最強《Overwhelming》③
ユウとトウヤが並んで皆の許に戻る――アヤメはユウに何か言いたげな様子であったが、すぐにリコが話し始めた。
「いやあ、白峰くんの強さには正直先生もビックリしましたー。流石は白峰顧問の弟さんですかねぇ? でもでも、風見くんもよく頑張りましたー! 攻撃の多彩さはお見事でしたよぉ?」
(――とは言っても)とリコの内心。
(白峰くんの強さは異常だわ。この世界にこんな強い人間がいるなんて……)
そんなことを考えつつもリコは笑顔を崩さず、にこやかに続けた。
「ではいよいよ最終試合ですねー。不動さん、朱宮さん、準備はいいですかぁ?」
頷く少女二人――驚きは隠せなかったにせよ、『流石にあの試合を目の当たりにした後では』などという後ろ向きな気持ちは彼女らの中に微塵も無く、二人の意識は既にお互いに向いていた。寧ろユウに触発されて更に闘志が燃え上がっていた。
(剣の道にはあれほどの高みが在るのね……。私はずっと神堂先輩に勝つことを目標にしていたけど――)
新たな目標ができた、と決意を固くするアヤメ。
(『スルトの火』の奥義は業焔の滅剣……。そして私は朱宮家の娘。誰よりも強くならなくちゃ、朱宮の炎を背負って立つことなんてできない!)
家名に対する責任感から、勝利を誓うホノカ。
アヤメとホノカは前に出て向き合うと、二人同時に「宜しくお願いします!」と礼をした。
そして――リコの合図とともに激しい攻防を繰り広げた二人の闘いは、アヤメが当てればホノカが当て、ホノカが打ち込めばアヤメが返しと、全身全霊持てる力を余すところなく発揮した見事な試合であった。しかし両者の最後の一刀がぶつかり合おうという直前で、タブレットの試合終了時間を示すアラームが無情に鳴り響いたのであった。
「判定は――」と、リコがタブレットに送信された獲得ポイントを確認する。
「2.7ポイント対2.3ポイントでぇ……朱宮さんの勝利ぃ―!」
思わず飛び跳ねてしまいそうな喜びをグッと堪えたホノカは、念願の初勝利の笑みを静かに内に秘めて一礼。対するアヤメも口惜しさは残れど、何処か晴れ晴れとした表情で一礼した。だが黙って観戦していたユウは釈然としない様子であった。
(このルールだと朱宮さんの勝ちになっちゃうんだ。実戦ならどう見ても不動さんが勝ってたと思うけどなあ。致命傷にはならないだろうけど、充分な手傷を負わせられる隙が少なくとも6回はあったし)
着実にポイントを重ねようというホノカの立ち回りは、プロテクターへの被弾を最小限に留める動きであった。それは言い換えればルールに守られた戦い方であった。
一方のアヤメは、ホノカの防御を上下に揺さぶり隙を作り、そこへ斬り込む闘い方。だがその隙がプロテクターでなければ打ち込んでもポイントにはならないため、アヤメはそういった隙を敢えて見逃していた。彼女は直前に見たユウの闘いに、己の動きを少しでも近付けようと試みていたのである。
「じゃあ近接戦闘の査定はここまででーす。査定と言っても個人目標のためのものですからぁ、勝敗は気にしないでくださいねー?」
リコが皆の装備を回収してボックスにしまうと、そこから今度は小型のアンテナ付きの計測器を取り出し、いそいそとタブレットに接続した。
「続いてはぁ、殊能の計測ですねー。殊能のカテゴリは沢山あるので、今回は単純に殊能量波の強さを見るだけですぅ。発生している殊能量波と発現している殊能のバランスっていうのは重要《《らしい》》ですからねー? このバランスが悪いとぉ――」
(殊能量波……計測か……)と、ユウ。
そもそも殊能とは、自身が脳に描いたイメージを『殊能量波』と呼ばれるエネルギー波によって物理的に顕現する能力のことである。想像を形にするといった意味ではアルテントロピーによる改変にも似ているが、当然情報改変ほどの絶対的な効果があるものではなく、能力の範囲自体も極めて限定的である。この亜世界の人間は、全員がこの量子波を発生させることができるが、どのイメージでどれぐらいの殊能量波を発生できるかという、謂わば殊能の向き不向きというのは先天的に決まっており、尚且つ個人差が激しい。自分がどんな殊能を持っているかというのが解るのは概ね幼少期から児童期にかけてで、大人になるにつれ固定観念や人格形成により発想の柔軟性が奪われ、20歳を過ぎる頃には殊能者としての成長が止まる。その為、殊能量波が強いと判明した子供は早い段階で殊能の育成機関に入れられるのである。そして才能が最も花開くのは10代半ば――その点でユウはこの学園ネストへの潜入任務に打ってつけなのであった。
(僕は殊能は使えないけど、クロエさんは魔法で代用すればいいって言ってたし、あまり深く考え過ぎないほうがいいのかな? 自己紹介では雷って言ったけど特に驚かれなかったし、でも――)
正直なところ『自分が圧倒的に強い』というのは、まだ少年であるユウにとっては少なからず快感であった。ならば測定に関しても自身の力を試してみたい、あわよくばそれで喝采を浴びたいという気持ちが無い訳ではなかった。そんな少年の小さな欲望を抱くユウに、リコから声が掛かる。
「――峰くーん……、白峰くーん、聴いてますかぁー?」
「えっ?!」
ユウが思考に没頭している間、リコは測定の内容などに関して長々と説明をしていたのであった。
「ちゃんと聴いてないとダメですよぉー? いくら剣術が強いといっても、殊能はまた別ですからね?」
「す、すいません……」
「では説明は以上でぇ、実際にやってみましょー。……まずは説明を聴いてなかった白峰くんから!」
クラスメートから控え目な歓声が上がる中、照れた様に進み出るユウ。
「えーっと……」
「そこの白線から向こう側にあるポールに向かって使うんですよー。……って、ホントに聴いてなかったんですね……しくしく」
「じゃ、じゃあ、いきますね……」
リコの下手な泣き真似は無視してユウが構える。狙いは200メートル先の白い目印――ユウは天を掴むように手を伸ばした。
得意の雷撃魔法をイメージして集中力を高めるユウ。幸いアーマンティルにおいて勇者であったユウは、その勇者の特性である無記述・無詠唱での魔法発動を行うことが出来た為、通常の魔法使いであれば必須である呪文詠唱やその際に発生する魔法陣といった、《《いかにも魔法然とした部分》》を見せずに済んだ。
ユウの集中力の高まりに合わせて、今しがたまで快晴であった演習場の空が突如として曇る――唸るような低音が拡がり、目標地点の上空に黒雲が渦を巻き始めた。





