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界変のアルテントロピー  作者: 芳蓮蔵
第一章 異能変
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勇者《Ignorance》⑥

 クロエらの視界に収まらぬ大きさの漆黒の竜は、無言のまま黄色い蛇の様な眼を妖しく光らせていた。その沈黙にクロエが重ねて言った。


情報犯罪者(ディソーダー)と云えど、情報改変が意図的でなければ大した罪にはならない。その場合は3ヶ月の更生措置のみで済む」


「………………」


 クロエがいかにも業務的で紋切り型な台詞を言ったので、アマラが補足する。


「おいクロエ、それじゃなに言ってっかわかんねーだろ。……ガァラムさんよ、ようするにちょっとツラ貸せってことだ。詳しいことはあとで説明してやるからさ?」


 しかしそのアマラの言葉も当然、ガァラムギーナを納得させるのに足りるものではなかった。ガァラムギーナは暫く考え込んだ後に、巨大な牙が生え揃った恐ろしい顎を開いた。


「ディソーダーとは何のことだ? 貴様らの云うことは腑に落ちぬ」


 太い鐘の音のような声が重く響き渡る。


「まあ、そうだよな」と、アマラ。


「貴様らは我を忌む人間どもとは異なる存在のようだ。だがどうやら――」


 ガァラムギーナは黒い山の様な体を起こすと、その胴体の倍もある翼を広げてみせた――地響きと颶風が大空洞を揺るがす。


「この私の道を阻む者であることには、間違いなさそうだな」


 ガァラムギーナは巨大な蜥蜴のような体に長い首と尾を持ち、表面が鋼鉄の如き鱗に覆われていた。頭には2本の捻じれた角。背には巨大な翼。漆黒に塗り潰されたその全身の中で、蛇のような黄色い眼だけが爛々と輝く。その威容はお伽噺に登場するドラゴンそのものであった。


「おいおい、なんかやる気出してんぞ?」


 アマラが少し後退り、身構えた。


「君たちの説明が悪かったのではないか?」と、リアム。


 たしなめるようなリアムに、クロエが「すまんな」と謝罪した。そして今度はリアムが説き始める。


「ガァラムギーナ君、私はリアム・()・ヨルゲンセンという。もう少し話を聴いてくれないか」


 牙の隙間から炎を洩らしながら喉を鳴らすガァラムギーナを、手振りで制止する。


「突然のことで困惑するのも無理はないと思うが。君は自分の力が他者とは明らかにかけ離れているというのは自覚しているだろう? だがその力は無闇に使ってよいものではない――根本的な性質が違うんだ」


「力の性質――?」と、ガァラムギーナは一瞬興味を惹かれたような素振り。


「ああそうだ、性質だ。我々も君と同じ力を持っている。だがその力は使い過ぎると、この世界の存在そのものを歪ませ、やがてFRAD(フラッド)という宇宙そのものを消滅させてしまう現象を引き起こす、諸刃の剣だ。それは君自身をも消滅させてしまう」


 ガァラムギーナの目が細まり、リアムを凝視する。彼の言葉の真偽を見定める様に。


「だが私たちに同行してもらえれば、その消滅は避けられる。そして君は力の正しい使い方を知ることができる――あるいは世界の真実を」


「世界の……真実だと――?」


「ああ。君が住んでいるこのアーマンティルは、世界の情報の極一部に過ぎない。我々はもっと高次元の世界の人間なんだ」


「貴様らが高次元の存在? 嗤わせるな、自らを神とでも名乗るつもりか」


「ああ――ある意味で我々の力は、亜世界において神に近い。それは君自身も感じているはずだ」


「フン、戯れ言を。ならばその神とやらの力を私に示し、その言葉が真であることを証明してみせるがいい!」


 ガァラムギーナの声が一層響き渡り、その振動は肌にビリビリと伝わる。咆哮とともに吹き出す禍々しい彼の魔力の波動が、そのまま衝撃波となって周囲の岩を吹き飛ばした。


「すまない、ダメだった」とリアム。


「ダメなんじゃん!」とアマラ。


 するとリアムが素早く飛び退きながら、スーツのジャケットを脱いだ――戦闘止む無しという判断である。


「仕方ないな――やるぞ」とクロエ。


「はぁ、マジかよ……」


 アマラは思わず天を仰いで目頭を抑えた。だがクロエは気にせず淡々と指示を出す。


AEOD(アイオード)、アンプを起動しろ。アマラ、IPFを展開するぞ」


「あいよ!」


 すると彼らの頭の中に、落ち着いた男性の声で返答が響く。


[――志向性散逸構造場の展開準備を確認。フィールドアンプリファによるエントロピー復元処理を開始]


 クロエとアマラの眼が青く光ると、彼女らを中心にして薄い透明の膜が発生し、瞬く間に拡大して大空洞全体を包み込んだ。


 一方恐ろしい咆哮とともに、ガァラムギーナの口からは竜巻の様に捻じれた炎が吐き出される。


「リアム!」と、クロエ。


「解ってる!」


 リアムは口をすぼめて冷気を吹き出し、その炎を遮った。互いの口から出る炎と冷気は拮抗していたが、徐々にリアムが押し返していく。ガァラムギーナが炎を途切らすと、炎は一瞬にして竜巻の形のまま凍り付いた。


 リアムが急速に飛び上がり、ガァラムの目の高さまで上昇して停止――。


「ガァラムギーナ、君の相手は私だ」


 そう言うとリアムは、音の速さを超える初速で飛翔してガァラムギーナの顔面に激しく体当りをかました。怯んだ隙に後ろに回り込み、尻尾を掴むと思い切り振り回す。周囲の巨石や針のように突き出た岩が、振り回されるガァラムギーナの巨体によってなぎ倒されるが、不思議なことにそれらは破壊されたそばから時間を巻き戻すように修復されていった。


 リアムはガァラムギーナを数回振り回した後に、上空の岩盤へと凄まじい勢いで放り投げ――それを高速で追いかけ更に硬く握り締めた拳で追撃すると、ガァラムギーナが苦痛の叫びを上げた。


 しかしガァラムギーナはすぐさま空中で体勢を整えると、その巨体からは想像もつかぬ速さで飛翔しながら、リアムに向かって次々と火球を飛ばした。リアムはそれを避けようとはせず、素手で破壊しながらガァラムギーナに真っ直ぐ突き進んで飛ぶ。


 迎え打つ両の爪の攻撃――それをすり抜けて背後に回ろうとしたリアムへ強烈な尾撃。寸前で防いだものの、リアムはその勢いのまま天の岩盤に叩き付けられた。天蓋にめり込んで動きを封じられたところに、ガァラムギーナの口腔から特大の火球が放たれる。


「おいおい、結構ヤバいんじゃねーの?」


 遥か下の地面から、拡大された映像を見守るアマラが心配そうに言った。


「いくら超個体だっつっても、ガァラムギーナ(あのバケモン)、かなり規格外じゃねーか? 規制官(ルーラー)とまともに戦ってんぞ?」


 しかしそんな彼女の心配は他所に、クロエの表情に露ほどの翳りも見られなかった。


「そうかアマラ、お前はリアムをよく知らないのだな」


「あん? そりゃそうだよ。リアムは護衛任務ばっかだし……そもそも俺は亜世界にはほとんど来ねえしな?」


「まあ確かにリアムは性格上、そういった案件を担当することが多いが――まあ見ていろ。確かにあの情報犯罪者(ディソーダー)は戦闘に特化した超個体のようだが、こと戦闘に関して云えば――」


 ガァラムギーナの激しい攻撃が一旦収まると、火煙と塵が風で払われてゆき、薄っすらとリアムの影が視えてくる。


「――リアム(あいつ)に敵う者はいないよ」と、クロエは微笑んだ。


 すると薄れた煙塵の中で、リアムの両眼がギラリと光った。

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