏せ撃ちをしながらでも、容易にマガジンの交換が行えるとういう利点があるのであった。
「――いいか、お前ら」とシキ。
ヘルメットを通して聴こえる指示に皆は黙って耳を傾ける。
「こっちは三城島以外は全員ネームド――つまり殊能がバレてるってことだ。だが敵の殊能で判ってるのは編成がバランス型ってのと、リーダーの真壁って奴が『ゲルズの垣』っつーネームドだってことぐらいだ。こいつは土砂からかなり大掛かりな壁を作れる」
「はい」と、皆がそれぞれ返事をした。
「鑑、お前は真壁をやれ」
「――了解です」と、手の平に拳を打ち付けるマナト。
彼は準決勝まで、合宿で会得した必殺技――リコによって反射する鉄拳と名付けられた技を使っていなかった。
「三城島、お前は後方で待機しつつフィールドに《《雨》》だ」
「はい!」と、元気に返すチトセ。
「黛は透明化したまま、左から徐々に前線を上げていけ。不動は右からだ」
リンとアヤメが、ともに「了解しました」と返した。
「敵の壁はペイント弾ぐらいは余裕で防げる。それで俺の『オレルスの弓』を攻略するつもりだろうが――」
ヘルメットの中で密やかに不敵な笑みを浮かべるシキ。
「そりゃ甘い。うちが俺のワンマンじゃねえってとこを見せつけてやれ」
シキが自信たっぷりでそう微笑むと、全員が「はい!」と気合充分な様子を見せて応えた。
***
一方、国際殊能学院高校――。4年生のリーダー真壁ダイゴが作戦を確認する。
「いいか皆。ネスト第一は天夜シキのワンマンだ。ネームドばかりとはいえ、どれも攻撃的に使える殊能じゃない。天夜の『オレルスの弓』さえ攻略できれば、勝機はある!」
ダークグレーのスーツとヘルメットに身を包んだ五人は、ガッチリと円陣を組んでお互いの顔を見合う。
「カズとナオヤは開始と同時に突っ込め。ミコトは二人をワープでサポート。シンジは分身して各個撃破」
「おう」、「任せろ」といった返事で、指示を受けた者達が張り切る。
「俺は事前に決めたポイントに防御壁で進攻ルートを作っていく。天夜に充分近付いたら合図を出してくれ。シンジが気を引いている間にミコトがカズとナオヤをワープさせて、ゼロ距離で片を付ける!」
彼らが入念な作戦を立てたところで、場内に試合開始のブザーが鳴り響いた。





