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竜の里の皇女と冷酷王子  作者: 井ノ上雪恵
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兄妹

「ここがお前の部屋だ」

 連れてこられたのは、バルコニー付きの広々とした部屋だった。床も壁も白レンガでできているので色気がないが、ダブルベッドに立派な机と椅子、そしてクローゼット。竜の里のどの家よりも格段に豪華な部屋だ。

 戦に負けた国の捕虜は、もっと牢獄のような場所に監禁されるものだと思っていたが、むしろ今までよりもずっと贅沢な暮らしになりそうな気さえする。


 私は―竜の里は、やはりと言うか何と言うか、ウィスタル国に負けてしまった。村は焼き尽くされ、必死に闘ってくれた竜達は大怪我を負い、里の人達は私以外、皆殺された。

 ウィスタル国の目的は、竜の里そのものというより闘いにおける戦力補強らしく、竜達による武力向上が目当てだったらしい。そこで様々な竜が暮らす竜の里を襲い、竜達を確保。そして、竜を操る人間として私が生かされたのだ。


 今はウィスタルの乗って来た艦隊の内の一隻に乗り、竜の里から離れている最中だ。

 国土を持たない国というのは本当らしく、この四隻の艦隊が彼らにとって国土であり、国だった。一つの村程ある艦隊には町が栄えており、国民もそこで生活している。その上、四隻の内の一隻、つまりは私が今乗っている艦には何と巨大な城まで建っている。

 これには驚くしかないだろう。

「聞いているのか?」

「は、はい!」

 あまりの現実に思考が停止しかけていたが、ハルカ様の声で意識が呼び戻される。

 ハルカ様…フィリベンジャ・ハルカ。竜の里を襲ってきた時、艦隊の指示を出していた緑髪の青年だ。ウィスタル国の第一王子で次期国王になる人らしい。王子様らしく、その緑髪も髪に合わせたような新緑の瞳も、整った顔立ちも、全てが気品に溢れていた。

 これからは一応、立場的には私の兄となる訳だが、当然呼び方は『様』付けで敬語を使えとのことだ。まあ、私だってこんな人を「兄」だなんて呼びたくないので、別にいい。

「お前に聞きたいことがいくつかある」

「は、はい!何でひょう!?」

 相手が冷静であるのに対して、私は不自然すぎる程声を張り上げてしまう。しかも肝心なところで噛んでしまう始末だ。

 穴があったら入りたい。

「まずは…」

 …あ、スルーされた。

 やはりただの捕虜に興味なんてあるはずがないのだろう。何事もなかったかのように、ハルカ様は話を進める。

「竜を操ることは、誰でも出来るのか?」

「は、はい。竜との親密度を上げて、訓練すれば誰でも」

「どうやって親密度を上げる?」

「身の回りのお世話をしてあげたり、常に一緒にいたりすれば自然と…」

 まるで面接みたいだ。

 私の答えに、ハルカ様は悩むように口元に手を当てる。

「…あの…」

「とりあえず俺について来い」

「は、はい!」

 何の説明もなしに部屋を出ると、私はまたハルカ様の後を追いかける。

 …この人、本当に無愛想だなぁ。

 闘っている時はかなり生き生きとしていたように見えたが、実際は全く感情の起伏がない人だ。

 ウィスタル国の科学力で一番有名なのは、遺伝子に関する研究で大成した複製技術と人体改造技術。その為、ウィスタルの国民は皆クローンで、王族達も人体を改造されているという噂が流れている。

 聞いた時は有り得ないと思っていたが、目の前で王族自らが里を火の海にするのを見てしまった。

 今、目の前を歩いているこの男が何処となく機械染みているのも事実だ。

 …本当に改造人間なのかな?

 気になってしまっては仕方がない。私はハルカ様の背中をジッと凝視する。

「おい」

「は!はい!何ですか!?」

 急に呼びかけられ、その場で何故か敬礼してしまった。幸い、ハルカ様は変わらず前を向いたまま歩いているので、私は何もなかったかのように再び歩き出す。

「言っておくが、義理の兄妹と言ってもあくまでお前は我らの捕虜だ。本来なら、王族である俺が自ら貴様を案内などしたりしない。父上の命でやっているだけだ。調子に乗っていると殺すからな」

「は、はい…」

 横目で睨まれると、サッと血の気が引いた気がした。

 いきなりの忠告に驚くが、恐らく見つめ過ぎていたのがバレたのだろう。

 …というか、王族が簡単に『殺す』って…。

 やはり此処で暮らしていくなら、油断だけはしない方がいいだろう。正直、故郷を滅ぼした彼らに命乞いなどしたくない。殺されるのも勘弁だ。

 大人しく言うことを聞くのが無難な道だ。


 そんなことを考えていると、いつの間にか城の外まで出ていた。

 そこには沢山の兵士と思われる逞しい男性と、残りの王子達が戦闘訓練をしていた。

「!おっせーよ!ハルカ!」

 ハルカ様の姿に気付いたシンラ様が、開口一番文句を言って顔を顰める。

 その横では、軽く手合わせをしていたラサキ様とアオイ様が構えを解き、無表情に私達を見つめた。

 シンラ様は第二王子だ。右目はその深海のような青い前髪で隠れているが、左目からその美しい青色が覗いている。第三王子のラサキ様と一卵性らしく、二人の顔立ちはとてもよく似ていた。違うところは髪の色と眉の向き、後は髪型くらいだろう。シンラ様が青髪であるのに対して、ラサキ様は鮮やかな菫色の髪をしていた。そして最後に第四王子のアオイ様。綺麗な金髪に、ハルカ様と同じ緑色の瞳を持った青年だ。アオイ様が私と一番歳が近く、私の一つ上、つまりは十六歳らしい。

「というか、ハルカ君。何でその子、連れてきたの?」

 …『君』呼び…。

 アオイ様の呼び方につい反応してしまったのは、不可抗力だろう。

 第一王子である兄のことを『君』呼びなんて、よくハルカ様に許されたものだ。

 それよりも、今思えば私自身、どうして此処に連れてこられたのか説明を受けていないことを思い出す。

 まあ恐らく、ただの見学だろうが。

「父上からの命令だ。こいつも戦闘訓練に参加させろとのことだ」


 …。


「「「「ハァア!?」」」」


 どうやら、大人しく言うことを聞くだけでは、安全に過ごせないらしいです。

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