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界変のアルテントロピー  作者: 芳蓮蔵
第一章 異能変
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花火《Effort and Growth》⑥

 クロエがビーチチェアから立ち上がると、椅子(それ)もまた白砂となって崩れ落ちた。


「殊能の活かし方……?」


 マナトとヒロが顔を見合わせる。するとシキが挙手してから、「失礼ですが」と異議を唱えた。


1年生(こいつら)は解りますけど、俺はネームドになってからも能力は上がってます。範囲も精度も、物体操作で俺以上の奴なんてそうそういないと思いますが」


 飄々としてやる気を見せないシキといえど、1年と一緒くたにされるのは流石に心外であった。しかしクロエはやれやれといった素振りで答えた。


「範囲も精度も、か――。そういう考え方ではせっかくの才能が勿体無いぞ、天夜」


「どういうことですか?」と、シキ。


 クロエは無言でビーチパラソルを引き抜くと、傘の部分を分裂した後に圧縮変形させて、ゴルフボール大の鉄球をいくつか作り出した。残った棒の部分を、槍投げの要領で20メートル先に垂直に突き立てる。


「『オレルスの弓(お前の殊能)』の最も優れたところは、肉眼では捉えられない弾丸ですら精確に把握できる、飛翔体の絶対感知能力だ。操作などそのオマケみたいなものだ」


 クロエは「これを」と言って、先程の球を一つシキに手渡した。


「だが飛翔体以外の感知に関しては、せいぜい人より勘が鋭い程度だ。殊能の効果対象ではないからな」


「解ってますよ。だから動体視力は鍛えてます」


「まあそれも無駄ではないが、肉眼(それ)が徒になることもある。前に私と闘った時の事を覚えているか?」


「勿論です。視覚を惑わされたのが敗因かと」


「その通りだ。だがあれは幻覚ではなく錯覚――空気の密度を操作して見えないレンズを作り、距離感を狂わせていただけだ。コツさえ掴めば、光や水や空気を操る殊能者なら誰でも可能なレベルのものだよ」


「そうですね……」


 当然それを看破した程度でクロエに勝てただろうなどとは、シキは思わない。しかしその単純な仕掛けすら見抜けなかった自分が腹立たしかった。


「だが、もし錯覚(あれ)が殊能による幻覚だったとしても、お前がちゃんと自分の能力を理解して使いこなしていれば対処できたはずだ。――目を瞑れ」


 シキはクロエに言われるままに目を閉じた。


「目を瞑ったままその鉄球を投げて、『オレルスの弓』であのポールに真上から当てろ」


「真上から――ですか……」


「そうだ、それがお前の課題だ」


 シキは鉄球の冷たい感触を手に感じながら、考え込んだ。


(棒は固定されている……ただ当てるだけなら、ある程度の幅で左右に往復させながら前進させるか、円を描きながら半径を狭めればその内当たるだろうが――)


 真上から当てるということは、言い換えれば目標が『点』であるということ。


(つまり標的の位置を完璧に補足しろってことか……)


 固まるシキにそれ以上のアドバイスはせず、クロエはマナトに目を向けた。


「鑑、お前の『アイギスの盾』は反射だ。相手の火力次第では非常に強力な殊能だが、今のお前には致命的な弱点がある。……解るか?」


 マナトはその言葉に胸を突かれた。その弱点を誰よりも理解しているのはマナト本人だからである。


「はい……決定的な攻撃手段が無いことです」


「そうだ。お前の殊能は基本的に防御向きだ。その為お前自身には状況を打破する決定力が必要となる。格技の心得はあるようだが、アーマード等の強固な機動兵器相手に素手の攻撃では勝ち目がないからな」


「はい」と、俯くマナト。


「だからお前は――」


 クロエが話しながら片手を挙げると、地面の砂が盛り上がって変質し、2メートルを超す岩の壁と成った。それを軽くノックして言う。


岩壁(こいつ)を素手で破壊しろ」


「これを――?!」


 マナトは目の前で沈黙する岩壁を観察した――壁の厚さは20センチメートル程。並の攻撃では到底破壊し得ない。口径が小さければ銃弾すら通さないであろう。


(『アイギスの盾』は反射――相手が攻撃してこなけりゃ意味がねえ。だけど壁が攻撃してくるはずもねえし……)


 マナトは周囲を見回す。


(壁以外の何かを使うか? 例えば太陽光――いや、それじゃあ単なる鏡と同じだ……仮に反射を制御できたとしても、虫眼鏡の原理にしかならねえ。一体……)


「どうすれば――」


「いいかを自分で考えろ」とクロエ。


「あとは飛鳥(お前)だな」


 クロエは砂浜に手を突っ込むと、中から2本の黒い木刀の様な物を取り出した。先程の壁と同じように砂を変質させて作り出したものだが、生成するスピードが速過ぎて、ヒロには予め埋めてあった物を取り出したようにすら見えた。その刀をヒロとユウに渡す。


「軽量の特殊硬質ゴム製だ。ある程度衝撃は和らげるが、打撲や痣ぐらいは覚悟しておけ」


 クロエの説明を聞きながら、ユウが刹那の内に2回ほど宙を試し斬った。


「へえー、結構使い易いですね」


 ユウが感心している横で、ヒロの顔から血の気が引いた。


「……嫌な予感しかしないんですが」とヒロ。


「飛鳥、お前はユウと剣術で勝負して一本取れ」


(――やっぱり)


 予感が的中したヒロはげんなりと肩を落とした。


「ユウ、お前は《《能力》》を使うなよ? お互いの訓練だからな」


 クロエがユウに言い含めたのは、『自身の情報を保護せずにダメージや幻覚を受け入れろ』という意味であった。無論『雷撃魔法を使わない』という、そのままの意味もあったが。


 ユウはクロエのその意図を読み取って頷いた。


「いいか飛鳥。お前は視覚に対する精神作用に頼りがちだが、『ガングレリの森』の幻は本来視覚だけでなく聴覚や嗅覚にすら影響を与えられる。それらをどう活かすかという発想が重要だ。お前の殊能は女湯を覗くためのものではない」


「う……すみませんでした……」


「そしてそれをどう使おうが構わんが、最終的に一本取るのはお前自身だからな? 幻覚で一本取られたと思わせるのは無しだ」


「は、はあ……」と、ヒロは気の抜けた返事。


 ヒロは以前マナトとトウヤと三人で、目隠しのハンデを背負うユウに竹刀で挑んだことがあったのである。その時は遊びではあったものの、三人同時で向かっても彼らの剣はユウに掠りもせず、コテンパンに打ちのめされたのであった。


(目隠ししてても攻撃避けるバケモンに、殊能(幻覚)なんて意味ねえんだよな……)


 ヒロがユウに目をやると、ユウはゴム刀の硬さなどを確認していた。そこへとりあえず不意を突いて、ヒロは全力でユウに『袈裟斬りを仕掛ける』――という幻覚を視せると同時に、対角線上から逆袈裟に斬り上げた。


 しかしユウは、幻覚として視えている袈裟斬りを避けようともせず、視えていないはずの斬り上げだけを足の裏で抑えて、高速の横薙ぎ――ヒロの側頭部の数ミリ手前でピタリと刀を止めた。硬直したヒロのこめかみに汗が垂れる。


ユウ(お前)、幻覚……視えてるよな?」とヒロ。


「うん、ハッキリ視えてるよ。剣気を感じないから避けるまでもないけどね」


 笑顔で返すユウに、「悪魔かお前は」とヒロは絶望を口にした。


「では各自、明日の自由行動までには課題をクリア出来るようにな?」


「1日で!?」と全員が悲痛に叫ぶ。


「そうだ。私は『|ふれあい動物パーク《行かなくてはならんところ》』があるので、先に戻るぞ」


 そう言ってクロエは、四苦八苦する生徒達を残して去っていった。


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