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界変のアルテントロピー  作者: 芳蓮蔵
第一章 異能変
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開幕《Followed by clouds》①

 山の一部を切り崩して隠すように建てられた、コンクリートの巨大な建物――最先端兵器開発研究所、通称LEAD(リード)研の秘密施設。この建造に用いられた資本の大半は、統合参謀本部との関わりが深い塔金家による出資(もの)で、事実上は塔金家が隠し持つ兵器工場であった。


 クロエらが強化合宿に行っている間、AEOD(アイオード)はベクター・ランドを追跡しているうちにこの施設を発見した。そしてこれから正に調査で潜入するところであった。無論その調査の内容は件の『M計画』についてである。


 深夜――AEOD(アイオード)は透明の球体ボディを宙に滑らせ、厳重な警備が施されている正面口から堂々と侵入する。


 その体は自身の温度をリアルタイムで周囲に合わせて温度感知を無効化し、光や音に対しては真球の胴体に触れた瞬間に、それと完全に同じものを対角に発生させることで実質的な透過を可能にしていた。更に別の観測手段――例えば殊能や魔法のようなその亜世界特有の感知方法に対しては『何も無いという情報』を返す『情報迷彩』が働いている。観測機という特性上、自身が環境に与える影響は限り無く小さくするというAEOD(アイオード)の設計思想は、こういった隠密行動には最適であった。つまり亜世界におけるこのインテレイドは、謂うなれば『存在しない存在』なのである。


 警備の人間や監視カメラや対人対物センサーといったセキュリティを難無く突破(スルー)していくAEOD(アイオード)は、無音で浮遊しながら歩哨や巡回警備員の隣をすり抜けて奥へ奥へと進む。事前に取得した建物の図面(データ)を元に探索を続けていくと、やがて計画の本丸である可能性が高いベクター・ランドの研究室へと辿り着いた。


 部屋に生体反応が無いことを確認すると、AEOD(アイオード)は扉のロックをシステムに悟られることなく解除して中へと侵入する。


「………………」


 無人の静寂と暗闇の中で、所狭しと立ち並ぶ大型のショーケースの様なコンピュータ。製作途中の銃火器や分解されたアーマード――。輸送コンテナ数個分の大きさであるその空間に置かれた物体を、AEOD(アイオード)は余すところなくスキャンして、その中からベクターの指紋の付着が多いコンピュータを探し出して当たりを付けると、それを触れることなく起動した。


「……………………」


 コンピュータが起動を終え、真っ暗な空間に四角い光が浮かぶ。『PASSWORD_?』の表示が現れた瞬間にはそれを解き終えたAEOD(アイオード)が、一切合切のデータとともにシステムごと情報を抜き取り始めた――その数秒後。


「……ァ……ナァ……ト……」


 誰一人いないはずの部屋の中で、不気味な声がした。


「――?」


 AEOD(アイオード)が即座に、その誰かが発した空気の振動を解析しようとした刹那、しかし物理的には存在を認識できないはずのその球体(からだ)は、何者かに強烈な勢いで床へと叩き付けられ、そして破壊された。


 ガラス玉のように砕け散ったAEOD(アイオード)は、機能が完全に停止する前に可能な限りのデータをOLSでクロエへと送ろうとした。しかしそれを完遂するよりも速く、何者かの追撃によってその残った破片は完全に粉砕されたのであった。



***



 広大なネスト第一校の野外演習場周辺には、そこで行われる試合が見渡せるよう階段状になった臨時の観覧席が500席設けられた。そしてその9割は既に埋まっている。


 神堂クレトを筆頭とし過去最多優勝を誇る学園ネスト第一校は、今年も予選を一位で通過。それに続くのがネスト第三校と国際殊能学院高校。各地で行われた予選を勝ち抜いたこの3校が、今日ここで雌雄を決するのであった。


 この全国選抜対抗試合は未成年殊能者の一大イベントとはいえ、娯楽やエンターテインメントの類の大会(もの)ではなかったので、その開催規模の割には席数が少ない。各校に割り当てられた席は各100名までで計300席。出場生徒の家族などを優先すると、残りは各校の実行委員や教師達で埋まってしまう。観覧に来られるのは選手の家族であったり、各学年のAクラスの生徒であったり完全な抽選であったりと、学校の方針によりけりではあったものの、とにかく全ての学校関係者が入れる訳ではない。その為、選考に漏れた生徒達は来ることが出来ないし、当然応援団やチアリーダーなどの類もいなかった。


 残りの200席には記者(プレス)報道(マスコミ)と、学園から招待された殊能の研究を生業とする専門家、そして軍関係者。その中には、全国の殊能者のほとんどが進路として希望する超戦略級殊能者部隊ウイングズからも、青田買いのスカウトが何人か視察に来ていた。


 演習場の隅には会場警備の拠点となる臨時の屋外指揮所――常駐している民間企業の警備隊とは別に、軍の対武力警備のエキスパートであるスペシャル・セキュリティ・フォース、略称『SSF』の一個小隊が派遣されていた。彼らの派遣を要請し、同時に指揮所を管理棟内の防災センターではなく屋外に設置するよう指示したのは、他ならぬクロエであった。その理由は、2日前の夜遅くからAEOD(アイオード)との連絡が途絶えたきり、その消息が掴めない為である。


(アイオードを知る人間はこの世界にはいない。それに仮に知り得たところで、存在(それ)を見つけることなど不可能だ。発見できるとすれば――)


 規制官レベルの強力なアルテントロピーを持つ転移者のみである。


(つまりディソーダー以外にはあり得ない。そしてアイオードが自発的に連絡を怠るなどということもあり得ない。何らかの方法で機能を停止させられているか、或いは破壊されたか)


 AEOD(アイオード)の座標が最後に確認されたのは、この学園から数百キロ離れた山間部である。クロエがそこに出向いて調査することも考えたが、もし敵がAEOD(アイオード)だけでなく彼女やユウの存在にも気付いているとすれば、罠を張るか裏を掻くか、少なくとも規制官(こちら)にとって不利な状況を作り出すことは容易い。しかしディソーダーが学園に何らかの関わりを持つ者であるならば、それらが一堂に会すると云っても過言ではないこの選抜試合の会場に、犯人が来ている可能性は高い――クロエはそう判断したのであった。


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