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界変のアルテントロピー  作者: 芳蓮蔵
第一章 異能変
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教師《Falsehood》⑥

 オフホワイトの壁に掛けられたハンガーには、ユウの私服のパーカーと制服のジャケット。机の上には学校のサブバッグ。小さなガラステーブルに飲みかけの飲料ボトル。そしてベッドには、ブレザージャケットを脱いだ制服姿のユウが腰掛けていた。


「――ではその女が、本来お前のクラスを担当するはずの教師だった、ということだな?」


 クロエはユウの勉強机の椅子に片膝を立てて座り、彼と向き合っている。


「だそうです。少なくとも僕の名前や殊能、僕が編入生であることを知っていました」


「ふむ。だが私が確認した限りでは、校内のデータに藤崎ショウコという名前は存在しなかった。そして教員や学園長もその女のことを知らない」


「そこなんです。だから変だなと。もしあの人の言うことが本当なら、記憶と記録をまとめて改竄した人間がいるってことじゃないですか。そんな殊能ってあるんでしょうか?」


「無いだろうな。記憶の操作をする殊能というのはあるが、効果はその場限りの一時的なものだ。そして記録の改竄に関しては、それが殊能によるものであれ技術的なものであれ、形跡が残るし私が気付く」


「じゃあやっぱりアルテントロピー……」


「であれば可能だ。藤崎ショウコという人間に関わる情報そのものを改変してしまえばいい。――で、その女は何故お前のことを?」


「担任だから事前に通知されていたと言っていました。そういう書類があるんですか?」


「ああ」とクロエがOLS経由でその資料のデータをユウに送ると、ユウの視界にそれが表示される。


「これですか――」


 ユウの目の前には『臨時編入生の通知』と題された半透明のメールらしき書類が浮かんでいる。彼がその『次のページを見たい』と考えただけで、書類は勝手に次のページへと切り替わった。


「1年Aクラス編入、白峰ユウ……。殊能カテゴリは電磁種の遠隔操作、顕現名は無し……本当だ」


 そこでユウの中に再びあの疑念が浮かぶ。彼の紹介の際に社リコが発した言葉についてである。


「でもリコ先生は初日の自己紹介の時に、『白峰くんの殊能は知らない』と言っていました。なら資料(これ)は藤崎さんだけに送られたメールなんでしょうか?」


 そういうことであれば、リコがユウに関してだけ殊能を知らないのも合点がいく――そう考えたユウであったが、クロエの返答はそれをキッパリと否定した。


「いや。これは教員全員に配られたものだ。入学式の約3週間前――アイオードが情報の乱れを検知した後、私がこの世界に転移する前に、WIRA(ウィラ)が設定構築の為に用意したものだ。その時点で全ての教員に周知されている」


「じゃあなんでリコ先生は知らないなんて嘘を――皆へのサプライズ的なつもりだったんでしょうか?」


「そうだな……確かに担任すら知らないということにすれば、サプライズ(そういった)効果も多少は期待できるかも知れんが――」


 ほんの数瞬考えてから、クロエは結論に至った。


「だが、そもそも生徒たちは互いの殊能を最初から知らない訳だし、殊能の威力はともかく、あの時のお前はネームドですらない。ならばその発言が本当にサプライズとして機能するのは、お前の殊能だけ(・・)を知らない者に対して、ということになる」


「それってつまり、リコ先生は嘘を吐いていたんじゃなくて――」


「本当に知らなかったんだろうな」


「(担任なのに……?) それは流石に不自然な事なんじゃ……」


 目線を落として考えていたユウは、自分の台詞にハッとなってクロエの顔を問うようにして見た。


「まさか、改変した人(ディソーダー)って!?」


 クロエがそれに頷いて応じる。


「ああ、恐らくな。ディソーダーは社リコ、そう考えると辻褄が合う」


「そんな、リコ先生が犯人だなんて――! あんなに良い先生なのに……」


 俄には受け入れ難いといった表情で肩を落とすユウに、するとクロエが説くように言った。


「教師として、或いは人として好ましいかどうかというのは、ディソーダーであるかどうかとは関係ない。大抵の場合は無過失の罪として問われるものだ」


「無過失の罪?」


「当人がその行為を罪であると認識していない、ということだ。要するに『そんなこと知らなかった』という話だが、転移者や転生者にはアルテントロピーの存在を知る術が無い以上、仕方のないことでもある。もし転移の際に『お前にはこんな力が与えられる』と教えられたところで、本人はそれがその亜世界の設定による力なのか、アルテントロピーというメタな力なのかという判別は付かないからな」


「じゃあリコ先生も悪意があってやったわけじゃない、と?」


「意図した改竄ならば悪意があったかも知れないが、行為そのものにアルテントロピーを使ったということは意識していない可能性はある――だがそれは、本人を直接尋問してみるしかないだろう」


「尋問、ですか……」


 その響きに気乗りしない様子のユウであったが、クロエは彼に構うことなく思考によってAEOD(アイオード)を呼び出す。


[アイオード、状況は?]


[現在ベクター・ランド博士を追跡監視中です。新たな情報は得られていません]


[そうか。こちらはディソーダーと思しき人物を一人特定した。お前はそのまま調査を続行しろ]


[承知しました]


 するとその会話を聴いていたユウが首を傾げる。


(ひとり? 『一人特定した』って、じゃあ犯人はリコ先生以外にもいるってこと?)


 だがその疑問を口にする前に、クロエは立ち上がってそのまま出口へと向かうと、ドアを開ける前に背を向けたまま言った。


「明日の朝、私が社リコを問い質す。お前はいつも通り登校しろ」


「は、はい。……了解しました」と、ユウは立ち上がって少し緊張した面持ちでその背に答えた。


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