決闘《Disaster》⑧
――DEー10『異星侵略の世界』/都市上空――
太陽を反射し白く輝く高層ビル群の上――紺碧の空を飛び交う空軍の戦闘機。
「Fire! Fire! Fire!」
編隊を率いるパイロットが叫ぶと、各機がミサイルを立て続けに発射した。煙の尾を引くミサイルは、銀色をした三角形の板の様な機体――宇宙からの侵略者が操る戦闘機を追う。しかし三角板の頂点から放たれるレーザーが、飛来するミサイルや飛び交う軍の戦闘機を次々と撃墜していった。
中には宇宙人の攻撃を錐揉み飛行で掻い潜りつつ勇猛果敢に応戦する、恐らくはその隊のエースパイロットであろう者もいたが、その健闘もそう長くは続かない。彼我の戦力差は大きく、人類の形勢が不利なのは明らかであった。
その戦況を、この亜世界の人間とは別の意味で危惧する男がいた。複雑な模様に織られた魔法の絨毯に乗って空を飛ぶ彼は、超音速で飛行する宇宙人の戦闘機を、すれ違いざまに手に持った湾曲刀で真っ二つに斬り落としながら、募る焦燥をAEODにぶつけた。
[おいおい、どうなってやがんだよ?! 主人公は何処行きやがったんだ?! 話が違うじゃねーか!]
右眼を青く光らせOLSの通信でそう怒鳴るのは、黒いスーツとシャツを開けた男。年齢は20代半ば。ダークブラウンの荒々しい短髪。――彼は第二等規制官のヴァンデレイである。その彼の声に応え。
[エントロピーの加速状況、及び整合性の破綻が予測を遥かに超えています]
[どういうこったよ!? (クソッタレ、誰かが干渉してやがんのか?)]
ヴァンデレイは宇宙人達からのレーザー攻撃など、ただ光を当てられている程度にしか感じない様子で、圧倒的な強さをみせてUFOを斬り散らかしているものの、宇宙から次々と飛来する敵の数は減るどころか、寧ろ増える一方であった。
[現況報告!]とヴァンデレイ。
何処にいるのか、情報迷彩で姿を隠しているAEODの声が、淡々と差し迫る危機を説いた。
[高粘度情報保持者の3名は何らかの情報改変により死亡した模様。それに伴い情報粘度が低下し、FRADの発生予測値が大幅に増加しています。現在90%ですが、予測値は尚も増加中です]
[ああ? なんだそりゃ!? 9割ってもう『詰み』だろ! ――ディソーダーの残りは?!]
話しながらも、次々と宇宙人達の撃墜を重ねるヴァンデレイ。
[規制官ヴァンデレイにより1866体が排除され、現在地球上に侵攻している残りのディソーダーの数は4645体に減りました。尚、衛星軌道から月にかけて約43億の戦闘機体と、200万超の母船が待機しています]
[マジかよ……クソッタレが。どうすりゃいい――? いっそ対消滅爆弾でも使うか?!]
[源世界理論に基いた破壊兵器を用いた場合、現在展開中のIPFが崩壊し、エントロピーの増大は寧ろ加速されると考えられます。――警告、FRAD発生予測値が94%を超えました。理論上回避不可能です]
「(じゃあもうどうしようも――)って、諦められるわきゃねえだろ!」
両手を広げて宙に数千のタルワールを生み出すヴァンデレイ。それが四方に拡散飛翔してUFO群を貫き、空に爆発の津波が巻き起こる。彼自身も憤りながら空を駆け巡り、触れるものを片端から斬り伏せ続ける。しかしやがてAEODの声が、その奮戦の終わりを告げた。
[間もなく予測値が100%に達します。亜世界消滅に巻き込まれる可能性が高い為、次元接続を強制解除。源世界に帰還します]
[なにぃ?! ちょっと待て、このクソッタ――]
ヴァンデレイが悪態を言い切る前に、彼の姿は亜世界から強制的に連れ去られた。
***
――源世界/WIRA本部/統制室――
真っ白なその丸い部屋には、黒いスーツの集団。真ん中の柱に組み込まれたインテレイド、ルーシーの斜め前には、栗毛を七三分けにした60代の男性――WIRA局長のジョルジュである。
彼とルーシーに向かい合う形で右端から順に、第一等規制官のべレク、アマラ、クロエ、リアム。そして第二等規制官のユウ、ヴァンデレイ、ガァラムが、扇状に並んでいる。三等以下の規制官の姿は無い。
最初に口を開いたのはジョルジュであった。
「全員集まったな。概要は聞いていると思うが……フラッドが発生し亜世界コードDEー10、通称インベイジョンラインが消滅した。源世界での消滅被害は現在本部及び月面支部のインテレイドが調査中だが、恐らく数百万はくだらないだろう」
全員が無言――。ユウが唾を飲んで喉を鳴らした。
「通常であればOLSで話し合うところだが、この件に関連した問題により、第二等以上の規制官のみによる直接会話となった。皆にはわざわざ出向いてもらってすまないが、理由については、後ほどクロエから説明してもらう。……ちなみにこれから話す内容については、ルーシーの限定記憶野を除いて、一切記録に残さない」
これは事前にも指示されていたことであったので、全員が既にOLSとのデバイス接続を解除していた。ルーシーが透き通った声でそれを伝える。
「――元素デバイスの通信状況を確認。OLSのアクティブ反応、ありません」
「ではまずヴァンデレイから報告を」とジョルジュ。
ヴァンデレイは鼻で荒い溜め息を吐いて、頭を掻きながら前に出た。
「フラッドが発生したのは、源世界の時間で約2時間前。現場は『インベイジョンライン』。9時間前に整合性破綻危機の報せを受けて自分が転移った時のフラッド発生予測値は26%でした――が、そこから7時間弱で、約90%まで跳ね上がりました」
「マジかよ。一瞬じゃねーか」とアマラ。
FRADの発生予測値が20%を超えると警告があり、規制官はその亜世界に転移して調査を行う段取りになっているが、通常その予測値の変化は数週間から数ヶ月、長ければ年単位の緩やかなものである。その為ルーラーの動きが後手に回る、ということはほとんど有り得ない。つまり警告から一日と経たずにFRADが発生するのは、異例中の異例、或いは異常と云えた。
「ええ。お陰で自分はほとんど何もできずに戻ってきたってワケですよ」
「原因は――?」とリアム。
「アイオードの解析じゃ、根本的な原因はインベイジョンライン全体の、情報粘度の急激な低下です。粘度低下のせいで本来起きないはずの事が次々と起きた」
「理由は?」とリアムが続けて問うと、クロエが口を開いた。
「――高粘度情報保持者の一斉喪失」
その見解にヴァンが頷く。
「当たりです。インベイジョンラインに存在する3名の主人公が、ほぼ同時に全員くたばりました。普通ならまず有り得ねえ話です。プロタゴニストってのは、亜世界の運命に護られてるはずなのに」
「だがその運命を覆した犯人がいる」とクロエ。
「……ええ。持ち帰った情報から、唯一源世界のどのデータベースにも該当しない名詞がありました。その名詞は『リマエニュカ』。恐らく犯人に関連した情報ですが、こいつに関してはデータの改竄も含まれていて、詳しい事は一切不明。――以上です」





