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竜の里の皇女と冷酷王子  作者: 井ノ上雪恵
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命懸けの戦闘訓練

「「「「ハァア!?」」」」

 王子達と声が重なる。どうやら知っていたのはハルカ様だけらしい。

 というか、否否否。

「えっ、でも私、戦闘なんて…」

「おい!その訓練の面倒を見るのは誰なんだよ!?」

 私が慌てて断ろうと口を開けると、シンラ様と被ってしまった。

「当然、俺達だが?」

 ハルカ様の言葉に、シンラ様とラサキ様の顔がこれでもかという程歪められる。アオイ様は笑顔を浮かべているが、どう見ても困り顔だろう。

「えーっと、何でいきなり戦闘訓練?その子って、竜さえ操れば良いだけじゃなかった?というか、訓練だけなら、ハルカ君一人でやってよ」

「俺じゃなくて、()()からの命令だ!訓練は全員参加!拒否権なし!戦闘訓練の話が出たのは、竜の里での闘いにおいて、こいつの身体能力がかなり高いことに気付いたからだ」

「「「…」」」

 苛ついたように声を荒げるハルカ様に、他の三人は納得していない表情のまま口を閉じる。

 否、そこはもう少し粘ってください。

 心の中で叫んでも、当然誰の耳にも届かない。

 確かに、竜の里は山々に囲まれた厳しい環境だ。そんな所で、人間よりも遥かに身体能力の高い竜達と一緒に様々な訓練をしてきた私は、他の人間よりも身体能力が高い。

 だが、だからといって()()()()に参加できるかと言われれば答えは否だ。

 …あれ?…でも…。

 そこでふと気付く。

 今思えば、私は竜を操る為の貴重な人材として連れて来られており、竜は戦闘における戦力として連れて来られている。

 つまりは、私は自分の手で、大切な竜達を人殺しの道具にしてしまうということだ。

 …そうだ。この人達は、あの達を武器として見ているんだ…。

 それは、嫌だ。

「…あ、あの!」

「何だ?」

 ハルカ様がこちらに顔を向ける。

 もしかすれば、言った途端殺される可能性だってある。それでも、これだけは言わなくちゃいけない。

 私は少しだけ息を吐くと、真っ直ぐにハルカ様を見据えた。

「私が戦闘でしっかりと役に立つことが出来たら!竜達を戦争の道具として扱うのは止めてください!!そのかわり!役に立たなかったら、殺してくれたって!どんな扱いをされたって構いません!!」

「…それはお前にとってどんな意味がある?」

「私はあの達に人殺しなんてして欲しくない!!その為なら何だってできる!!だから…グッ…アァアア!!」

 言葉の途中で、突然横腹に激痛が走ったと思えば、勢いよく城の壁まで吹き飛ばされる。そのまま壁に激突してしまい、背中を強打した。

「ゲホッ!ゴホッ!」

 上手く息が吸えず咳込むが、何が起こったのかと、とりあえず顔を上げる。

 そこには、右足を腰まで上げて、身体を斜めに倒した体勢で立っているシンラ様がいた。

 その状況を見るに、どうやら私はシンラ様に蹴り飛ばされたらしい。

「…おい、何付け上がってんだ?テメェの意見なんざ聞くわけねぇだろ。調子に乗ってると殺すぞ!テメェと俺達は対等じゃねぇんだよ!!」

 そう叫ぶと、シンラ様は身をかがめる。攻撃が来ると思い、フラフラと立ち上がるが、シンラ様が攻撃する前にハルカ様がそれを制止した。

「おい!何で止める!?ハルカ!手ぇ退けろ!」

 ハルカ様の腕を押し退けようとするシンラ様に、ハルカ様は「まあ、待て」と笑みを浮かべて言う。

 残念ながらその笑みに安心を得ることはできなかった。

「そこまで言うなら面白い。やってみろ。ただし、一週間の訓練で父上を満足させる結果が出せればだ。いいな?」

「…」

 挑発するかのような表情。

 受けて立ってやろうじゃないか。

「はい!」

「よし。…おい」

「はっ!」

 私の返事に満足したのか、ハルカ様は近くにいた兵士に呼びかける。

「今からこいつの身体能力テストをしろ。終わったら、俺達の元へ戻せ」

「はっ!かしこまりました!」

 敬礼した兵士はすぐに私の方に向き直る。

「シエル様!早速テストに取り掛かります!こちらへ」

「は、はい!」

 …え?私、横腹負傷中でテストするの?

 未だズキズキと痛む横腹は、まるで竜の尻尾で殴られた時のようだ。これが人間の脚力かと思うとゾッとした。


「…で、何で許可したんだ?」

 あいつが兵に連れられ、四人だけになった後、シンラが眉根を寄せて俺に話しかけてきた。

「父上が欲しているのは使い物になる戦力だ。竜でなくとも別に良い。もしあいつがそれ相応の実力を付ければ、竜の戦力も合わせて二倍の力が手に入る。竜を操るのは、あいつじゃなくてもできるらしいからな」

「!竜を操る方法をもう聞いたの?ハルカ君」

「ああ、後で父上に報告するつもりだ」

「じゃあ、俺達も竜を操れるようにするのか?」

 今まで興味なさげに聞いていたラサキが、こちらに視線を向ける。俺はその質問に、一瞬沈黙した。

 竜を操る為に必要なのは親密度とあいつは言った。そして、親密度を上げる為には竜の世話を焼くことが大事だと。

 しかし、王族である俺達がそんな召使いのするような真似をできるわけがない。そんなことは有り得ないことだ。

「…どうするかは父上の判断だ。とりあえず訓練をしろ!シンラ、相手になれ」

「おう」


 テストが終わった後、改めてハルカ様達のところへ合流すると、すぐにシンラ様と手合わせすることになった。

「せめてサンドバッグ代わりにはなれよ」

 指を鳴らしながら、舌舐めずりするシンラ様は嘲笑の笑みを浮かべている。

 はっきり言って、本当にシンラ様の言う通りサンドバッグ代わりになれば良い方だろう。それ程までに私とシンラ様とでは、圧倒的な実力差がある。

 だからといって、簡単に負ける気もないが。

「それでは、始め!」

「!…!ッ!」

 ハルカ様の合図と共に地面を蹴ったシンラ様は、一気に距離を詰めて、そのまま蹴りを繰り出してくる。

 竜達の動きに慣れている私は何とかその蹴りを躱すと、後方にジャンプし、一旦シンラ様から離れた。

 竜の里でも思ったが、彼らのスピードとパワーは、どう考えても人間のソレを軽く上回っている。

「躱したか…そうでなくちゃ、楽しめねぇ!」

「!…ウッ…ウワァア!!」

 突然姿が消えたと思えば、真横からパンチが来るのが見え、慌てて腕でカバーする。しかし、受け止め切れる訳もなく、普通に吹き飛ばされてしまった。

 …いったぁ!絶対、腕折れた。

 何という馬鹿力。痛みで目を閉じてしまうと、その瞬間にシンラ様が懐まで迫って来ていた。

 反応し切れず、まともに横蹴りを腹に喰らう。いとも簡単に吹っ飛ばされると、近くにあった大岩に思いきりぶつかった。

「ガハッ!…ゲホッ!ゴホッ!」

 腹も背中も酷い痛みに襲われる。

 が、しかし。ここで負ける訳にはいかない。

 まだ私は一発もシンラさ…シンラに喰らわせていない。やられっぱなしは嫌だ。

「ハハハ!もう終わりか?」

 余裕の表情でふんぞり返って笑っているシンラを睨んで、私は足に力を入れて立ち上がる。

 すると、シンラの笑みが消えた。

「何だよ、その目は。気に入らねぇ…な!」

「!ッつぅ!!」

 避けることもしないまま、シンラに頭から地面に叩きつけられると、人工芝に紅い華が咲いた。

 ぐわんぐわんと頭が揺れる中、決してシンラから目を離さないように、再度立ち上がる。重力に従って額から垂れてきた血が目にかかった。

 それでも、決してシンラを視界から外さない。

 ここで少しでも目を逸らせば、もう攻撃を追うことができなくなる。

「チッ!しぶといな。さっさとくたばれ…よっ!!」

 シンラは舌打ちをしながら、宙高く飛び跳ねると、私の脳天に狙いを定めて蹴りを繰り出してきた。

「ちょ!あれ、当たったら死ぬんじゃない!?」

「おい!シンラ!殺したら、命令違反だぞ!」

 意識の遠くでそんな声が聞こえた。

 当たれば死ぬ。その通りだろう。

 だが、死ぬ気は全くない。

「ハッ!死にたくなきゃ、勝手に避けろ!」

 鼻で笑うと、シンラはますますスピードを上げて、落下してくる。

 その時。身体から力が抜け、フラッと身体が傾いた。

「!」

 軌道修正できずに突っ込んできたシンラの蹴りは、斜め前に倒れ込んだ私には当たらなかった。

「チッ!…ウオッ!」

 一瞬の隙。

 ただ私が倒れただけだと思っていたシンラは、簡単に私の足に引っ掛かってくれた。

 そう、私は倒れる振りをして、シンラに足払いを掛けることが目的だったのだ。

 見事に地面に倒れたシンラに、思わず笑みが溢れる。

「テメェ!!殺す!」

 一息()く間もなく、直ぐに起き上がったシンラは、殺気を出しながら拳を振り上げた。

「そこまで!十五分。時間だ」

 シンラの拳が落とされる前に、ハルカの声が響く。

 どうやら、手合わせは終わったらしい。

「おい!せめて一発殴らせろ!」

「時間は時間だ。それに、これ以上やってこいつが死んだらどうする?」

「チッ!」

 大層忌々しそうに舌打ちを溢すと、シンラは何処かへと歩いて行ってしまった。

 …これでやっと、一息()ける…。

 ようやく去った命の危機に、今度こそ肩の力を抜く。

 すると…。

 …あ、れ…?

「おい、こいつの治療を…!」

 全身から力が抜け落ちて、近くにいたハルカに寄り掛かってしまう。

 …ま、ずい…早く、起きないと…。

 結局そこで、私の意識は途絶えてしまった。

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