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竜の里の皇女と冷酷王子  作者: 井ノ上雪恵
18/20

おつかい

 真っ青な空に白銀が舞う。

 朝の涼しい風が肌を撫でていくのが心地良い。

 いつ飛んでも、やはり空を翔けるのは最高だ。

「気持ちいい〜!ね?ニア」

「キュー!!」

 ニアの首筋を撫でると、ニアは楽しそうに応えた。

 まだまだ私が小さい頃から、ニアは私を背に乗せていたが、大きくなった今でも軽そうに空を舞ってくれる。まあその分、ニアも成長したのだから当然だが。

 随分と立派になった身体に手を滑らせて、同じく立派になった翼に目が止まる。

 …良いなぁ…。

 自由に空へと羽ばたける翼が子供の頃から羨ましかった。

 私もニアと一緒に空を飛びたい。

 私にも翼があれば良いのにとずっと思っていた。

「いつか絶対!一緒に空を飛ぼうね!ニア」

「キュー!!」



「ふぅー!気持ちよかった!」

 ニアの背から降りて、思いきり身体を伸ばす。ニアもニアでゴロゴロと芝の上を転がっていた。

「一休みしたら戻ろっか!」

「キュー!」

 ニアに告げると、私は芝に腰を下ろし、ズボンのポケットから草笛を取り出した。

「また脱走か?」

「!!」

 草笛に口をつけた瞬間、後ろから降ってきた声に思わず私は勢いよく立ち上がる。

「は、ハルカ様…」

 恐る恐る振り返れば、昨日と同じように窓に寄り掛かって腕を組んでいるハルカと目が合う。

 …えぇ、まだ朝の五時なのに、何でこの人もう起きてるの?

 昨日といい今日といい、ハルカは一体何時に起きているのだ。いや、そもそも寝てないかもしれない。

 …ま、まさか…身体を改造されたときに眠らなくて良いようにされちゃったとか…。

「何ジロジロ見てんだ、テメェ」

 ジィーッと見つめていると、ハルカにギロリと睨まれる。

「あ、いや…昨日も早起きしてたし、ハルカ様、もしかしたら寝てないのかなぁと思いまして…」

 しどろもどろに言うと、ハルカはハァと一つ溜め息を溢した。

「くだらねぇ。寝てねぇわけねぇだろ。ただショートスリーパーなだけだ」

「ああ、なるほど」

 私が素直に納得すると、ハルカは「馬鹿だな」と吐き捨てた。

 たったこれだけで馬鹿扱いとは、今日も今日とてハルカは失礼極まりない。

 …うん。やっぱりウィスタルに残っても良いことないよ!うん!

 馬鹿にされ過ぎて、ついついハルカ達に暴言を言ってしまう前に、さっさとこの国を出ようと決心する。

「それより、丁度良かった。お前、今から薬室に薬品取りに行ってこい」

「へ?」

 急な命令に間抜けた声が漏れる。

 そんなこと気にせず、ハルカは薬室の場所の説明を大雑把にしてくれた。

「俺の部屋を出たら真っ直ぐ進んで、右曲がった突き当たりだ。赤いラベルの奴、適当に何種類か持ってこい」

「え、適当!?」

 いやいや、いくらなんでもそれは本当にテキトー過ぎる。

 …薬品って、そんな簡単に持ち運んで良い奴じゃないよね!?

 危険な香りがプンプンするが、多少危険でも、ハルカにとっては私がどうなろうとどうでも良いのだろう。そんな態度がありありと窺える。

「ほ、本当に適当で良いんですか?」

「良いっつってんだろ。あー、後、勝手に蓋開けんなよ。液体が身体に掛かると…死ぬぞ?」

 ニヤリとハルカの口角が上げられる。

 その悪魔の笑みにサッと顔が青ざめるが、内心では「デスヨネー」と現実逃避していた。

 …うんうん!やっぱり今すぐにでも出て行った方が良いよ!こんな国!!うん!!

「…じゃあ、いってきます!」

「うるせ…朝っぱらからでっかい声出すんじゃねぇよ」

 ハルカの文句は聞こえなかったことにして、草笛を取り出すと一音だけ音を響かせる。

 すると、今までハルカの部屋の庭でゴロゴロと寝転がっていたニアが起き上がり、私の隣に立った。

「ニア、一緒におつかい行こっか」

「キュー!」

 ニアの元気な返事に荒んだ心が癒されると、もう気分は与えられた任務を全うすることに向けられる。

 別に煽られた訳でも、喧嘩を売られた訳でもないが、言われたことをちゃんと成し遂げられる奴だと、ハルカに思わせたい。

 …理由はどうあれ、頼られるのは別に悪い気しないしね。

 例えそれが、使い勝手の良い駒くらいにしか思われてなくても。

「よし!ニア!出発!!」

「キュー!!」

 私が片腕を掲げると、ニアも小さな腕を真上に上げた。

「だからうるせぇ…」

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