真面目な戦闘訓練2
「「…」」
お互い位置について見つめ合う。
「…行きます!」
宣言してから地を蹴ると、一気に距離を詰めて、ハルカの首を狙いナイフを横に振るった。
ハルカは兵との手合わせの時のように前方へ飛んで私の背後をとる。
…やっぱり!
すぐさま体勢を整えると、左足を軸として、右足を身体ごと振り上げた。回し蹴りだ。
すぐに攻撃が来ると思わなかったのか、反応が遅れたハルカは慌てて身体を反らせるが、それでも前髪に蹴りが掠った。
「!」
…やった!
私が心の中で無邪気にガッツポーズを取っていると、ハルカは一旦距離を置こうと後方へジャンプする。
逃がすまいと、私はハルカが着地するタイミングに合わせてナイフを投げた。真っ直ぐにハルカの肩を捉えたナイフは、結局ハルカに当たることはなく地面に突き刺さる。ハルカが身体を捻って、それを避けたのだ。
だが躱されるのは想定内だ。ナイフを投げたと同時に飛び出していた私は、ナイフを躱したすぐで体勢の整っていないハルカの顔にパンチを突き出す。
どうやっても避けることはできない。
…当たる!!
「ッ!」
「!うわっ!」
が、しかし。
私の拳はハルカの手によって受け流され、勢い余った私はそのまま地面に突進してしまう。
…あれ?
思いきり地面にぶつけた鼻を右手で押さえながら、上半身を起こし、ハルカへと視線を向ける。
ハルカは今回、避ける以外のことをしないのではなかっただろうか。
「あ、間違えた」
ボソッと呟かれた一言を私は聞き逃さなかった。
「な!何で受け流すんですか!?避けるだけって言ったのに!!」
「う、うるさい!!ついだ!つい!それに実戦だと、敵は防御も攻撃もしてくるんだぞ!?それくらい対応しなくてどうする!!」
私が責めると、逆にハルカが怒り出した。
正直逆ギレだと思うが、言っていることは正論なので、私もそれ以上は押し黙る。
「そ、それは…そうですけど…」
「ハハハハハ!!ダッセー!ハルカ、負けてんじゃねェか!!」
「負けてない!!」
突然頭の上から笑い声がしたと思えば、いつの間にかシンラが私の真後ろに立っていた。指を指して大笑いするシンラに、ハルカは目一杯睨み返す。
「それにしても、よく手合わせ見ただけで、ハルカ君から一本取れたね。ナイフの使い方はあれだけど」
アオイは私の隣に並ぶと、ニコッと笑んだ。すると、すぐにハルカから「取られてない」という怒号が飛ぶ。
「あ、えっと…ナイフの使い方はわからなかったけど、ハルカ様の避ける時の癖がわかったので…」
「癖?」
「はい。ハルカ様は避ける時、絶対相手に反撃し易い場所に行くんで、そこを狙って…」
「先回りしたと」
私が頷くと、アオイは「へぇ」と言って含んだ笑みを浮かべた。
「…油断してやられるとかダセー」
「ッ!だから!やられてないと!…言ってるだろう…がァア!!」
「「「!」」」
ラサキまで意地悪く笑いながら近くまで寄ってくると、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ハルカは般若のような表情でシンラ達を全員投げ飛ばした。
ゴミ山のように積まれたシンラ達の頭には、痛々しいたんこぶが腫れ上がっている。
…すごい、一瞬で…。
流石はウィスタル王国第一王子だ。
あのシンラでさえ、あっという間に倒されてしまった。
「はぁ…ったく…おい」
「ハイ!」
苛立った口調のまま呼ばれて、背筋が無意識に伸びる。
「午前の訓練、お前の分はもういい。部屋でも行ってろ。邪魔だ」
「へ?」
しっしっと手を振るハルカに、私は間抜けな声が出た。
…「もういい」…?
もしかしなくとも、これは自由時間だろうか。
捕虜の自分に自由な時間があるとは思っていなかった。
「あ!じ、じゃあ!竜達を空で飛ばせてあげても良いですか!?」
「…確か、空を飛ばないと、ストレスが溜まるんだったな…別に良い…が!終わった後は檻に戻せ。良いな?」
「!はい!ありがとうございます!!」
顔を顰めながらも了承してくれたことに嬉しくなって、お辞儀をした後、すぐに竜達の元へと駆けて行く。
…覚えてくれてたんだ…。
何故か自分の口角が上がっていることに気付き、頬を両手で押さえた。
きっとこれは、竜達を飛ばせてあげられることが嬉しいからだ。
私はそう無理矢理結論づけた。